【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
ユイたちは重力制御を駆使して月面すれすれを低空飛行し、ついにアダムズ・クレーターへと辿り着く。道中、敵の妨害を警戒していたが、ヒルダの言葉通り帝国軍はアリスタルコス・ベース側に兵力を集中させているようだった。
「確か、この辺りに入口があるはず……」
クレーターの縁付近を丹念に捜索する。S-Filesに示された座標はこの辺りだ。HFの指先で壁面をなぞり、隠された仕掛けを探していた時、その手が不自然に壁を通り抜けた。
立体映像によるホログラム・カモフラージュ。HFの鋭敏なセンサーすら欺くその技術に、ユイは戦慄する。宇宙人の遺跡の力……帝国もこれを見つけることはできなかったのだろう。
カモフラージュされた岩壁の奥へ踏み入ると、HFが一機通れるほどの巨大な扉が現れた。扉の表面には、葉っぱを模したマークが刻まれている。
「レイ、周囲の警戒を頼むわ」
『了解』
ユイはHFを安定した姿勢で待機させ、胸部装甲を展開した。
巨大な金属扉の右下。人間が操作するための古いコンソールが設置されていた。ユイはそのキーボードに向き合い、指定されたキーワードを打ち込む。
「ええと……K、I、B、O、U。……希望、ね。なんで皇国語なのかしら」
S-Filesに記されていたのは、扉を開くための鍵。入力が完了すると、重厚な扉が低い地鳴りを立てて開き始めた。ユイは急いで機体へと戻る。
レイを呼び寄せ、二機で扉の奥へと侵入した。内部は高度な人工構造体となっており、斜め下へと続く巨大なトンネルが伸びている。かつて斜め式エレベーターとして機能していたであろうレールが見えるが、今はエレベーター自体の姿はない。
「じゃあ、行くよ」
『うん』
イオンドライブスラスターを吹かし、一気に深度を下げる。真空のトンネル内には空気抵抗もなく、二機のHFは闇の中を加速し続けた。
――
『先生!
弟子である少年祭司からの通信が、灰色のローブを纏った禿頭の男――“魔人”グンテル・グリュックスブルク中佐の耳に届いた。
「何だと? アリスタルコス・ベースの防衛線を突破されたのか?」
『いえ、別の場所……アダムズ・クレーター側から霊波反応が出ています!』
「そうか……。侵入経路を示す別のS-Filesが存在したということだな。月面を抜けてきたのなら、あの英雄殿も敗れたということか……。お前たちは直ちにここを離れ、アリスタルコス・ベース経由で艦隊に合流せよ」
『えっ!? 先生はどうされるのですか!?』
「私はここを離れるわけにはいかない。君たちだけで行くんだ」
『そんな、無茶です!』
弟子たちから次々と悲痛な声が上がる。
「案ずるな。お前たちは、ここで収集した技術情報を何としても持ち帰るのだ。……これからの帝国の未来のために」
グンテルの断固たる口調に、少年祭司たちは後ろ髪を引かれる思いで撤退を開始した。灰色ローブの魔道砲兵型HFシュトルムティーガー数機が、ベースへと続く通路へ消えていく。残されたのは、グンテルの駆る魔道重砲兵型HFシュヴェラー・グスタフただ一機となった。
少し離れた場所で、瓦礫が爆発するように吹き飛ぶ。侵入者が到着したのだ。
――
ユイたちが長い通路を降り切ると、そこには巨大な防壁があった。操作盤は見当たらず、物理的に破壊して中へ入る。すると、広大な球状空間の内部へと躍り出た。
「ここは……?」
そこは月面とは逆に、球状空間の外周に向かって重力が働いていた。遠心力によって擬似重力を生むスペースコロニーのような構造。そして中心部には、恒星のように光り輝く球体が浮かんでいる。
二機が呆然とその光景を見つめていた時、突如として通信が割り込んできた。
『ここはコアの内部だ。皇国の戦士よ』
「!?」
周囲を探ると、少し離れた位置に一機のHFが佇んでいた。
それは、異様な姿だった。
重厚な装甲ではなく、帝国の術士が纏うような灰色のローブを羽織り、髑髏を模した仮面を付けている。さらに不気味なのは、その機体が巨大な十字架に括り付けられていることだった。
まるで、
『コアと呼んでいるこの直径13.75kmの球体は、先史文明の移民船そのものだったのだ。彼らは数十億年の歳月をかけ、別の銀河からこの地へと辿り着いた』
「な、何を言っているの?」
『最期の授業だよ。……君たちの目的はコアの破壊だろう? 私自身がこのコアの制御システムに直結している。私を倒せば、コアごとこの機動要塞を無効化できるぞ』
「……一体、何が目的なの?」
『これからは、君たち若い世代の時代だ。……さあ、決着をつけようではないか』
術士はそう告げると、機体を十字架から力任せに引き剥がし、死神の鎌を思わせる巨大な武器を振り上げた。
髑髏の仮面を付けた灰色のHFが、ブルーリボン01へと襲いかかる。
「くっ!」
ユイはヒルダから借りた
手応えは、あまりにも確かなものだった。
『陛下……お先に参ります……』
その最期の通信を最後に、機体は沈黙した。
「な、なんで……?」
敵は、避けようともしなかった。あまりに呆気ない幕切れに、ユイは戸惑いを隠せない。
『ユイ!』
「はっ!?」
レイの鋭い声に我に返る。敵HFから
二機が急いで距離を取った瞬間、灰色のHFは大爆発を起こした。
呼応するように、空間の中心にあった光り輝く球体に亀裂が走る。次の瞬間、それは爆縮を起こし、周囲のすべてを飲み込む黒い球体へと変じた。
明かりを失った球状空間が、崩壊の唸りを上げ始める。
「やばい! 逃げるわよ、レイ!」
『了解!』