【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ   作:ガルカンテツ

216 / 300
Part-C

 激戦が続く戦場の中心で、ひときわ目を引くマントを翻す二機が切り結んでいた。

 

 一機はフランクス国王機、ラファールM剣士型HF。もう一機は帝国皇帝機、カイザー・ティーゲル。

 

 両者は時に足を止めて刃を交わし、時に超高速機動で宇宙を翔ける。絡み合う彗燐光の軌跡が、虚空に光の螺旋を描き出していた。

 

「がっはっはっ! 楽しい! 楽しいぞ、若き王よ!」

 

 帝国皇帝フリードリヒⅣ世は、剥き出しの歓喜を上げ続けていた。

 

 カイザー・ティーゲルは、二振りの巨大な両手斧『グレートアクス』を、その剛力をもって自在に操る。並大抵のHFならば防御ごと一両断にするであろう猛攻だが、フランクス国王はそれを許さない。

 

 王は斧の重量を乗せた重い一撃を、細身のサーベルで滑らかに受け流す。あたかも風をいなすかのような流麗な身捌き。それだけでなく、皇帝が体勢を崩したわずかな隙を逃さず、鋭い刺突を叩き込んでくる。

 

 心からこの戦いを享受している皇帝の脳裏には、若き日の記憶が蘇っていた。

 

――

 

「フリッツは、剛の技だな」

 

 連邦の大学に留学中だったフリッツ……後の皇帝フリードリヒⅣ世は、時折寮を抜け出しては遊びに興じていた。

 その遊び相手は、皇国の(みかど)候補であるキミヒト。共に行き着く先は、巨大国家を統べる最高権威という共通の宿命を持った二人だ。

 

 二人は共に講義をサボっては街へ繰り出し、買い食いを楽しみ、公園で昼寝を貪り、お目付け役たちを困らせていた。

 

 そして何より、同じ武を志す者として、剣を交えることが常であった。

 

 ある日の稽古を終えた休憩中、キミヒトが漏らした言葉に、フリッツは首を傾げる。

 

「ゴウ……とは何だ、キミヒト?」

「共通語で言えば『hardness』だな。要するに、硬く力強い技のことだ」

「がっはっは! その通りだ! 儂は力が自慢だからな!」

 

 フリッツは上機嫌に、逞しい上腕に力瘤を作ってみせた。

 

「だが、剛一辺倒では、いつか痛い目を見るぞ」

「ぬ?」

「『柔よく剛を制す(Softness overcomes hardness)』という言葉があってな。極致に至った『柔』を持つ者には、その力さえも通用しなくなるかもしれん」

「ふん、そんなものは、さらなる剛力で叩き潰してくれるわ! がっはっは!」

「……まあ、貴様ならそうだろうな。単純な男だ」

 

 キミヒトは大笑いするフリッツを眺め、深く嘆息する。

 

「何か言ったか? それで、キミヒト。お前がその『柔』を極めた者なのか?」

「いや、私の修めているテン・シント流は、剛と柔をバランス良く修行する。どちらかに偏ることはない」

「そうか。では、もう一度勝負だ! 戦績は儂の方が一勝多かったはずだな?」

「間違えるな。七勝六敗で、私が勝ち越している」

「そうだったか? まあ、今回勝った方が真の勝ちということで!」

「適当な男だな、相変わらず……」

 

 呆れながらも木刀を構え、二人は再び対峙する。

 

 公的には面識すらないことになっている二人だが、その実、彼らは誰よりも固い絆で結ばれた親友だった。

 

――

 

「これが、お前の言った『柔を極めた者』の力か! キミヒト!」

 

 かつての親友の言葉を反芻しながら、皇帝は戦い続ける。

 

「だが、そう簡単には負けんぞ!」

 

 フリードリヒは、その笑みをさらに深く刻んだ。

 

――

 

 一方、フランクス国王シャルルⅢ世は、心中で焦燥を募らせていた。

 

 現在はなんとか攻撃を捌けているものの、皇帝の繰り出す剛力の一撃一撃が、確実に自身の余裕を削り取っていく。受け流すたびにサーベルの耐久限界が脳裏をよぎり、火花が散る。

 

「これが、『剛よく柔を断つ』ということかい? 星菱レイ君」

 

 トロワと名乗り、皇軍と共に行動していたとき、彼はよくレイやゴウガと模擬戦を繰り返していた。

 

 その折、レイから教わったのが『剛よく柔を断つ』という言葉。

 

 トロワの剣技は、本来『柔』に重きを置いたものだ。しかし、柔一辺倒では、いつか圧倒的な『剛』に屈してしまう。事実、以前に皇居でレイと試合をした際、彼はそれを痛感していた。渾身の受け流しを力で弾き飛ばされ、最後には剣を叩き落とされて敗北したのだ。

