【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ   作:ガルカンテツ

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第七話 感謝
Part-A


 ケイのブルーリボン03、ガイの04を人質に取り、卑劣な要求を突きつける敵HF。

 

 武将型HFは、ガイの操魂球(Cockpit Sphere)に冷徹な刃を向け、無言の圧力をかける。武器は『青龍刀』と呼ばれる、長い柄に湾曲した刀身を戴く大太刀だ。そのパイロットから、再び傲慢な通信が入る。

 

『どうした。早く返事をしろ。猶予はないぞ』

 

 刹那――。

 

 ケイを拘束していた敵HF二機の首が、音もなく宙を舞った。

 

 青く輝く彗燐光(すいりんこう)を全身に纏い、流星の如き速度で突撃してきたHF。それはそのままケイの機体を突き飛ばすように弾き、安全圏へと離脱させた。

 

『な……何だと!?』

 

 空色のHF、ユイのブルーリボン01が流麗に薙刀を構え、武将型HFへと肉薄する。

 

『くっ! 貴様ぁ!』

 

 敵HFも即座に青龍刀で応戦。薙刀と大太刀が激突し、真空の戦域に激しい火花が咲き乱れる。

 数合、十数合。打ち合いを重ねるごとに、空色の機体が敵のエースを圧倒し始めた。

 

 ユイが決定的な一撃を放とうとした、その瞬間。

 

 敵HFはあろうことか、拘束していたガイの機体を「盾」として放り投げてきたのだ。

 

 このまま振り抜けば、ガイを巻き添えにしてしまう。

 ユイの心に生じた一瞬の動揺が、致命的な隙を曝け出した。

 

 敵はこの機を逃さず、死神の如き攻勢に転じる。青龍刀の一振りが薙刀の柄を断ち割り、防御を失った01を頭上から両断せんと振り下ろされた。ユイは抗う術を失い、思わず目を瞑る。

 

「くっ……!」

 

 しかし刃は届かなかった。覚悟した衝撃もない。

 

 武将型HFの目前に、いつの間にかレイのブルーリボン02が割り込んでいたのだ。ただ一振りの刀で、必殺の青龍刀を平然と受け止めている。

 

『……何をした……ユイに、何をしたぁぁぁッ!!!』

 

 平時からは想像もつかない、レイの獣じみた怒声。

 同時に、02が纏う彗燐光が青から鮮烈な「赤」へと変色し、爆発的に膨れ上がった。

 

『ブルーウィスプ……いや、レッドスプライトだと……!?』

 

 武将型HFのパイロットが、戦慄に震える声を漏らす。

 それが、彼の生涯で最後の言葉となった。

 

 紅蓮の輝きを纏った02は、敵の知覚を置き去りにする速度で背後へ回り込むと、その心臓部――操魂球ごと、一閃の下に貫いていた。

 

 その神速の機動は、旗艦『かが』の艦橋にいた誰一人として、目視することすら叶わなかった。

 

――

 

 地球自由連邦軍、局所泡東宙域担当霊電子戦艦部隊・第9霊電子艦群。

 戦略情報収集艦SSGN-1736『オハイオ』。

 

 その艦長席では、鍔の広い黒い尖り帽子に黒いローブを纏った女性が、不機嫌そうに足を組んでいた。

 

「ゴブリン共、これだけお膳立てしてやったのに。落とされまくりじゃないの」

 

 薄暗い艦橋に詰めるスタッフも、全員が同じ装束を纏った女性たちだ。

 

「艦長、広域霊電子攻撃が対応されました。再度攻撃しますか?」

「これ以上は皇国のシャーマン共に余計な情報を与えるだけよ。収集結果をまとめて頂戴」

「了解いたしました」

 

 『オハイオ』を旗艦とする第9霊電子艦群は、赤壁連合を秘密裏に援護しつつ、皇国軍のデータ収集を行っていた。真の狙いは、噂の星菱零式人型機動戦闘機の性能解析にある。

 

「『ゼロ』か……ふん。ヤビット共、なかなか面白いHFを造るじゃない」

 

 艦長は零式のデータを眺め、毒づくように独りごちた。連邦内では、零式のことをその名にちなんで『ゼロ』と呼称している。

 

 地球自由連邦(Earth Liberty Federation)。その略称がE.L.Fとなることから、自らを気高い『エルフ』と称する者もいた。

 彼らは他国をも古典ファンタジーになぞらえて呼び捨てにする。汎ペルセウス帝国を『ドワーフ』、そして皇国を『ヤビット』。これは皇国の国際名Yamatoと「小人」を意味する言葉を掛け合わせた蔑称だ。

