【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
Part-A
後に『バトル・オブ・パリーヌ』と語り継がれることになるパリーヌ防衛戦の開始まで、残りわずか。
帝国の機動要塞は依然として、パリーヌ星から384,400km離れた宙域で静かに沈黙を保っている。光の速度であれば一秒強で到達できる距離だが、ここは惑星重力圏の只中だ。霊子出力が制限されるこの環境では、通常の星間機動戦のような亜光速を出すことは叶わない。
要塞はその巨体で恒星の光を遮り、惑星パリーヌの地表へ不気味な円い影を落としていた。
フランクス・皇国の連合軍は、既に全機を所定のポジションへ配置。HF隊を前面に押し出し、艦隊を後衛に据える陣形を敷いている。対する帝国軍も、機動要塞の前面にHF隊を厚く配し、要塞の背後に主力艦隊を展開。
双方が最強兵器であるHFを主戦力に据え、真っ向からの決戦を望んでいた。
敵味方合わせて160機以上が激突する、銀河国家群の歴史上、最大規模のHF戦。
その口火を切る大役を担ったコールサイン『ブルーリボン01』の機内へ、通信が入る。
『ブルーリボン01。こちらホワイトアイ』
「ホワイトアイ。こちらブルーリボン01。どうしたの?」
今回、横田ユイは中隊指揮から外れているため、横須賀リンの早期警戒管制機との直接的な連携はない。
『あー……どうしているかなと思って。大丈夫、落ち着いてる?』
どうやら、親友として心配してくれているらしい。流石は士官学校時代からの付き合いだ。
「心配無用よ、大丈夫。……力は、しっかり貰ったからね」
『力? ……まあ、それだけリラックスしているなら安心したわ』
リンの声に安堵の色が混じる。
力は、レイから貰った。今ならどんな困難も打ち破れそうな、底知れない万能感に満ちている。これこそが、かつてヒルダが口にしていた「愛の力」なのだろうか。
『私は全体への機体情報提供。シュユは霊電子戦で手一杯。アラヤはもし艦隊戦になった時に備えて待機中よ。ごめんね、402隊は直接戦闘には出られないわ』
「何を言ってるの、十分よ」
作戦遂行のため、敵HFの情報を取得し、逐一味方HFへマッチングする膨大な作業。たとえ
『気になったから、一点だけ。例のヒルダさんのHFだけど……今のところ、敵の布陣には出ていないみたい』
「えっ?」
『まだ要塞内に控えているのか、あるいは別の場所にいるのか。ちょっと不気味だから、気をつけて』
「分かった。ありがとう、リン」
『じゃあ、頑張ってね』
「うん」
短く応じて通信を切る。
ヒルダが所属する帝国国防軍第3、4機動隊群は、既に機動要塞と合流しているはずだ。先の戦闘で僚機はレイが撃墜したが、ヒルダのHFは無傷で残っている。
嫌な予感は拭えないが、今はただ、己の役割を全うするのみ。
仮想空間の時計が、作戦開始の時刻を告げようとしていた。
その時、友軍の全体通信が割り込む。
『……こちらフランクス国王、シャルルⅢ世だ』
メインモニターに、見慣れた顔が映し出される。今日の彼は、一人のパイロットとしてHFのスーツに身を包んでいた。
『まずは、謝辞を述べたい。フランクス国民、協力してくれたローマリア軍。そしてワタシを正しき道へと導いてくれた
スクリーンの中で、若き王が静かに頭を下げる。
『さて、全HF戦闘員の諸君。我々はこれから帝国機動要塞への侵攻を開始する。
一度言葉を切り、彼は力強く拳を握りしめた。
『この戦いこそが、最後の戦いとなるだろう! 我々は必ずや、勝利を掴み取る!』
気合の入った宣言が、全軍の士気を爆発的に高めた。艦内各所から、地鳴りのような歓声が上がっているのが伝わってくる。
士気は最高潮。精神で負ける要素はない。あとは、開戦の瞬間を待つだけだ。
『作戦開始まで、残り一分』
国王に代わり、オペレーターの冷静なアナウンスが響く。
ユイは仮想空間のコックピットで深く息を吐き、覚悟を定めた。
『……残り三十秒』
仮想コックピットの操縦桿から手を放し、HFの素体と意識を完全に同調させる。愛用の薙刀を、魂ごと握り込む。
『十秒前』
アイドリング状態だった素体が一気に活性化し、凄まじい出力が機体を駆け巡る。
『五、四、三……』
静止していた味方HF群の中で、ブルーリボン01がひときわ鮮やかな青い光を放ち始めた。
『二、一……作戦、開始!!』
「ブルーリボン01、エンゲージ!」
弾かれたように飛び出したブルーリボン01は、目にも留まらぬ一閃で、最前列に居た帝国軍HFを一瞬のうちに葬り去った。