【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
数時間前、ちょうどレイが将軍型HFを撃墜した直後、新田原群司令から『かが』に緊急の通信が入った。
「別艦隊ですか!?」
『ああ、第1霊電子艦群が広域霊電子攻撃への対抗に成功し、星系全体の視界がクリアになった。その結果、新たに二つの艦隊が接近中であることが判明した。一つは南東方向、もう一つは――天頂方向からだ』
「天頂方向から……!?」
宇宙空間の移動は、基本的には銀河水準面に沿って行われる。
理由は、宇宙の広大な銀河航路図がそのように規定されているからだ。もちろん三次元的な立体移動は可能だが、人間の感覚としては、平面としての二次元で捉えた方が理解しやすい。
航路図も基本は平面であり、各ポイントにおいて銀河水準面の天頂方向、あるいは天底方向にどれだけ離れているかを座標で示す仕組みになっているのだ。
天頂方向から来るということは、正規の航路を大きく離れ、大幅に遠回りをしてきたことを意味していた。
『北方向の第02護衛隊群は現在交戦中で、離脱は不可能だ。南東方位の駆逐艦6隻からなる艦隊には、第08護衛隊が当たる。連戦となり申し訳ないが、第04護衛隊は直ちに惑星へ急行し、天頂方向からの艦隊を阻止してくれ』
「連戦は構いません。ですが、まだこの宙域に残存勢力が」
『それに関しては、こちらからHFを回す。第1霊電子艦群の情報によれば、天頂方向からの艦隊は航空巡洋艦を含んでいるらしい。相当数のHFを積載しているだろう』
「ラヴァーグ国の航空巡洋艦キーフ級ですか。了解しました。HF帰艦後、直ちに惑星へ急行します」
――
第04護衛隊はHF隊の回収を行いながら、DD3隻と共に惑星を目指す。幸いなことに、残敵からの追撃はないようだ。
星系内ではその重力特性から次元弾道跳躍が使えないため、移動には数時間を要する。この貴重な時間を利用して、被弾したHFのモジュール装甲を交換したり、パイロットに休憩を取らせたりしていた。
HF隊は概ね健在だ。急襲を受けて中破させられたブルーリボン03、04を除いては。
「艦長、敵HFが突如出現した件ですが、魚雷024が黒い布状の物体を回収しました。恐らくはこれにくるまっていたものと推測されます」
「布? そんなもので、我が艦の霊探を偽装できるの?」
「はい、布には霊波遮断塗料が塗布されていました。エーテルステルスというやつですね」
艦長のもっともな疑問に、副長がデータを提示しながら答える。
霊波遮断塗料は、霊電子戦艦の表面に使用されているものと同じ黒い塗料だ。
潜入や隠密行動を主とする霊電子戦艦は、敵に見つからないよう様々な工夫が凝らされている。外装兵器は存在せず、その形状は惑星で使用される潜水艦によく似ていた。
ちなみに艦種記号の『SS』は、運用初期に搭乗員をシャーマンと呼んでいたことに由来する。
「そんなものを連合が持っていたというの?」
「いえ、恐らくは地球自由連邦から供与されたものでしょう。ただし、霊子出力が高い機体に対しては効果が低いようです。我々のHFであれば、アイドリング状態であっても隠しきれません。ステルス性能はかなり限定的ですね。捕虜の証言によれば、連合のHFは可能な限り慣性移動で潜み、たまたま近くに『かが』が接近した隙を突いたようです」
「なるほどね。それにしても連邦の連中、そんなものまで渡しているなんて」
「恐らく、先の広域霊電子攻撃も連邦の手によるものでしょう。舞鶴シュユ2等術尉の報告では、妨害パターンが彼女の留学先であった魔術組織『魔女の森』で習ったものと酷似していたそうです」
「ああ、彼女はあそこに留学していたわね」
「はい。ただ、巧妙な偽装も施されており断言はできないとのことですが」
「でしょうね。向こうも認めはしないでしょうし……。あとは政治家に任せましょう」
――
束の間の休息の後、惑星防衛作戦が開始された。
惑星防衛において重要となるのは、いかに早くHFを地上へ揚陸させるかだ。
惑星近傍の高重力下では、宇宙空間に比べて霊子出力が著しく低下する。大気圏付近まで高度を下げれば
つまり、事前のHF戦で勝利し、先に惑星へ降り立つことこそが勝利条件となる。
皇国側のHF隊陣容は、第401人型機動戦闘飛行隊だけでなく、DD3隻の直掩隊である第404人型機動戦闘飛行隊も加わった総力戦だ。
汎用DDにはHFの高度な整備設備がないため、『かが』が一手に引き受けている。DD1隻につきHFは3機搭載されており、合計9機。だが、先の戦闘で3機が稼働不能となっていた。
401部隊の30機に、404部隊の6機を合わせた36機。それに第402人型術式作戦隊の3機を加えた全戦力で、敵との会敵予想空域に向かう。
『各リーダー、こちらホワイトアイ。敵HFを捕捉。エリア・
「ブルーリボン01、了解」
ユイの仮想視界に、リアルタイムで処理された戦況図が展開される。味方は青い三角、敵は赤い丸。敵機は38機。数はほぼ同数だ。
敵側にも強力な霊電子戦機が配備されているようだが、そちらはシュユのグレイゴーストが対応に当たっている。
敵HFの機体はホイス27兵士型。最新鋭機だ。先に交戦した属国混成部隊とは異なり、軍事強国ラヴァーグ国軍の精鋭のみで構成された部隊である。
光学カメラには、敵の姿はまだ映らない。全速力で加速を続けるHFの傍らを、一条の光が猛烈な速度で抜き去った。ホワイトアイから報告が入る。
『ブラックボマーより、
横須賀リンの淡々とした声が響く。
数十本の光の矢が敵HFへと殺到した。対艦攻撃とは異なり、機動力の高いHF相手では命中率は下がるが、それでも初手で五機を葬り去ったのは僥倖といえた。敵の編隊が大きく乱れる。
『コース修正、308プラスA15。30秒後に会敵。迎撃態勢に移れ』
「中隊各機、こちらブルーリボン01。迎撃フォーメーション17に移行!」
各機から了解の応答が返る中、レイからのみ秘匿個通のリクエストが届いた。
「02、こちら01。どうしたの?」
『……01、こちら02。戦闘が始まったら、絶対に後ろは振り向かないでくれ。前だけを見るんだ』
レイの、いつもより真剣な声が耳を打つ。食堂で交わしたあの約束だ。ユイは改めて、力強く頷いた。
「分かったわ。後ろは、全部あなたに預けるわよ」
『うん。絶対に守り抜いてみせる』
短いやり取りの間に、敵HFを視界に捉えた。
HF対HFの大規模戦闘が幕を開ける。
「ブルーリボン01、エンゲージ!!」