【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
Part-A
『ユイ! 大丈夫!?』
「ええ、平気よ」
なんとかヒルダを退け、もう一機と共に撤退させることに成功した。
本当に、紙一重の勝利だ。薙刀が損壊した時にはどうしょうかと思ったが、おじい様の言葉を思い出して棒術に切り替えたのが功を奏した。奇襲に近い戦法だったが、それがなければ今頃どうなっていたか分からない。
最後に繰り出した技は、低重力下ゆえに肩車のような形になってしまったが、本来は敵の鎧兜に飛び乗り、自重と筋力で首の骨を折り、そのまま引き倒して首を狙う。
まさに薄氷を踏むような勝負。次に戦って勝てる自信は、正直に言ってない。目の前に横たわるヒルダのHFアードヴァークの無残な姿は、一歩間違えればユイの零式の姿だったかもしれないのだ。
だが、感傷に浸っている暇はない。すぐに出発したいが、手元には主武装がない。
(ヒルダ、これ……借りるね)
アードヴァークが手放していた
「さあ、急ぎましょう。アダムズ・クレーターへ」
――
「レ・ブルー5、敵機撃墜! これで5機目です!」
「グリーンフラッグ09中破! 戦闘不能のため帰艦します!」
「ブルーリボン03敵機撃墜! 自機も小破していますが、戦闘を継続します!」
DDH-5184『かが』のブリッジには、HF隊の戦況が次々と飛び込んでくる。
「整備班、中破機体の受け入れ準備! 砲雷科、援護の魚雷を放て!」
艦長、呉ナナ1等術佐の鋭い檄が飛ぶ。
入ってくる報告は吉凶が入り混じり、ブリッジの面々は固唾を呑んでモニターを見守ることしかできない。味方が損害を受ければ救援を出すのみ。ナナは、そのもどかしさに歯噛みする。
戦況全体を見れば、敵味方ともに約二割の損耗で拮抗していた。もしこの均衡が崩れれば、フリーになったHFが軍艦を襲う地獄絵図となる。味方に有利に傾けばよいが、敵に押し切られれば敗戦は必至だ。
作戦の主攻であり、敵陣を突破したブルーリボン01が月面に到着したとの報告は既に受けている。彼女たちが機動要塞のコアを破壊するまで、この戦線を維持し続けなければならない。
「オーガー01、反応消失!」
「!?」
コールサイン『オーガー01』。近衛仕様のHFを駆る春日ツクモ3等武佐の機体だ。ナナは思わず腰を浮かせそうになった。
「救援信号を確認! 機体は大破した模様です!」
信号が出ているということは、
「直ちに救援魚雷を射出!」
放出された操魂球を回収するため、無人回収機を急行させる。通常、脱出した操魂球を攻撃することは戦時条約上の禁忌だが、戦場では何が起こるか分からない。逆上した敵に狙われる前に回収するのが鉄則だ。
『こちらオーガー01。……すまん、落とされちまったよ』
ツクモからの通信が、直接艦長席へと繋がれた。通信士の計らいだろう。ナナは公私混同を厭う立場ではあったが、今は彼の声を直接聞きたかったため、その越権を不問に付した。
「大丈夫なの!?」
『ああ、怪我はない。相手の赤いイーグルも脱出したようだ。なかなかの強敵だったが、なんとか相打ちに持ち込めた。約束通り、一機は落としたぞ』
「もう……分かったから、さっさと帰ってきなさい」
『あいよ。……あ、悪いが長曽祢虎徹も回収しておいてくれるか?』
「そんなものより、自分の身を心配しなさい!」
突き放すように言って通信を切るが、彼女はすぐに刀の回収用魚雷も手配した。
ナナは改めて姿勢を正す。ツクモの無事に安堵したが、戦闘はまだ終わっていない。前線で死闘を繰り広げるHF隊を、持てる力のすべてでサポートしなければならない。
あとは、ユイの結果を待つのみだ。
「お願い……横田さん……」