【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
彼女の第一声に、民衆は「綺麗な声だ」という感嘆とともに、その名に含まれる響きに騒然となった。
「デヴォンポート?」
「あれ? どこかで聞いたような名だな」
「あの『始まりの四家』と同じなのか?」
デヴォンポートの名は、連邦の歴史教育において必ず学ぶ家名の一つだ。黎明期の地球自由連邦において善政を敷き、その発展の礎を築いた功労者として知られている。
現在でもその家柄に対する信奉者は多く、腐敗した現行の貴族制度に代わる、かつての高潔な指導者の再臨を望む声は根強いものがあった。
『これからの連邦の在り方について相談すべく、聖女教皇聖下に謁見するために聖都を目指して参りました。途上で連邦軍による強襲を知り、急ぎ駆けつけた次第です。聖騎士団の皆様の奮戦により、なんとか間に合いましたが、聖下と聖都の皆様がご無事で何よりです』
『青の聖女』がなぜこの場にいるのか。その経緯を知った民衆は、教皇と都市を守ってくれたことへの感謝を口々に叫んだ。
『温かいご声援をありがとうございます』
民衆の声に応えて一礼した彼女だったが、すぐに表情を引き締めた。
『先ほども申し上げた通り、私が聖下に拝謁を賜ったのは、連邦の将来を憂い、その在り方を相談するためでした。皆様は、現在の連邦についてどのようにお感じでしょうか』
彼女の問いかけに対し、民衆からは怒号に近い不満が沸き上がった。そのほとんどは、傲慢な貴族たちに向けられたものだった。
『私は連邦の各地を回り、皆様の生の声をたくさん拝聴して参りました。その中で私なりに感じ取った、現在の連邦が抱える歪みについて、どうか皆様に共有させてください』
一拍置いて深呼吸し、彼女は改めて声を張った。
『問題は多岐に渡りますが、本日は主に2点について述べたいと思います。まずは、
--
「おい婆さん! ちょっと見てくれ!」
「どうしました? お爺さん」
リビングでビジョンパネルを眺めていた老人が、キッチンにいた妻を慌てて呼び出した。なんとなく視聴していた教皇講話の画面に、あまりに意外な顔が映っていたからだ。
「ほら、これを見ろ」
「あら? この間うちに来た女の子じゃない」
この老夫婦こそ、以前に横田ユイたちが訪れた農場の主であった。自分たちが直に言葉を交わした少女が、全銀河へ向けて演説している光景に、二人は言葉を失う。
『現在の連邦では、普遍人は立場が弱く、開魂者より劣る存在として扱われています。しかし、それは大きな間違いです。普遍人も開魂者も、糧を得なければ生きてはいけません。宇宙農場も存在しますが、放射線の影響などを考慮すれば、大規模な生産は依然として困難です。この大地で、多くの普遍人が懸命に食料を作ってくれるおかげで、開魂者も生かされているのです。普遍人は地で働き、開魂者は宙で働く。ただそれだけの違いであり、その価値は等しく平等であるはずなのです』
肘をつきながら画面を見守っていた老人は、満足げに口角を上げた。
「あの娘。儂が言ったことを、そのまま伝えてくれておるじゃないか」
「よかったですね。お爺さん」
「今度また来たら、もっと旨い夕飯をご馳走せんとな、婆さん」
「そうですね」
--
『青の聖女』の言葉が、民衆の心に深く染み込んでいく。エクス教自体が博愛を教義に掲げ、魂の平等さを説いていることもあり、その主張は信徒たちにとって極めて自然に受け入れられた。
『そして、次は貴族制度についてです。貴族という存在そのものが問題である……と私は思いません』
その逆説的な言葉に、広場がざわついた。民衆にとって「貴族」こそが諸悪の根源であり、連邦腐敗の象徴であることは疑いようのない事実だったからだ。
『現在、各州の領主は貴族が務めています。しかし、州によっては健全な自治が行われ、民衆が主権を担っている場所もあります。貴族という立場は世襲ではありますが、それゆえに幼少期から高度な教育を受け、公平な統治を実現している例も確かに存在するのです。つまり、制度そのものが絶対的な悪なのではありません』
確かに、一部の星系では平和な暮らしが維持されている。例えばエドワーズ家が治める領地などは、極めて良心的な統治が行われているという評判だ。
『しかし! 現在の連邦を支配する多くの貴族は、そうではありません!』
民衆が納得しかけた矢先、彼女はさらに激しい声を上げた。
『彼らは守るべき領民を慈しむこともなく、ただ私腹を肥やすことのみに狂奔している! 貴族として果たすべき義務、すなわち『ノブレス・オブリージュ』を完全に忘却しているのです!』
彼女の断罪は、鋭く空気を震わせた。