【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
噴水広場での演説から一夜明けた。スージーは宣言通り、一晩経っても戻ってこない。そのおかげで、レイとユイは二人きりの時間を過ごすことができた。
ホテルの朝食を食べている時、ユイからデートのお誘いがあった。特に予定もなかったので、二人は街へと繰り出す。
「レイ、こっちこっち!」
ユイは久しぶりの自由な時間で、はしゃいでいるようだ。今日は秋コーデのロングスカートにベレー帽を合わせている。長い金髪は目立つため、変装用に黒髪のウィッグを付けていた。レイも黒のキャップ、ジャケット、長袖シャツにジーンズというラフな格好だ。
ユイの元気な笑顔を見て、レイも嬉しかった。何せこの半年間、連邦内を移動し続けており、一箇所に留まることがほとんどなかった。そして、その旅は決して順調なものではなかった。
ユイは人々が集まっていると、その輪に入り、抜群のコミュ力であっという間に溶け込んでいた。しかし、政治、特に貴族に関する話題になると、人々は途端に口を閉ざす。取り付く島もないといった様子だった。
それでもユイは諦めず、巧みな話術と真摯な態度で、民衆の本音を聞き出そうとした。上手くいくこともあれば、相手を怒らせたり、暴力を振るわれそうになったり、地元の貴族に目を付けられたりと、危険な場面も多々あった。
しかし、ユイはあらゆる場所で見聞を広め、ここまで来たのだ。
遂には銀河ネットで『青の聖女』とまで呼ばれるようになる。ある意味、有名人となった彼女の話を聞いてくれる人は増えた。これまでのユイの行動が実を結んだ形だが、反面、余計な敵も増えてきた。スージーの調査によれば、謎の組織が嗅ぎまわっているらしい。これまで以上に警戒する必要があった。
「ユイ、ちょっと待って」
「ん?」
早速お出ましというわけだ。不審な人物が尾行してきている。
「こっちへ」
表通りから裏路地へ入る。ユイも察したようで、黙って従った。
裏通りで撒こうとしたが、思った以上に追跡者の人数が多く、組織的に追い詰めてきている。今は軽装で、刀も持っていない。油断した。
ユイの手を引いて小走りになるが、依然として振り切れない。
「ちょ、ちょっと待って、スカートが……」
ユイはロングスカートのため、走りづらそうだった。
「ユイ、掴まって」
「え?」
返事を待たずにユイを抱き上げ、いわゆるお姫様抱っこをする。
「きゃっ」
(
全身の筋力と着ているものを強化して走り出す。ユイは黙ってしがみついてくれた。そのまま街の外周を目指す。
「レッド・ヘアー。こちらバイパー・ゼロ」
外周には広めの道路があるが、両脇を車両で塞がれていた。かなり計画的な行動だ。スージーが離れたことを感づかれたか。
さらに加速して外周道路を超え、街の外へ出る。そこは荒野だった。
「あっ」
ユイのベレー帽が飛んでいった。さすがに拾っている暇はない。早く撒かなければ捕まってしまう。時折、足に熱を感じる。レーザー拳銃で撃たれているのだ。身体強化をしていなければ、足を貫かれていたかもしれない。生け捕りにするつもりだろう。
その時、『ブン』という重力制御特有の音と共に、日差しが遮られた。
上を見ると、巨大な人型の影が二人を追い抜いていく。
「くそ、HFか」
ついにはHFまで繰り出してきたか。逃げ道を塞ぐように、機体が降り立つ。
機種は連邦軍で配備が始まったばかりのHFF-16ファイティングファルコン。
HFF-15イーグルより軽量な鎧を纏い、防御よりも機動性を重視したモデルだ。皇国の零式に似たシルエットで、性能も近いと言われている。灰色に塗装された最新式のHF。敵組織は、そんなものまで動かせるのか。
レイは対人であれば、武器を奪って勝てる可能性があったが、流石に生身でHFには勝てない。万事休すだった。
荒野の真ん中、ユイを抱きしめたまま立ち尽くす。
諦めかけたその時、目の前に立ちはだかっていた灰色のHFF-16が、縦真っ二つに裂かれて倒れ伏した。
繋ぎっぱなしだった通信から、突如として聞き覚えのある声が響く。
『待たせたな!! バイパー・ゼロ!!』
それは半年ぶりに耳にする、元同僚の声だった。
続く