【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
6隻いた敵駆逐艦も、一気に2隻が撃沈したことで、単横陣を敷いていた艦隊陣形は崩れ、バラバラに動きだした。その挙動からは、敵側の激しい動揺が手に取るように分かる。
戦況を注視していた霊探オペレーターが、鋭い声を上げた。
「艦長! 敵艦が一隻、こちらに向かって加速しています! 距離0.9光分!」
「数は!?」
「一隻のみです!」
ナナがわずかに眉をひそめて考え込むと、副長が即座に疑問を呈した。
「なぜ単独行動なのでしょうか。こちらを迎撃するには、あまりに不自然な機動です」
「駆逐艦の艦級は判明した?」
「はい、マンジュン国のエンチェン級。ひと世代前の型ですね」
「やはり、属国の混成部隊なのね……」
赤壁連合は、二つの軍事大国と五つの属国によって構成されている。属国は大国の命により軍を供出するが、総じて練度は低く、装備も旧式が大半を占めるのが実情だった。
「なるほど、練度の低い部隊ゆえの暴走ということですか?」
「それもあるけれど、おそらくは後方の指揮官が、前方の艦隊に合流せよと無理な指示を出したのではないかしら」
「まさか……この距離で、遮二無二突っ込めと?」
「きっと政治将校が口を出したのでしょうね」
「ああ……。なるほど、納得です」
赤壁連合は『普遍党』という政治組織が実権を握っており、
政治将校は艦長を凌ぐ強大な権限を持つが、軍事に関しては素人同然である場合が多く、しばしば現場に致命的な混乱をもたらしていた。
副長が苦々しい顔で頷くのを確認し、ナナは砲雷長へと連絡を入れる。
「砲雷長、駆逐艦一隻がこちらへ直進中よ」
「はっ! 既に捉えております。しかし魚雷群は敵魚雷と交戦中であり、対艦攻撃に回す余裕がございません」
「砲戦で迎撃は可能?」
「もちろんです! お任せください!」
現代の宇宙戦において、艦砲による直接射撃が行われることは稀だ。通常は、超遠距離からHFか魚雷で決着がつくからである。
だが、現在のように混迷を極めた近接戦域では、艦砲の出番は十分にあり得た。そのために、DDHである『かが』には強力な実体弾砲が据え付けられている。
砲雷長が、部下たちに向けて檄を飛ばした。
「砲術士の諸君! 我らが訓練の成果を、全軍に知らしめる時が来たぞ!」
砲雷科の指令室は、一気に熱を帯びた。
「1番、2番、4番、6番砲塔、回頭! 霊探同調、弾種――重力子榴弾!」
「「「了!!」」」
三人の砲術士が、主兵装である45口径50cm3連装霊符滑腔砲を操作する。高度に自動化されたシステムにより、この巨砲すら少人数での運用が可能となっていた。
「いいか、敵艦は艦速2.5pls(光速の2.5%)で接近中だ。相対速度を計算し、未来位置を完璧に予測しろ。射撃管制システムと、そして己の魂を信じろ!」
敵艦が直進を続ける。『かが』との距離が20光秒まで縮まったその瞬間、砲術士の一人がゴクリと唾を飲み込んだ。
砲雷長の号令を待つ間、射撃用トリガーを握る手に、心地よい緊張が走る。
「まだだ、まだだぞ……。――放て!!」
『かが』に備わった七基の霊符滑腔砲のうち、四基が同時に咆哮した。
砲撃の瞬間、赤く輝く環状の加速霊符が砲口の前方に幾重にも連なり、放たれた十二発の砲弾を光速の90%にまで一気に加速させる。
それでも、真空を裂いて敵艦に届くまでには数十秒の時間を要した。
『初弾、至近弾6! 夾叉3! 敵艦、艦速0.3plsまで減速! ランダム回避行動へ移行しました!』
霊探員から観測結果が次々と報告される。軍艦は霊殻体で防御を固めているが、重力子がその霊子を強引に削り取った。総霊力が低下した敵艦は、著しい減速を余儀なくされる。
初弾で夾叉に成功した報に、指令室が沸いた。
「よくやった! 第二射、用意……。撃てぇ!!」
続けざまに放たれた砲弾群が、再び敵艦の周囲で炸裂。回避運動をさらに弱体化させ、霊殻体を限界まで摩耗させていく。
「よし! 弾種変更、成形霊子徹甲弾! 次の一斉射で沈めるぞ。第五射、用意……。撃てぇ!!」
成形霊子徹甲弾は、着弾と同時に内蔵された霊銀を「超高速の流体金属噴流」へと変貌させる。霊子を含んだこの噴流は、脆弱化した霊殻体を容易に貫き、艦内深部へと壊滅的な破壊をもたらす。
『至近弾6、夾叉4、直撃2! 敵艦の爆沈を確認!!』
二発の直撃弾が、敵の心臓部を貫いた。超高温の霊銀金属ジェットが艦内を焼き尽くし、エンチェン級駆逐艦は宇宙の塵となって爆散した。
「お前らよくやったぞ! 後で俺が奢ってやる!」
砲雷科の指令室は、勝利の歓喜に包まれた。