 

 レイの使う流派は剛柔を併せ持つ。対してトロワの剣は受け流しを起点に構成されており、その根底を覆すには修行の時間が足りなかった。

 

 ゆえに、レイとゴウガの協力を得て、彼はただ一つの『技』を練り上げてきた。

 

 今はただ、その一撃を繰り出すための、唯一無二の隙を伺い続けている。

 

――

 

 皇帝が戦いの中に至福を感じていたその時、機動要塞から強烈な霊子的余波が戦場へ放たれた。

 

「……グンテルか?」

 

 不審に思った瞬間、脳の深部を灼かれるような激痛が彼を襲う。

 

「がっ……!」

 

――

 

 皇帝機カイザー・ティーゲルの動きが、一瞬だけ、完全に停止した。

 

「今だ……っ!」

 

 トロワは、身に付けたばかりの唯一の『剛』を解き放つ。

 

 得意とする柔の機動で、機体の全身を弓のように極限まで引き絞る。レイから教わった、力の流れを増幅させる螺旋の動き。

 

 細身のサーベルの先端。ただその一点に、トロワが持てるすべての『剛』を凝縮させる。武器強化のための膨大な霊子が光子として溢れ出し、白銀の輝きを放つ。

 

 限界まで蓄積された力が解放され、全力の刺突が放たれた。

 

光の弓矢(Arc et flèches de lumière)!」

 

 隙を突かれたカイザー・ティーゲルは回避が間に合わず、二振りの斧を交差させて防御を試みる。

 

 しかし、その全力の穿孔は止められなかった。光の矢と化したサーベルは、重厚な斧を二枚同時に砕き散らし、HFの胸部装甲を深々と貫く。

 

「手応えあり!」

 

 トロワは確信した。先ほど月の方角から届いた霊波……きっとユイたちが成し遂げてくれたのだ。そのもたらした一瞬の隙が、勝利を呼び込んだ。

 

『……見事だ、若き王よ。そなたの勝ちだ』

 

 皇帝から通信が届く。

 

『……ああそうだな。キミヒトの言う通りだったな……』

 

 その掠れた声を最後に、通信は途絶した。

 

 サーベルをゆっくりと引き抜くと、カイザー・ティーゲルの装甲の隙間から眩い光が溢れ出す。ラファールを後退させると同時に、皇帝機は宇宙に巨大な火花を散らし、爆散する。

 

 操魂球(Cockpit Sphere)が射出されることはなかった。

 

――

 

「レイ! 急いで!」

 

 ユイとレイは球状空間を脱出し、斜め通路を月面へ向かって急ぐ。

 

 背後からは迫りくる爆炎と、それをさらに飲み込もうとする漆黒の空隙が迫っていた。あの闇に触れれば終わりだと、本能が警鐘を鳴らし続ける。

 

「もう……少し……!」

 

 ついに爆炎すらも漆黒の影に呑み込まれた。二機のHFのすぐ背後まで、その影が迫る。

 

「行っけぇぇぇーー!!」

 

 足元を影が掠める寸前、二機はアダムズ・クレーターの出口へと躍り出た。月面から宙へと舞い上がると同時に霊力場(Aether Force Field)が復活し、彗燐光を輝かせながら戦域を離脱する。

 

 十分な距離を確保したところで、二人はようやく落ち着いて背後の機動要塞を振り返った。

 

 まず、帝国軍の拠点であったアリスタルコス・ベースが大爆発を起こした。続いて、月面全体に凄まじい地割れが走り、亀裂の奥から眩い光が漏れ出す。

 

 分断された月面の地殻が、内側へ向かってボコりと凹み始めた。その奥には、すべてを無に帰すような黒い影。

 

 地殻が次々と消失し、ついに月そのものが自らの重力で爆縮を開始した。最後には極小の黒い点が残り、それもまた、瞬時に虚空へと消え去る。

 

 帝国軍の赤き月(Roter Mond)機動要塞であり、人類発祥の地『地球』の衛星でもあった『月』は、この宇宙から永遠に消え去った。

 

――

 

 その光景を目撃したすべての将兵は、敵味方の別なく、完全に動きを止めていた。

 

 戦域の全通信周波数を用い、フランクス国王シャルルⅢ世の勝利宣言が響き渡る。

 

『帝国皇帝は討ち取った! 機動要塞は消滅した! 我々の勝利だ!!』

 

 

続く

 




評価、ご感想お待ちしています。

【完結】NGチルドレン【EVAFF】もよろしくお願いします
https://syosetu.org/novel/323311/
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。