【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
Part-A
ユイの視界一杯に、機動要塞『月』が迫る。着地に備えて減速すべく、機体の姿勢を制御した。
その瞬間。
「なっ!?」
突如としてガクンと衝撃が走り、重力に捕らえられる。その値は0.17G。居住惑星の約1/6だ。直前まで無重力だった身体には、そのわずかな重みさえも重圧に感じられた。
どうやら空間安定フィールドを通過したらしい。通常、これほどの規模の空間安定には巨大な霊符着空機を必要とするが、この機動要塞は不可視のフィールドによってそれを実現している。未だ銀河国家群の手には届かない未知の技術。これもまた、先史文明の遺跡が秘める力なのだろうか。
しかし、思考に耽っている暇はなかった。重力の影響によって
ユイは重力制御装置とイオンドライブスラスターを全開にする。機体は悲鳴を上げるような震動を上げ、月面への激突を辛うじて免れた。
『01! 大丈夫!?』
「こっちは平気! 02は!?」
『大丈夫。なんとか無事、着地できたよ』
レイの声に安堵する。彼も無事に月面へと降り立ったようだ。スラスターの噴射によって巻き上げられた月の砂――レゴリスが、不透明な霧となって周囲を包み込む。視界はゼロに近い。辛うじて近くに、ブルーリボン02のシルエットが確認できる程度だ。
低重力かつ大気のないこの地では風が吹かないため、レゴリスの煙は拡散することなく、いつまでも宙を漂い続けている。
「一旦、ここを離れ……」
言いかけたその時、煙の向こう側で鮮やかなオレンジ色の光が爆ぜた。
咄嗟の反射で、隣の02を力任せに押し倒す。その直上を、巨大な炎の刃が薙ぎ払っていく。
ユイは02と共に、レゴリスの煙から必死に脱出した。
ようやく視界が開けた先に、二機の敵HFが悠然と待ち構えていた。
魔術の炎を刃に纏わせた
そしてもう一機。真紅のマントを翻し、背中に巨大な両手剣を背負った重装甲の機体。ティーガー系列の最新鋭機であろう。
『また会えたわね、ユイ!』
「だから、こんな時には会いたくなかったって言ってるでしょ!」
――
機動要塞の前面空域、特にその中央部は、敵味方が入り乱れる空前絶後の大混戦と化していた。
ゴウガの零式とデルフィーヌのラファールMも、その死線の渦中にいる。
「レ・ブルー5。敵機一機、撃墜いたしましたわ!」
『よくやった! 次に行くぞ、フィー!』
二機は空戦の定石である「ロッテ戦術」を展開していた。
この作戦において、二人はデルフィーヌのコールサイン『レ・ブルー5』を長機とし、ゴウガの『グリーンフラッグ02』がそれを支える形をとっていた。
本来の作戦では敵一機に対して味方一機が当たることになっているが、二人はロッテを組んで襲いかかることで短時間に一機を仕留め、即座に次の標的へと向かう手法をとった。乱戦下においてはこの合理的な戦術が極めて有効に作用し、既に四機の撃墜を記録している。
「次ですわ! 逃がしません!」
デルフィーヌが鮮やかに敵を仕留め、さらに加速する。これまでの訓練の成果か、ゴウガとの連携は驚くほど噛み合っており、まるで何年もコンビを組んでいたかのようであった。
しかし、戦場は極限の混乱の中にある。狭い空域に機体が密集し、敵味方を問わずニアミスや事故が頻発していた。
デルフィーヌの機体も、敵を回避しようとした味方HFと一瞬の接触を余儀なくされる。
「きゃあっ!?」
わずかに姿勢を崩したその隙を、標的にしていた敵機が見逃さなかった。背後から無慈悲な銃口が向けられる。
『フィー!』
だが、絶好のタイミングでゴウガがフォローに割って入り、敵機を瞬時に撃ち抜いた。九死に一生を得る。
『大丈夫か、怪我はないか!』
「ええ、平気ですわ。……ありがとうございます」
『僚機なんだから、当たり前のことだ。ぼうっとするな、次だぞ!』
当然のことだと断じるようにゴウガが応じる。デルフィーヌはその言葉に力強い安心感を覚え、再び戦場へと意識を研ぎ澄ませた。
「ええ! 次ですわ! エンゲージ!」