【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
彼女は一息つくと、再び落ち着いた声音に戻った。
『デヴォンポートという家名が、始まりの四家の一つであることは皆様もご存じのことでしょう。私は、その末裔です。連邦建国の際に力を尽くした我が家系が活躍していた当時、今の貴族制度は存在しませんでした。連邦が繁栄を極めていく過程で、後から生み出されたものなのです』
民衆は「やはり始まりの四家の生き残りなのか」という驚嘆とともに、貴族制度が建国当初にはなかったという事実に目を見張った。学校で教わる歴史では巧妙に伏せられていたが、確かに建国神話に「始まりの四貴族」という呼び名は存在しない。
『しかし、その後に確立されたこの貴族制度にこそ、致命的な欠陥があります。本来、貴族とはその上に王族を戴き、王より爵位を賜るものです。しかし現在の連邦首長にそのような権威はなく、連邦政府の庶民院も今や形骸化した存在に過ぎません』
首長は貴族たちの互選で決まり、二院制を謳いながらも、立法の実権は貴族のみで構成される貴族院が独占している。公選制の庶民院には実質的な権力はなく、現状は一部の特権階級による独裁状態であった。
『つまり今の連邦は、「王の居ない貴族」が支配する歪な世界なのです。横暴な貴族を律し、罰する王が不在である以上、この制度に自浄作用を望むことは不可能です。この欠陥こそが、地球自由連邦が抱える最大の問題であると私は考えます』
広場が静まり返る。千年以上も続いた制度ゆえに当たり前のものとして受け入れていたが、指摘されてみればこれほど不条理な話はない。特権を握る者が、特権を握る者を裁くことなどできるはずがないのだ。
民衆が深い思索に沈む中、彼女は話を結び、静かに一歩下がった。
『ありがとうございます、ユイフィリアさん。皆様、今彼女が語ったことは紛れもない真実です』
聖女教皇が、その言葉を引き継いだ。
『現在の腐敗した貴族制度は、エクス教の掲げる博愛の理念に明確に反します。ゆえに我々は、彼女の決意を全面的に支持いたします』
エクス教の頂点に立つ聖女教皇の宣言。それは重い説得力を持ち、民衆の動揺を確信へと変えていく。
『彼女は連邦の将来を案じ、この私に相談に来られました。そして、揺るぎない覚悟を携えていたのです』
聖女教皇が、静かに手を上げた。
すると、広大な舞台の後方の空間が陽炎のように歪み、巨大な影が次々と姿を現す。
出現したのは、7機の青いヒューマンフレーム。
7機のうち2機は外套のようなもので覆われて機種が分からないが、それ以外は聖都を防衛したHFと同じ機体であった。
民衆から驚愕の喚声が上がる。それぞれのHFは、大きな旗を掲げていた。その旗は青を基調とし、円形に並んだ10個の星、その中央に一際大きな星が描かれていた。
『改めて紹介いたしましょう! 彼女たちは『
促されるように再び歩み出た『青の聖女』、いや『聖青の戦姫』。その手には、HFが掲げるものと同じ意匠の旗が握られていた。
『私、ユイフィリア・ユリアーネ・フォン・デヴォンポートは、この聖なる青と、聖なる数字
高らかな宣戦布告。広場は地鳴りのような歓声と熱狂に包まれた。
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「何が革命の旗手だ。ただの小娘に一体、何ができるというのだ」
演説の放送を視聴していたレジー・エルメンドルフは、豪華な椅子の肘掛けに肘をつき、鼻で笑った。
何事かと思えば、『青の聖女』を名乗る小娘が噂通りの
「はん。たった7機のHFで、連邦軍を相手に戦うつもりか? 笑止千万。……なあ、アンソニー?」
共に放送を見ていたアンソニー・アンドルーズに同意を求めたが、返事はない。彼は顔を蒼白にし、立ち尽くしたまま画面を凝視していた。
「まずい……まずいぞ……」
アンソニーはレジーの言葉など耳に入っていない様子で、うわ言のように繰り返す。
「どうしたアンソニー。あの娘がそれほど恐ろしいのか?」
「忘れたのか!? あのデヴォンポートの娘の背後には、皇国がいるのだぞ!?」
アンソニーが上げた、これまでに聞いたこともないような大声に、レジーは思わず眉をひそめた。
「アンソニー……」
「いや……すまない、レジー殿。少々、取り乱した……」
アンソニーは激しい動悸を抑えるように、深くソファへ座り直した。
「ふぅ。……これは重大な事態だ。デヴォンポートの娘が公然と姿を現したということは、皇国が裏で糸を引いているに違いない。現在の連邦の混乱に乗じて、介入してくる可能性がある」
「まさか……それほど飛躍した話になるのか?」
「いや、この分断状態が長引けばそれも現実味を帯びる。……レジー殿。現在、聖都に最も近い位置にいる
「ん? そうだな……」
レジーが手元の端末を操作し、
「空母『フランクリン』を旗艦とする
「その部隊を、即座に聖都へ向かわせることはできるか?」
「可能だが……そこまでする必要があるのか?」
異様なまでの焦燥を見せるアンソニーに、レジーは怪訝な眼差しを向けた。
「あの帝国軍さえ退けた軍事力を持つ連中だ。介入の隙を与えれば皇国がどう動くか知れたものではない。一刻も早く、あのデヴォンポートの娘を確保しなければならないのだ」
「……小娘一人に対して大袈裟な気もするが、放置しておくわけにもいかんか。分かった。第13空母打撃群に、聖都への急行を命じよう」
続く