 自分たちより劣る存在である赤壁連合に至っては、もはや『ゴブリン』扱いであった。

 

「艦長」

「何?」

「連合機の記録映像から、極めて興味深い現象が確認されました」

「見せて」

 

 モニターに表示されたのは、武将型HFが最期に見た視界の記録だ。

 

「ブルーウィスプが……赤く?」

「はい。過去に例のない事象です。他の『ゼロ』では確認されておりません」

「ふーん。赤いブルーウィスプ……さしずめ『レッドスプライト』かしらね」

 

 艦長はその単語を、愉悦を含んだ響きで反芻する。

 

「興味深いわね。『魔女の森』のババァ共へデータを送りなさい。最高の餌に大喜びで食いつくわよ」

「了解」

「よし、撤収準備。全艦に伝えなさい」

「「「Yes, Ma'am!」」」

 

――

 

 激戦が終わり、日常が戻った『かが』の第二食堂。

 星菱レイがいつものように独りで食事を摂っていると、背後から遠慮のない声がした。

 

「よう、ゼ――」

「ゼロと呼ぶな」

 

 ゴウガの声を、レイが食い気味に遮る。

 口をパクパクとさせるゴウガに対し、レイは何気ない様子で一つの小鉢を差し出した。

 

「食べてみろ」

「え?」

「いいから」

 

 中身は、皇国では一般的な家庭料理である『肉じゃが』だ。見たところ、これといって変わった様子はない。

 ゴウガは恐る恐る、箸でその一切れを口へと運んだ。

 

「……う、美味いッ!」

「そうか」

 

 お世辞ではない。ジャガイモには芯まで味が染み渡り、肉やニンジンも驚くほど柔らかい。咀嚼するたび、素材の旨味を凝縮した汁が口いっぱいに広がる。

 

「でも、今日のメニューにこんなのあったか?」

「ボクが作ったんだ」

「……は?」

「ボクが作った。カレーの材料が余っていたから、給養員から分けてもらったんだ。調理室を借りて試してみたが、上手くいったな。やはり水を入れず、野菜の水分のみで煮込むと旨味が濃縮される」

 

 呆然と立ち尽くすゴウガから小鉢を回収し、自作の味を噛み締めるレイ。

 

「……よ、嫁に来ないか、お前」

「断る」

 

 戦慄の求婚に対し、レイは無表情のまま即答した。

 その直後。ゴウガは背後に、逃げ場のない「圧」を感じて凍り付く。

 

「!?」

「ゴウガ……あなた……」

「ち、違うんだ! 姉さん!」

「いいえ、姉さんは否定しないわ。人にはそれぞれの愛の形があるものね。でも、レイ君はダメよ。絶対に、叶うはずがないもの。もっと別の……現実的な男の人を探しなさい」

 

「違うってば!!」

「姉さんは応援するわ! ……あ、お母様にも報告しておかなくちゃ」

「わー! 姉さん、待ってくれッ!」

 

 なんか小走りで去っていく三沢ナユと、半泣きでそれを追うゴウガ。

 

 騒がしい嵐が去った後、今度は横田ユイが静かにレイの正面へ腰を下ろした。

 

「レイ」

「うん」

「ええと……あの時は、ありがとうね」

「あの時?」

「武将型HFの時のことよ」

「ああ……。僚機なんだから、当然だろう」

「まあ、そうなんだけど……。あ、ケイとガイは怪我もなく無事だったわ。二人とも、凄く感謝してた」

「そうか。よかった」

「それで、あの……その……」

 

 ユイが珍しく言葉を濁すのを、レイは黙って見守った。

 

「あの時ね。レイの機体の彗燐光が……赤く見えた気がしたんだけど」

「そうなの? 自分では全く気付かなかったけど」

「そう……。まあ、いいわ。少しでも休んでおきなさい。次の任務まで二時間はあるから」

 

「分かった。……あ、ボクからもいいかな」

「ん? 何?」

「……もう、絶対に単独行動はしないでくれ。何があっても、ボクがウィングマンとして君の背中を守る。後ろは任せてほしい」

 

 レイの瞳には、一切の揺らぎがない。あの戦場で見せた、かつてないほどの激昂。

 ユイは自分の軽率さを深く反省し、素直に頷いた。

 

「ええ、そうね。……これからもよろしくね、相棒」

「当たり前だ」

 

 あの敵エースの一撃を思い出し、背筋に走った悪寒。

 だが、隣に座る少年の静かな言葉に、ユイの心には自然と確かな安らぎが広がっていくのだった。

 




【完結】NGチルドレン もよろしくお願いします
https://syosetu.org/novel/323311/
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