【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
帝国の皇帝親衛隊は、精鋭中の精鋭で構成されている。その愛機もまた、皇帝の象徴である赤で塗装されたティーガーⅡに統一されていた。
だが、その中に一機だけ、機種の異なる赤い機体が混ざっていた。連邦製HFを改修したHFF-15E ストライクイーグル。搭乗しているのは、元連邦兵のビュート・アーガイル大尉である。亡命後、彼が積み上げてきた多大なる功績が認められ、帝国の伝統である能力主義によって、異例の親衛隊入りを果たしていた。
「陛下……!」
守るべき主君が、あろうことか敵王と一騎打ちを始めた。護衛として罠を警戒し、加勢しようと機体を前進させるビュート。だが、それを古参の親衛隊員が制した。
『待て、大尉。陛下がお望みのことだ。……最後まで、見届けさせて差し上げろ』
「しかし! 敵の術中に嵌まっている可能性も……!」
『まあ、聞け。これは我ら親衛隊の、ごく一部の者にしか明かされていない話なのだがな……』
隊員の語る事実は、ビュートの想像を絶するものだった。……陛下は、その頭の中に「死の爆弾」を抱えているのだという。
かつてのサミットテロにおいて、唯一の生存者となった皇帝。だが、その代償は小さくなかった。顔の傷は癒えたものの、脳の深部へ微細な木片が入り込み、それがいつ血管を突き破り、命を奪ってもおかしくない状況だ。
開頭手術による除去は可能だが、それは同時に、類稀なる
皇帝は手術を拒絶した。開魂者として誇り高く生きることを選び、ならば戦士として、戦場にて華々しく散ることを切望していたのである。
「そんな……陛下……っ」
『我々にできるのは、その最期を見守ることだけだ。だが、陛下の志を汚す不届き者は断じて許さん。一騎打ちを邪魔する羽虫を、一匹残らず叩き落とせ!』
視界を確認すれば、親衛隊の各機を狙って、黒い装甲に赤いラインを走らせた皇国の零式が猛攻を仕掛けてきていた。ビュートは唇を噛み締め、迎撃へと意識を切り替えた。
「了解しました……。誰一人として、陛下の邪魔はさせない!」
――
「残弾ゼロ! パージ!」
99式2号250mm連装機銃の咆哮が止まり、ブルーリボン01はデッドウェイトとなったストライクパックを即座に排除した。
緒戦こそ不意を突いて一撃で屠れていたが、戦局が中盤に差し掛かると敵も対応を見せ始め、機銃による牽制で隙を強引に作り出し、そこを突くという綱渡りの戦闘を強いられていた。
そして終盤、ついに弾薬を使い果たした。残る武器は、近接戦用の薙刀ただ一本。
敵の最終防衛ラインは目前。だがそこへ、回り込んできた二機のティーガーが壁となって立ちはだかる。
一機を薙刀で強襲するが、敵は徹底して防御に専念しており、容易には崩れない。手こずれば、もう一機が横槍を入れてくるのは明白だった。
「くっ……!」
突撃以来、初めてユイの速度が殺された。もう一機のティーガーが、その決定的な隙を突こうと片手斧を振り上げる。
防御すら間に合わず、衝撃を覚悟したその瞬間。
割り込んできたブルーリボン02が、弾丸のようなショルダータックルで敵機を豪快に吹き飛ばした。
『01、止まるな! 前だけを見て!!』
「……っ!!」
レイの、魂を揺さぶるような叱咤。ユイの瞳に再び、鋭い光が宿る。
(そうだ……後ろには、レイがいる! アタシは前だけを、敵だけを見ていればいいんだ!)
気づけば、ここまで執拗に追撃してきた敵は一機もいなかった。背後にあるすべての脅威を、レイがその身で引き受けてくれていたのだ。
(テン・シント流薙刀術極意、ジュウモンジの薙刀!)
薙刀の石突で敵ティーガーのラウンドシールドを強烈にカチ上げ、重心を崩させる。その刹那、翻した刃で横なぎの一閃。縦と横の連続攻撃が、完璧な十字を宙に描いた。胴体を一刀両断されたHFは、急激な光子の開放で、大爆発を起こす。
ブルーリボン01は、その爆炎の中を、切断された残骸を潜り抜けるようにしてさらに加速した。
もはや、行く手を遮るものは何もない。
「ブルーリボン01、敵HF群を突破!!」
続く