【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
Part-A
皇紀4904年1月1日。惑星パリーヌの首都シャンゼリゼ市にて、
侵攻が開始されてから1年と10ヶ月。帝国軍は完全に駆逐され、フランクスのみならず隣国ローマリアも解放の日を迎え、両国はかつてない歓喜に包まれている。
主催者発表によれば、詰めかけた王国民の数は前回の3倍。実に300万人が戦勝パレードを一目見ようと、中央通りにひしめき合っていた。
沿道の建物の窓からは色とりどりの紙吹雪や紙テープが舞い散り、喜びに沸き立つ群衆がパレードの車列を熱烈に歓迎する。
前回にも増して熱狂的な民衆の注目の的は、何と言っても国王陛下であった。
先王の急逝を受けてフランクス国王シャルルⅢ世として即位した直後、帝国による苛烈な侵攻が始まる。その際、国を離れて皇国へ亡命せざるを得なかったため、彼が国王として公務に当たった期間は短く、当初は国民への印象もどこか希薄だ。
しかし、彼は宣言通りに強力な援軍を伴って帰還。帝国領邦軍を次々と駆逐し、各星系州を自ら解放して回る姿は、各地で熱狂的な支持を集めた。
そしてパリーヌ星上空の決戦。最前線で全軍を鼓舞し続け、最後には国王自らの手で宿敵である帝国皇帝を討ち取るという、前代未聞の偉業を成し遂げたのだ。シャルルⅢ世の雄姿はメディアの望遠カメラを通じて全土にリアルタイムで配信され、その興奮は伝説として後世まで語り継がれることになるだろう。
人々は畏敬を込め、彼を『
シャルルⅢ世は大歓声に応えるべく、低速で進むオープンカーに立ち、力強く両手を振った。
その次に注目を集めているのは、国王の次車に乗った二人の女性だ。一人は
そして、女帝の隣に座るもう一人の少女に、パレードの視線は釘付けになっていた。
『
ユイは帝国の機動要塞を直接破壊した英雄として、今や一躍時の人となっていた。
国王の活躍が映像越しであったのに対し、機動要塞の崩壊は惑星の地上からも肉眼で確認できた。空に浮かぶ絶望の象徴が、リアルタイムで崩れ去っていく。その様を目撃した民衆にとって、彼女の成し遂げた功績は、何よりも確かな実感を持って支持されたのである。
――
機動要塞の崩壊時、その中枢コアにおいて局所的な重力崩壊が発生し、極小のブラックホールが観測された。だが、そのシュバルツシルト半径は約0.1ミリメートル程度という極めて小さなものであり、わずか数秒のうちに蒸発・消失。パリーヌ星の環境に影響を及ぼすことなく消滅したため、物理的な被害は皆無であった。
皇帝と機動要塞という二つの精神的・軍事的支柱を同時に失った帝国軍艦隊は、総崩れとなって敗走。フランクス軍が追撃を仕掛けたが、帝国側は
しかし、帰国後すぐに、空座となった皇帝の座を巡る帝国内勢力同士の熾烈な内戦が勃発した。皇帝の座は力あるものが受け継ぐのが帝国の伝統だ。
勢力は大きく三つに分かれた。アルブレヒト熊公、ハインリヒ獅子公、そして新興勢力のジークフリート・ビルケンフェルト一派による覇権争いである。
後にジークフリートと、その親友ビュートが獅子奮迅の活躍を見せたことで新勢力が勝利を収める。こうして、民衆から
皇帝ジークフリートは、その後の帝国史上において最も平和で安定した統治を行った君主として、歴史にその名を刻むことになる。
――
パレードの終着点。かつて数多の歴史が刻まれてきたシャンゼリゼ広場には、今や数え切れないほどの群衆と、整列した連合軍の兵士たちが、地平の果てまで埋め尽くしていた。
広場の中央に設けられた石造りの演壇に、フランクス国王シャルルⅢ世が登壇する。その隣には、純白のドレスを纏った大八洲皇国の女帝ミヤコ。そして一歩後ろに、凛々しい軍礼服に身を包んだ横田ユイが控えていた。
国王が右手を高く掲げると、それまで続いていた怒涛のような歓声が、潮が引くように止んだ。広大な広場を、冬の透き通った静寂が支配する。
「フランクスの同胞よ、そして共に血を流した友邦諸君」
国王の声が、広場全域に設置されたスピーカーを通じて響き渡る。
「我々は勝利した。あの日、天空を覆った『偽りの月』は消え去り、我らは再び、自由な太陽の光を取り戻したのである! だが、この勝利はワタシ一人の力によるものではない。故郷を想い、愛する者を守るために立ち上がった、勇気ある戦士たちの魂が導いた結果なのだ」
国王は一度言葉を切り、背後のユイへと向き直った。
「横田ユイ1等武尉。前へ」
ユイは緊張で指先が僅かに震えるのを感じながら、一歩前へ踏み出した。視界の端で、ミヤコ陛下が慈愛に満ちた笑みを向けている。広場のどこかで見守っているであろうレイの視線も、確かに感じる。
「貴女は、絶望的な戦力差を前にしても一歩も退かず、青き稲妻となって暗雲を切り裂いた。貴女が機動要塞の中枢を貫いたその一撃こそが、我らの未来を繋ぎ止めたのである」
国王は、金色の鷲を象ったフランクス最高位の勲章――『大十字護国勲章』を手に取り、ユイの胸元へと慎重にピンを留めた。
「全フランクス国民を代表し、貴女を『王国の友』、そして真の英雄として讃える。心からの感謝を」
国王がユイの手を取り、高く掲げる。
その瞬間、シャンゼリゼ広場は爆発的な大歓声に揺れた。
「「「éclair bleu(エクレール・ブルー)!!」」」
「「「王国の友!!」」」
人々の叫びは地鳴りとなってユイの心臓を叩いた。空には再び九機のミラージュが飛来し、祝福のカラースモークでパリーヌの空を鮮やかに彩る。
ユイは万雷の拍手の中で、胸の勲章に触れた。この冷たい金属の重みが、自らが成し遂げたことの重みであり、同時に失われた命、救われた命の象徴であることを理解する。
喜びよりも深い、静かな使命感が彼女の胸を満たしていった。
燦々と降り注ぐ恒星の光の下、ユイは眩しそうに空を見上げた。
これが、長い戦争の終わりの光。
表彰式が最高潮を迎える中、ユイの瞳には、パリーヌの空を流れる雲のように、捉えどころのない、けれど確かな時代の変革が映っていた。