【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
汗を拭き終えたアラスが歩き出すと、その三歩後ろをカタリナが従う。その先では、敬礼を捧げる『ナイトメア』隊の隊員たちが待ち構えていた。
「お疲れ様です、隊長!」
「ああ、お前たちもご苦労だった」
アラスも敬礼で応じる。彼らは機動騎士団時代からの付き合いであり、有能で信頼の置ける部下たちだ。
彼らは『ナイトメア』隊員であると同時に、
「次の任務は『剣と盾』だ。十分な休養を取っておけ」
「はっ!」
「忙しい思いをさせて、すまんな」
「いえ! 問題ありません!」
部下たちは力強く応えると、規律正しく各員の居室へと戻っていく。彼らもまた『ナイトメア』隊という存在の意義を理解し、アラスについてきてくれているのだ。
(俺は、謝ってばかりだな……)
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アラスが兄リチャード・エルメンドルフから騎士師団編成の辞令を受ける直前。父レジー・エルメンドルフに呼び出された際のことだ。
レジーは公爵であると同時に、連邦国防総省の国防長官という重責を担っている。長官執務室には、父だけでなく年の離れた兄リチャードも同席していた。
「『ナイトメア』隊……ですか?」
「そうだ」
機動騎士団から騎士師団への改編に関する説明の後、レジーの口から聞いたこともない部隊名が告げられた。
「それは、一体どのような部隊でしょうか」
「通常任務部隊ではなく、特務部隊といったところだな」
「はあ……」
「その隊長にお前が就け」
「え?」
執務机に腰掛けた父の言葉は唐突だった。しかし、傍らに控える兄の表情に動揺の色はない。
「その特務とは、具体的にどのような……」
「敵の完全殲滅を目的とした部隊――言わば、虐殺部隊だ」
「なっ!?」
これから始まる任務は、北東部の奪還作戦である。他国への侵攻とは異なり、あくまで自国領土の回復。対峙するのは同じ連邦の国民だ。「虐殺」という言葉は、あまりに不穏だった。
「虐殺、ですか!?」
「まあ待て。リチャード、説明を頼む」
リチャードによれば、『ナイトメア』隊の主目的は心理戦にあるという。自国民に対して一方的に強硬な手段を取れば、後の統治に支障をきたす。しかし、すべての局面で紳士的な対応を続けていては、戦線は膠着し、被害は拡大する一方となる。
そこで一部の部隊にのみ、あえて容赦のない非道な攻撃を担わせ、恐怖を植え付ける。
『規律正しい部隊』と『恐怖を与える虐殺部隊』。この二段構えによる統治戦略こそが狙いであった。
統合参謀本部の資料によれば、『ナイトメア』隊を運用することで、最終的な人的被害と作戦時間を劇的に削減できるという試算が出されていた。