【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
「だが、その真偽こそが問題なのではあるまい。お前は演説の内容が気になっているのだろう?」
「ああ」
「そうか……」
グレンは思案しながら食事を終えると、静かにカトラリーを置いた。控えていた使用人が即座に食器を下げ、テーブルを整える。
彼は腕を組み、真剣な眼差しで息子と向き合った。
「まず、彼女の指摘した『王の居ない貴族』という点は、紛れもない事実だ。我ら連邦貴族は、王族から爵位を
連邦における貴族の位は、統治する領地の規模によって規定されている。明文化された法ではないが、慣例として以下の序列が定着していた。
「だが、王が不在であっても、12貴族会議がその機能を代行してきた。先日のボストン軌道爆撃事件に際しても、フランシスを断罪したではないか。彼女が言うように、この国に自浄作用が全くないというわけではない」
「だが、親父よう……」
「まあ待て。お前の言いたいことは分かっている。貴族のすべてが清廉潔白であるわけではない。彼女の言う『ノブレス・オブリージュ』が形骸化しつつあるのも、また否定できぬ事実だろう」
「じゃあ……」
やはりユイの主張が正しいのではないか。ビリーがそう口にしかけたが、グレンは静かに首を振った。
「それでもだ。貴族が統治を放棄すれば、それは庶民の手による政治――すなわち共和制へと移行することになる」
「共和制……」
「家庭教師から歴史を教わっただろう? 共和制は選挙によって国家元首を選出するが、高度な教育を受けていない大衆に国家の舵取りを委ねれば、必然的に衆愚政治へと陥る。それは歴史が幾度となく証明してきたことだ」
「……」
「認めたくはないが、千年もの間連邦を維持してきた今の貴族制度こそが、まだ『マシ』な選択なのだよ」
「マシ、か……」
確かに、エドワーズ家が治める領地では人々は平穏に暮らしている。そもそも貴族が直接実務をこなすのではなく、エドワーズ家が認めた有能な人材を積極的に登用し、領地運営を任せていた。
ビリーの知る限りでも、過去の共和制国家が腐敗し崩壊した例は枚挙にいとまがない。そう考えれば、優れた英才を組織的に育成・配置できる貴族制度の方が、機能的であるのかもしれない。
だが、その答えはどこか消極的で、思考を停止しているようにも感じられた。ビリーは、ユイがその先にあるどのような未来を見据えているのか、知りたくてたまらなくなった。
「まあまあ、難しいお話はそのくらいにしましょう? ビリー、そういえばミリィちゃんはどうしているの?」
重苦しい空気を察してか、母親が優しく話題を変えた。
「ミリィなら、今は軍を休職しているよ。なんでも魔術同盟の方の仕事があるとかで」
ミリィからユイの手伝いに誘われたことまでは、口にしなかった。
「あらまあ、残念だわ。また一緒にお茶をしたいと思っていたのだけど」
夕食はそこで幕引きとなった。ビリーは自室へと戻りながら、一人で考えに耽る。
(親父の言う通り、歴史上には共和制の腐敗した例がいくらでもある。だが、成功した例だって存在しているはずだ。それは結局、どの制度であっても同じことなんじゃないのか?)
いくら考えても、ビリーの中に明確な答えは出ない。ユイなら、その答えを持っているのだろうか。
続く