【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
惑星の低軌道上に位置する『かが』の艦橋は、地上に潜伏していたHFの存在を確認し、にわかに混乱に包まれていた。
敵HFは、あろうことか惑星上の開発用コンテナの中に身を潜めていたのだ。
「これまで霊探、霊測ともに反応なしだったのよね? 敵艦が低軌道上から放り出した可能性は? 例のステルスシートを纏わせて」
「敵艦から何かを投下すれば、流石に検知可能です。例えステルスシートを用いたとしても、大気圏突入時の重力制御反応は隠せません」
「そうよね……。副長、敵HFの姿は確認できた?」
「今、魚雷012が急行しています。……あ、撃墜されました。ですが、直前で映像を捉えたようです。モニタに映します」
魚雷からもたらされた映像がメインモニタに展開される。そこには、迷うことなくこちらへ銃口を向けるHFの姿が鮮明に映し出されていた。
周囲の状況を分析すると、そこは惑星開発公社が残した資材置き場であり、HFの至近には無数のコンテナが整列していた。そのうちの一つの扉が、内側から乱暴に開放されているのが見て取れる。
「惑星開発公社のコンテナに隠れていたというの?」
「ステルスシートを併用していたのでしょう。ですが、そもそもどうやって惑星上のコンテナの中に……」
「皇国の公社内部に内通者がいたのかしら。――それで、敵HFの総数は?」
「惑星上に確認できたHFの反応は、合計24。現在、広範囲に散開しています」
惑星上空の全天が、事実上の敵HFによる狙撃範囲に収まってしまった。不用意に艦船を降下させれば、格好の標的となりかねない。
「HF隊を呼び戻して対応させるしかないけれど……」
「ですが艦長、HF隊も連戦で疲弊しきっています」
「分かっているわ。……けれど、このままでは」
手詰まりの感が艦橋を支配し、重苦しい沈黙が流れる。そんな中、霊探オペレーターが鋭い反応をキャッチした。
「天底方向より、1隻接近する艦船があります!」
「敵艦の増援!?」
「いえ、味方です! 艦種照合……惑星強襲揚陸艦LHD-44001『おおすみ』です!」
「え? 『おおすみ』が来ているってことは……」
ナナが言いかけたその時、揚陸艦『おおすみ』からの通信が割り込んだ。
『こちら、『おおすみ』。『かが』の諸君、よく踏ん張ってくれた。後は我々に任せてもらおう』
一方的に通信が遮断されると同時に、『おおすみ』は猛然と低軌道へと侵入を開始した。
副長が動揺を隠せぬまま、艦長へと視線を向ける。
「か、艦長。確か、『おおすみ』の運用部隊といえば……」
「ええ。第一空挺団だわ」
――
『おおすみ』は、皇国の軍艦において標準的な六角柱型ではなく、質実剛健な箱型の船体をしていた。
その船体底面に備えられた16のハッチが一斉に開放され、内部に搭載されていた星菱96式人型機動戦闘機、計16機が姿を現す。地上からの狙撃が船体を叩くが、重装甲で塗り固められた底面には傷一つ付かない。
『コースよし! コースよし! よーい、よーい、よーい……降下! 降下! 降下!』
号令と共に、16機のHFが惑星へと次々に吸い込まれていった。
――
その光景は、地上からも克明に観測されていた。敵HFのパイロットは、拡大した光学画像に照準を重ねる。
「バカめ。無防備に降りてくるとは、良い的だ」
敵HFが、落下してくる皇軍機目掛けて小銃を連射した。
重力制御を用いて緩やかに降下するHFを射抜くのは容易なはずだ。惑星降下中は霊子出力が削られ、
しかし、弾丸が直撃したにもかかわらず、皇軍のHFは無傷のまま猛スピードで落下を続けた。
「なに……!?」
敵HFは困惑しながら再度発砲するが、やはり効果はない。そして彼は、ある戦慄すべき事実に気づいた。
「まさか……重力制御を一切使用していないというのか!?」
明らかに落下速度が異常だった。通常の惑星降下では、重力制御によって霊子を消費しながら低速で降りるのが鉄則だ。
だが皇国のHFは、そのままの自由落下速度で地上へと叩きつけられた。爆発的な土煙が巻き上がり、地表に巨大なクレーターが刻まれる。本来、これほどの衝撃を受ければ、いかにHFといえど五体満足ではいられないはずだ。
敵HFは土煙が晴れるのを待ち、獲物の残骸を確認しようとした。
だが、立ち込める土煙の奥底で、二つの眼光が鋭く光る。
「バ、バケモノが……」
クレーターの底で、落下したHFは平然と立ち上がっていた。
その姿は、
敵HFが絶句している一瞬の隙に、96式は爆発的な踏み込みで距離を詰め、その太刀を一閃。敵機を両断した。
『こちらヘルダイバー04。1機撃破。次ターゲットへ移行する』
第一空挺団のパイロットは淡々と報告を終えると、次の獲物へと向かって駆け出した。
それから1時間も経たぬうちに、惑星上の赤壁連合機はことごとく沈黙。地表から敵影は一掃された。
かくして惑星ケブラ3229cは皇国の実効支配下に置かれ、正式にその領土として編入されたのである。
続く