【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
「なぜ儂が、このような粗末な席に座らねばならんのだ」
フランシス卿は、偽装駆逐艦の艦長席の脇に設えられた簡易座席に座らされていた。
「かつての巡洋艦のような広さはございません。我慢してください」
艦長席に座るのは、以前の私設艦隊で雇われていた元司令であった。巡洋艦などの私設艦隊はすべて没収され、現在彼らの手元には、新たに購入した中古の駆逐艦が一隻あるのみだ。
爵位を3段階降格され、領地と資産を没収されたはずのフランシス卿だったが、隠し財産までは押さえられていなかった。中古の駆逐艦一隻程度、彼には容易に用意できるものだった。
「だが、これは儂の船だぞ!」
「貴方は何もできないのですから、邪魔にならないよう黙っていてください」
「何だと!」
「貴方の現在の爵位は?」
「……男爵だ」
「私の爵位は?」
「子爵……です」
「分かったなら、大人しく従ってください」
「ふん、今に見ているがいい……」
フランシス家は貸金業で財を成した。その顧客は平民から貴族まで幅広く、法外な利子や強引な取り立てで悪名を馳せた。特に貴族に対しては、借金を弱みに変えて下流貴族から辺境伯までも従わせてきた。悪辣な手段で手に入れた大金で地位と権力を買い取り、12貴族まで上り詰めた根っからの成金貴族である。
今回の資産没収は表向きには貸金業法違反として処理されているが、皮肉なことに、それは決して冤罪ではなかった。これまでは権力によって法律を捻じ曲げていただけに過ぎないのだ。
今は落ちぶれたとはいえ、数年もあれば財産も爵位もある程度は復活できるだろうと、フランシス卿は高を括っていた。
「私は、置き去りにしてしまった元部下たちを救いに行きたいだけです」
雇われ艦長が苦虫を噛み潰したような表情で呟く。
偽装駆逐艦が向かう先はボストン星系州。彼らが自ら軌道爆撃を行った呪わしき地だ。
あの事件の直後、フランシス卿の甥が兵を率いて惑星に降下し、領地への凱旋を果たした――はずだった。しかし私設艦隊が離脱した直後、激昂した惑星民衆の襲撃を受け、甥は囚われの身となったのである。
彼を救い出すための航海ではあったが、ボストン星系州はすでに
しかし目的地を目前にして、艦内に警報が鳴り響く。
「
母艦の反応もなく、突如としてHFが出現した。この駆逐艦には対抗できるHFは搭載されていない。
HF群は亜光速から一気に減速して艦の正面に立ちふさがった。制動の際に放出されたエネルギーが、光子となって美しく輝く。その光の渦の中から、長槍を携えた青いHFが姿を現した。
機体から通信が入る。
『こちら『
「おお、あれが『聖青の戦姫』か……」
雇われ艦長もあの演説を視聴していた。連邦の正規軍すら撃退した実力も知っている。中古の駆逐艦で抗える相手ではない。
「通信士、武装を解除し、全面降伏すると伝えてくれ」
「お、おい! 貴様、何を勝手なことを!」
「フランシス卿、覚悟を決めてください。貴方が犯した罪に、罰を受ける時が来たのです」
偽装駆逐艦は無血で制圧され、乗員はLBU軍に身柄を拘束された。フランシス卿とその一族はボストン星系州で裁判にかけられ、相応の報いを受けることになるだろう。
無事に北東部入りを果たした聖女教皇はLBU代表と会談し、4星系州が
対する貴族側も、12貴族のレジー・エルメンドルフ公爵を中心に、彼の領地であるエイトリア星系州の名を冠した
かくして、後に『局所泡南北戦争』と呼ばれることになる、地球自由連邦史上最大の内戦が幕を開けた。
続く