【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
肉薄してきた敵艦を撃沈し、艦橋には一時的な安堵が流れていた。
だが、宙域の戦闘は依然として継続中である。艦長ナナは正帽を被り直し、鋭い眼差しで副長へと問いかけた。
「各HF隊の現況は?」
「先行している第二中隊は、敵HF撃墜9、駆逐艦3隻を撃沈。被害は小破2機、全機健在です」
「第二中隊は、あと一息ね。宙域がクリアになり次第、第08護衛隊へ連絡を」
「了解。続いて第一中隊はHF撃墜6、駆逐艦3隻を撃沈。被害はゼロです。先ほどブルーリボン03、04とブラックボマーが帰艦。03と04は引き続き本艦の直掩任務に入ります」
「了解したわ。第一中隊は敵艦隊の四散によって各個撃破を強いられているようね。少し時間が掛かりそうかしら」
――
第一中隊は、広範囲に広がって迎撃行動中。敵HFはろくな連携もできておらずバラバラに行動している。迎撃する方も苦労していた。
(これで3機目……!)
ユイの駆るブルーリボン01は、回避を試みる敵HFの背後を完璧に捉え、正確な射撃で撃ち抜いた。
敵が繰り出してきたのは、かつての海賊機とは異なるミコヤ29兵士型。比較的新しい機種ではあったが、それでも最新鋭の零式との性能差は歴然だった。特に加速性能と旋回半径において、零式は群を抜いている。
当初は数的不利から包囲される場面もあったが、僚機であるブルーリボン02――レイの的確な援護に救われていた。その02も既に1機を撃墜。だが、度重なる会敵により、01の弾倉は底を突きかけていた。
「02、こちら01。残弾が限界よ。一旦帰艦して補給を受けるわ。02は、そのまま皆のフォローをお願い」
『02了解。……でも、一人で大丈夫?』
「すぐに戻るわ! 以上!」
――
一方の第二中隊は、先行していた味方DD3隻のHF隊と合流し、圧倒的な戦力差で敵を蹂躙していた。数的優位を確保したことで、対艦攻撃の絶好機が次々と生まれる。
三沢ゴウガのグリーンフラッグ02も、獲物を定めて敵駆逐艦へと肉薄した。光学センサーが、敵艦の細部を捉える。
「
駆逐艦が放つ25cm主砲や近接防御光子砲の弾幕が機体をかすめるが、強固な霊力場を展開するHFにとって、それらは決定的な脅威にはなり得ない。
「無駄無駄無駄無駄ァッ!!」
敵艦の火力を嘲笑うかのように最接近し、並走。至近距離から89式200mm小銃の全弾を叩き込んだ。艦内部での誘爆が連鎖し、敵駆逐艦は無惨な火球となって宇宙に散った。
「なんちゅう脆い船じゃあ……なんてな。こちら02、目標の撃沈を確認した」
『01了解。油断しないで、次に行くわよ!』
「へーい」
――
各部隊が奮闘を続けていた頃、母艦『かが』の周辺には敵影もなく、直掩に回っていた二機は手持ち無沙汰な時間を過ごしていた。
「はー、退屈だのう。俺もあっちで派手にやりてえよ」
『こら! 03! 油断しないの。直掩だって立派な任務でしょ!』
ブルーリボン04のケイが、不満を漏らすガイを叱咤したその瞬間。二機の背後で、空間が黒い球体状に割れた。
そこから滑り出してきたのは、三機のHF。
虚を突かれた急襲。03は両脚を、04は右腕を、一瞬のうちに切断された。
――
「直近に敵HF出現!! 直掩機、大破!!」
「なんですって!? 霊探、霊測はどうしたの!?」
「直前まで反応ありませんでした! 突然の出現です!」
艦橋は、突如として舞い込んだ最悪の報せに混乱の渦へと叩き落とされた。
艦外カメラの映像が、飛行甲板の惨状を映し出す。03は左右から二機の敵HFに腕を掴まれ、身動きを封じられている。そして04は、他機より一回り巨大な機体によって、頭部を無造作に鷲掴みにされていた。
その機体はミコヤ35武将型。敵のエース級が駆る最高級機だ。
三機の敵HFは、不敵にも『かが』の飛行甲板へと降り立った。そのエース機から、耳を疑うような通信が全回路に割り込む。
『あー、こちらはマンジュン国軍第41航空旅団、ネイリョウ中佐である。状況は理解できたな? 我々の要求はシンプルだ。これより我ら三機を指定空域まで輸送しろ。母艦を貴様らに沈められてしまったのでな』
艦長のナナは、そのあまりの厚顔無恥さに呆然と呟いた。
「……何、言ってるの?」
捕虜や人質を用いた盾行為は、国際法でも厳格に禁じられている。誇りある軍人ならば、決して手を染めることのない恥ずべき行為だ。副長も怒りに震えながら同意する。
「まるで蛮族の発想ですね。……ですが、いかがなさいますか。このままでは……」
要求を飲むわけにはいかない。だが、目の前で人質に取られた部下を見捨てることも、また不可能だった。
『畜生……! 振りほどけねえ!! ケイ! 返事しろ、ケイ!!』
03のガイから、悲痛な叫びが響く。だが、04のケイからの応答はない。衝撃で意識を失っているのか。
「砲雷長、状況は把握してる?」
『はっ! ……しかし、飛行甲板上は各砲塔の完全に死角です!』
「そう……。飛行甲板の重力制御を切ると同時に、艦を急加速させる。敵を振り離した瞬間、三番砲塔で狙い撃てる?」
『至難の業ですが……やってみるしかありません』
敵との交渉は断絶したまま、ナナが苦渋の決断を下そうとしたその時、霊探オペレーターが弾かれたように声を上げた。
「HFが一機、後方より急接近中!」
「敵機!?」
「いえ、味方です! ブルーリボン01、帰艦しました!!」
続く