【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
「なっ!?」
時間になった――と思った瞬間に敵HF列の右端から飛び出してきたHFA-10Cが、巨大な戦斧で味方HF2機をまとめて切断した。上半身と下半身が泣き別れとなって吹き飛ぶ。
HFA-10C サンダーボルトⅡはその重装甲な見た目通り、本来は鈍重な機体だ。しかし、飛び込んできた敵HFはまるで獣のような動きで一気に距離を詰めてきた。
驚愕が走る間にも、敵HF群が突撃を開始する。
あまりに突発的な事態に、聖騎士団は動揺を隠せない。
「全機防御態勢!」
聖騎士団長ジョージが檄を飛ばすと、聖騎士HFはラウンドシールドを構え、即座に防御態勢を取った。彼らは信徒70億人から選ばれた精鋭だ。すぐさま態勢を立て直す。
ついさっきまで青々としていた草原だったが、敵HFの突撃に荒らされ、地面が捲り上がって一面が土色に変わっていく。
本来、HFの主戦場は宇宙空間であり、彗燐光を輝かせながら亜光速で飛び交うものだ。
しかし重力の井戸の底である地上では、霊子出力が低下しているため、HFは足を使って移動せざるを得ない。その様子は、まるで数千年以上前の歩兵が戦う戦場のようであった。
一歩一歩土煙を上げながら突撃してくるHFA-10C サンダーボルトⅡと、ラウンドシールドを構えて迎え撃つHFF-8D クルセイダー。
振り下ろされた戦槌が円盾にぶち当たり、凄まじい衝撃が戦場全体を揺らす。
防御に長けた聖騎士たちはなんとか持ちこたえ、倒れる機体は居なかった。
だが、先ほど飛び込んできた獣のような動きの敵が、早くも3機目を屠ろうとしていた。一撃でシールドを力任せに弾き飛ばす。
『私が行きます!』
「頼む、ソフィア!」
副団長のソフィア・エルスワースが、救援に向かう。
彼女が生身のときの装備はソードブレイカーだ。櫛状の峰で敵の刃を受け、そのまま叩き折る武器。その『受け』こそが彼女の真骨頂だった。
敵HFの巨大な戦斧も、彼女はラウンドシールドを傾けて巧みに受け流す。
あの敵はソフィアに任せておいて良いだろう。
肉弾戦に入った聖騎士たちは、ラウンドシールドで防御しつつ、鎚矛メイスで反撃に転じている。しかし数的不利が発生しており、徐々に押し込まれていた。
ジョージも援護に回りたかったが、正面で仁王立ちしている敵から目が離せない。
『行くぞジョージ!』
「来い! マクスウェル!」
HFA-10CとHFF-8Dが、戦場の中心で激突する。
ジョージの武器は、生身と同じく両手棍だ。それをマクスウェルの戦槌と打ち合わせた。衝撃波と共に、激しい火花が飛び散る。
『ほう! 良くも我が戦槌『アベンジャー』を受け止めたものだ!』
「俺の両手棍『ロウ・スタッフ』は絶対に折れん!」
並みのHFならば一撃で粉砕される戦槌を、両手棍で真っ向から受け止める。何度も打ち合い、お互い一歩も引かない。
隙を見て棍を突き入れようとするが、相手は重装甲のHFを器用に操ってそれを避ける。豪快さと繊細さを持ち合わせるのが、マクスウェルという男だ。
生身で何度も手合わせをして強さは理解しているし、ある種の尊敬も抱いていた。それだけに、ジョージは何故このような事態になっているのか納得できない。
「マクスウェルのおっさん! なんでこんなことをする! 考えればおかしいと分かるだろう!?」
『あー、儂は政治のことは分からんからな。叔父貴の判断に任せている』
「ならば!」
『だが、一度同じ連邦軍の聖騎士とやりあってみたいと思っていたのだ!』
「このバトルジャンキーが!!」
説得は無駄なようだ。戦闘で倒すしかない。
しかし、全体としては劣勢だ。最初に数を減らされたのが響いている。
他の聖騎士も必死に持ちこたえているが、数で押されている上に、基本的なHFの性能差が如何ともしがたい。倒し倒されの攻防の中で、徐々に数的劣勢に陥っていく。
『ほれ、余所見をするでない』
一瞬の隙を突かれ、『アベンジャー』を正面から叩き込まれた。
「くっ!」
倒れることはなかったが、200mは後退させられ、踏ん張った両足の跡が2本の深い溝を作る。
そうしている間にも、1機、また1機と味方の反応が消えていく。
『きゃあぁ!』
「ソフィア!?」
戦斧を受け流し続けていたが、度重なる衝撃についに盾が砕けた。獣のような動きのHFに、ソフィアのHFがラウンドシールドごと叩き切られる。
そのまま、獣のような動きのHFがジョージの方に向かって来た。
『ふむ。もう終わりか。マリアナ、やれ』
巨大な戦斧が振り下ろされる。ジョージは避けることができず、斧の刃を睨みつけた。
しかし、戦斧は当たらず、あらぬ方向へと弾き飛ばされる。
ジョージのHFとマリアナのHFの間に、青いHFが突如として現れていた。