【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
「色々ありがとうございました、理事長」
「貴女の功績を思えば安いものよ」
連邦領ケンブリッジ星系州ブリッジン星にある「魔女の森」と呼ばれるノーフォーク魔術同盟本部。その森の中央に建つ理事会議事堂は、他の建物と同じく木造だった。
理事会とは数人の理事で構成される魔術同盟の最高意思決定機関。その取りまとめ役である理事長室に、2人の魔女がいた。
1人はこの部屋の主、眼鏡を掛けたセミロングの女性、カロリナ・ノーフォーク。彼女が理事長であり、ノーフォーク家第88代盟主でもある事実上の魔術同盟トップだ。彼女は"
もう1人は、だぶだぶの黒い魔女服を着ている"赤髪の魔女"ことスージー・アツギ。
スージーは一旦ユイたちと離れ、各所への根回しのためにカロリナを訪ねていた。
「いやいや、HFの提供は本当に助かりました」
「そのHF、HFF-16の開発は貴女の功績じゃない。ロッド・マーチ社の開発チームは感謝していたわよ。スージーのおかげでコンペに勝てたって」
スージーこと星菱カズミは、事故で自分の身に起きた現象を解決するために魔術同盟を訪れた過去がある。調査の合間に、星菱重工で培った彼女のHF開発能力を求められ、さまざまな助言を行っていた。彼女は同盟内の学院で学んだこともあり、それは恩返しの意味もあった。
スージーとカロリナが談笑していると、理事長室の扉が勢いよく開かれた。
「理事長! これは一体どういうことですの!?」
入ってきたのはアイナ・マルムストローム。ウェーブの掛かった金髪に黒い魔女服をまとっている。
アイナはマルムストローム家の当主で12貴族の一員であり、
「あ! アイナじゃん! やっほ!」
「げっ! 赤髪!」
アイナとスージーは、同じ学院出身の旧友だ。
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2人がノーフォーク魔術学院、通称「魔女学校」に入学したとき、お互いの存在を知った。魔術の名門貴族出身であるアイナは、当然のように
次席となったアイナは恥をかかされたと思い込み、スージーを敵視するようになる。
まずは周囲に働きかけ、スージーを孤立させようとした。爵位を盾に手下を増やし、派閥を結成。しかしスージーは天性の人心掌握術と社交術で友達を増やし、孤立することはなかった。
アイナは次に手下へ嫌がらせを命令した。最初は持ち物を隠すといった些細なことから始めたが、スージーは何故かすぐに見つけ出し、全く問題にならなかった。
嫌がらせはエスカレートし、スージーの教科書を隠すだけに留まらず、ビリビリに破き捨てる者まで現れた。しかし、何故かその犯行現場は監視カメラに克明に記録されており、警察沙汰にまで発展してしまう。
業を煮やしたアイナは、柄の悪い手下を使って直接スージーを懲らしめることにした。校舎裏に呼び出し、軽く痛めつけるよう指示。しばらく待っていると手下たちが戻ってきたが、様子がおかしい。歯をガチガチといわせ、何か恐ろしいものを見たかのように顔を真っ青にさせていた。
アイナが何があったのか問いかけようとすると。
「ここに居たんだー」
コツコツと足音を立てて近づいてくる影があった。
「ひぃ!!」
その声を聞いただけで手下たちは震え上がり、全力で逃げ出した。呆然とするアイナ。
「あ! アイナじゃん! やっほ!」
笑顔で手を振る人影は、スージーだった。
「あ、アンタ……何したのよ?」
「ん? いや、古代呪術をちょっとね?」
スージーの底知れない笑顔に、アイナは恐怖した。
その日を境に、手下たちは次々に離れていった。そもそもこれまでは爵位で従わせてきたが、魔術学院では魔術の実力が全てだ。その威光が切れてきたのである。
1人、また1人と周囲から人が消え、気づけば孤立していたのはアイナの方だった。
絶望しそうになった彼女に、唯一手を差し伸べたのがスージーだ。
その日から、2人は気の置けない友人となった。
……が、よくよく考えれば、この状況を作り出したのはスージー本人ではないか。アイナは内心で警戒しつつも、卒業までこの赤髪の友人とつるみ続けたのである。