【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
第4機動騎士団に所属していたビリー・エドワーズは、この度の軍再編の結果、昇進して騎士団長へと就任した。特筆すべき戦果を上げたわけではないが、欠員の補充と再編の波に乗った形である。ビリー本人にとっては、まさに「棚から牡丹餅」であった。本人は「ただ仕事が増えただけだ」と、まったく喜んでいないが。
騎士団長ともなれば、専用の執務室が与えられる。ビリーは山積みの書類仕事を一段落させると、室内で一息つくためのティータイムをとっていた。
紅茶を淹れるのは、当然のように控えているミリィ・メイポートだ。ビリーもそれを当たり前のように受け入れ、スタッフの誰もが疑問を抱くことはなかった。
いつもの清潔なメイド服姿で準備を整え、ミリィがティーカップをビリーの前に置く。
「どうぞ」
「うむ」
「それと、ニュースペーパーが配信されておりました」
「ほう、見せてくれ」
ビリーはティーカップを手に取り、ミリィから手渡されたナノボット製の新聞に目を落とした。
「おお、Ms.ユイではないか!」
銀河ネットを通じて配信された新聞の一面には、フランクス王国の復興と戦勝パレードの動画が大きく掲載されていた。国王とともに、戦闘で目覚ましい活躍を見せた横田ユイがフォーカスされている。
「お久しぶりですね、ユイさん」
「そうだな。お元気そうで何よりだ」
彼女たちと直接顔を合わせたのは、あのリムロック演習が最後だ。礼状を兼ねたメールを送ったことはあったが、なぜか星菱レイから極めて機械的で素っ気ない返信が届いただけだった。
ビリーはユイを拡大した静止画を眺めながら、満足そうに頷く。
「うむ。相変わらずお美しいな」
「帝国との戦闘で、大車輪の活躍だったそうですよ」
「彼女の実力なら当然の結果だろう。
「あら、意外ですね。彼のことも正当に評価されていたのですか。……というか、覚えていらしたのですね」
男性には興味がないビリーのことだから、レイの存在など既に忘却の彼方だと思っていたミリィは、意外そうな顔をした。
「失礼な。一度刃を交えた相手のことは、きちんと覚えている。彼は立派な騎士だ。……いや、皇国風に言えば『サムライ』だったか?」
「現在は、その名称はあまり使われていないようですけれどね。……ところで、仮定の話ですが。もしユイ様から助けを求められたら、どうなさいます?」
「決まっている。迷わず助けに向かう。……なんだ、藪から棒に」
ミリィの唐突な問いに、ビリーはノータイムで答えた。彼の真っ直ぐな性格を考えれば、これは本心からの言葉であろう。
「そうですか。うらやま……いえ、助けるといっても、どんな困難な条件が立ちはだかるか分かりませんよ?」
「そんなものは、助けた後で考えればいい。困っている者がいるなら、手を貸す。それだけのことだ」
「……まあ、坊ちゃまは、そういう方ですよね。分かっていました」
「坊ちゃまと言うな。一体、何を納得しているんだ」
ミリィは小さく溜息をつき、心の中で言葉を付け加えた。
(それが例え、家や軍を捨てることになったとしても……。いえ、聞くだけ無駄ですね。ビリーなら迷わず、彼女を助ける道を選ぶのでしょう。……そういう方なのですから)
訝しげな視線を向けるビリーを余所に、彼女はそっと微笑んだ。
――
「んっ……」
ユイの個室で、二人は静かに抱き合い、幾度も口づけを交わしていた。しばらくその余韻を堪能した後、レイが腕を緩め、ユイの身体をそっと離した。
「二人きりになれるの、本当に久しぶりねっ」
名残惜しそうに、ユイがはにかみながら呟く。
「ユイは、ずっと忙しかったからね」
レイも、どこか苦笑いを浮かべた。
「そうなのよ! マスメディアからの取材攻勢が凄くて、息をつく暇もなかったんだから。十社を超えたあたりで数えるのもやめちゃったわ。……って、これ、前にも同じようなことがあったわね」
一週間にわたって続いたフランクス解放の祝祭も幕を閉じ、街はようやく落ち着きを取り戻しつつあった。
国家の再建も国王の主導によって順調に進んでいる。隣国ローマリアでは政治機構が完全に崩壊したため、国民による総選挙が実施された。結果、立憲君主制を掲げる政党が圧勝。君主にはローマリア国民の熱烈な希望により、
役目を終えた大八洲皇国軍の艦隊も、既に一部を除いて帰還の途に就いていた。残っているのは、女帝が座乗する第01護衛隊群と、ユイたちが所属する第04護衛隊群のみ。これらも近日中に出発する手はずとなっている。
「ところで、レイは本当に良かったの? 勲章、受け取らなくて」
ユイとともに機動要塞破壊の最大の功労者であるはずの星菱レイだが、彼自身が表舞台に出ることを固辞したため、公式な記録からは外されることになった。
親友であるシャルルⅢ世は、何としてもレイに勲章を授与したいと申し出たが、レイは「ユイが正当に評価されれば、それで十分だ」と首を振った。レイの性格を熟知しているシャルルⅢ世は、それ以上は強要しなかった。
戦闘時の「赤い彗燐光」は極限の混戦下であったため、帝国兵を除いては、その正体を正確に認識している者はいない。
「いいよ。目立つのは面倒だしね。ユイが讃えられていれば、ボクは満足だ」
「まあ、レイらしいね。……というか、アタシも皇国に帰った後のことを考えると、正直気が重いわ……」
本国に帰還すれば、そこでも戦勝を祝う盛大な式典が待ち構えている。皇国においても、ユイは間違いなく時の人として引っ張りだこになるだろう。
「じゃあ、二人でこうしてゆっくりできるのは、今のうちだね」
「そうね! 久しぶりに、レイの手料理が食べたいな」
ユイが甘えるように言ったその時、非情な艦内放送が響き渡った。
『横田ユイ1等武尉。女帝陛下より至急の呼び出しです。直ちに『いずも』へ向かってください』
「ええーっ!?」
――
束の間の休息を切り裂かれ、ユイは不満げに口を尖らせながらも『かが』からシャトルに乗り込み、旗艦『いずも』へと移った。
「横田ユイ1等武尉、参りました!」
敬礼し、会議室へと入室する。室内には呼び出し主である女帝ミヤコをはじめ、フランクス国王、そしてユイの父である横田ハジメ武将補、いつもの顔ぶれが揃っていた。
しかし、周囲に他の高官の姿はなく、極めて少人数による秘密会議の様相を呈している。
「ユイさん、お休み中をすみませんね」
「いえ、問題ありません。陛下」
少人数ゆえか、室内の空気はこれまでとは異質であった。特に、父であるハジメが苦渋を滲ませたような顔をしているのが、ユイには気がかりだった。
「……?」
疑問を抱きながら席に着くと、メインスクリーンに、ユイの見知らぬ十代半ばの赤髪の少女が大きく映し出された。
『
その日を境に、ユイとレイの二人は大八洲皇軍を除籍となり、行方を晦ませた。
第一部 完
第二部に続く
これで第一部完です。第二部をお楽しみに
評価、ご感想お待ちしています。
今作は以下の作品の約2000年後の話です。直接の関連は無く読まなくても問題ないですが、読んでいただけるとより楽しめます。よろしくお願いします
【完結】NGチルドレン【EVAFF】
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