【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
通達の内容が衝撃的であったため、ラファエルを除いて皆、口数少なく小広間を後にした。
ただ、アラスと黒い動甲冑だけがその場に残る。
「もういいぞ」
アラスがそう告げると、黒い動甲冑は片膝をついた。直後、プシュウという圧縮空気の抜ける音とともに、背後の搭乗口が開かれる。
蝶が蛹から羽化するように、その中から一人の人物が現れた。
まず目に飛び込んできたのは、輝くような白髪のロングヘアだった。纏められていた髪が解け、さらりと広がる。動甲冑の中から全身を現したのは、アラスの婚約者であるカタリナ・アヴィアーノだった。
「すまないな。暑かっただろう」
本来なら温度調整機能が働いているはずだが、カタリナの体格に合わないサイズを調整するため緩衝材を詰め込んだせいで、動甲冑内部は熱がこもり、白いパイロットスーツの冷却機能でも追いつかなかったようだ。
「問題ありません」
「本来は、俺が着るべきだったんだがな」
「いいえ、アラス様は
冷静に応じるカタリナ。白い髪の先から汗の雫が滴り落ちる。
「あのな、カタリナ……」
アラスが何かを言いかけようとした瞬間、カタリナはパイロットスーツの手首にあるスイッチを操作した。排気音が響き、肌に密着していたスーツが緩む。彼女はそのまま首の固定具を外し、上半身から足元までを一気に脱ぎ捨てた。
「ふぅ……」
よほど暑かったのか、カタリナが深く息をつく。
パイロットスーツは第二の皮膚とも呼ばれ、別名はスキンスーツ。着用時は下着を一切身につけないのが定石だ。つまり、脱げばその下は全裸である。
カタリナは火照った全身の白い肌を、隠すことなく晒した。華奢な体つきながら、出るべきところは出ている。顎から滴った汗が、豊満な胸の谷間をゆっくりと流れていった。
「ちょっ! ここで脱ぐな!」
アラスは驚愕して即座に回れ右をした。
「?……見慣れているのでは?」
カタリナは本気で不可解そうに、全裸を隠そうともせず首を傾げた。
確かにアラスとカタリナは婚約者であり、恋人同士だ。しかし、それとこれとは話が別である。
「いや、時と場所というものがあるだろう……」
顔を片手で覆ったアラスが苦言を呈しようとした、その時。不意に小広間のドアが開いた。
「あらあら、まあまあ。はしたないですよ、お嬢様」
「ばあや」
入室してきたのは、カタリナに仕える老女と数人の侍女たちだった。リチャードが気を利かせて呼んでおいてくれたらしい。
「はいはい、お嬢様。じっとしていてくださいね」
「はぷっ」
大きなタオルがカタリナの頭から被せられ、侍女が少々乱暴な手つきで汗を拭き始める。
「アラス様、あちらを向いていてくださいませね」
「分かっている……」
カタリナは12貴族アヴィアーノ家の侯爵令嬢だ。生誕時からアラスの婚約者と定められ、箱入り娘として大切に育てられてきた。ただ、いささか世間一般の常識に欠ける嫌いがある。全身が真っ白な彼女は、その心もまた純白そのものなのだろうか。
背後で衣擦れの音が響く。他の侍女たちは黒い動甲冑を迅速に解体し、運び出していく。
「もうよろしいですよ」
アラスが振り返ると、そこには白いワンピースに着替えたカタリナの姿があった。軍の施設内としてはあまりに場違いな装いだが、致し方ない。
「お嬢様、後でしっかりとお風呂に入りましょうね」
「ええ、ばあや。ありがとう」
侍女たちが一礼して小広間を後にし、アラスとカタリナの二人だけが残された。
二人は静かに見つめ合う。
カタリナはアラスより二歳年下だが、軍服ではないワンピース姿の彼女は、年齢よりもさらに幼く、儚げに見えた。
「あー、うん。よく似合っているぞ」
「ありがとうございます」
アラスは気を取り直し、先ほど言いかけていたことを改めて告げる。
「代理、ご苦労だった。実戦では俺が『ナイトメア』として出る。補佐を頼むぞ」
「はい。アラス様」
続く