【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
Part-A
第01護衛隊群旗艦、人型搭載護衛艦DDH-5183『いずも』の飛行甲板にHFが並んでいた。
近衛師団所属を示す、黒に赤のラインが入った星菱96式人型機動戦闘機が16機、整然と横一列に並ぶ。
その正面には、汎ペルセウス帝国軍の主力HFである重戦士型HFティーガーⅡも同数が相対していた。ティーガーⅡは96式よりも重厚な造りで、丸みを帯びたヘルメット状の頭部が特徴的な機体だ。
皇帝直属の部隊らしく、皇帝色である赤で塗装され、その背部には威風堂々とマントを羽織っている。
それぞれのHFは、国家の威信を象徴する大きな旗を掲げていた。大八洲皇国の八条旭日海旗、汎ペルセウス帝国の鉄血十字旗。真空の宇宙空間であるため、旗竿の先端からガスを噴出させることで、強引に旗をはためかせていた。
その中心で、二機のHFが固い握手を交わす。
皇国側は
二人のエンペラーが機内から電子署名を行い、条約が締結された。帝国側からの打診により成立した、皇国と帝国の期限付き不可侵条約である。
帝国側が『いずも』を離れた頃、艦橋に帝が戻ってきた。群司令である横田ハジメ武将補が出迎え、帝は金色のカバーが掛けられた専用席に腰を下ろす。
「お疲れ様でございます、陛下」
「うむ」
「それにしても、三年の期限付きですか……」
「帝国の連中、三年で連合のクライーナ国を手に入れるつもりだろう」
「あの脳筋どもならやりそうですね。これで赤壁連合も終わりですな」
「うむ。これで新星系の開発に集中できる」
「皇国五千年の悲願ですからね。そういえば、ホーロー国からも打診があったそうですが……」
「皇国は新星系で手一杯だ。今後百年、領土拡張は行わぬ。だが、緩衝国は必要だからな。独立の後押しくらいは可能だろう」
「なるほど。それで不可侵条約を受け入れたのですね」
「これも新星系戦における勝利の恩恵だな。貴様の娘も大活躍だったそうじゃないか」
「恐縮です。お転婆に育ってしまいまして」
「よい。丁度今頃、ミヤコから勲章が渡されている頃だろうな。さて、帰国しよう」
「はっ!」
新星系での激闘から、一ヶ月が経過していた。あの戦闘で皇国が勝利し、赤壁連合は事実上の敗北を喫した。地球自由連邦の仲介により、捕虜の返還や、連合から皇国への多額の賠償金支払いが取り決められた。
連合はそれだけでなく、戦闘で多くの軍艦やHFを喪失したことで軍事力が大幅に低下。その影響により、連合国内の情勢は極めて不安定となっている。
――
『かが』の第二食堂に、四人の少女が集まっていた。そのうちの一人、先日まで皇居への参内やマスコミの取材対応で多忙を極めていた横田ユイが、テーブルにぐったりと突っ伏している。
「あ~あ……まさか訓練航海がこんなに癒やしになるとは思わなかった……」
「はいはい、お疲れさま」
三沢ナユが慰めるようにユイの頭をよしよしとなでていた。その光景を眺めながら、濃い藍色のボブカットの少女、横須賀リンが問いかける。
「いいじゃない。勲章、ミヤコ殿下から直接受け取ったんでしょ?」
「そうなの! ミヤコ殿下、近くで見ても本当に美人だったな~! 昔会った時のことも覚えててくれたし」
がばっと起き上がり、興奮気味に身を乗り出すユイ。だが直後、再びへなへなと崩れ落ちた。
「緊張したけど、それは良かったのよ。問題はその後……」
「ああ、マスコミの取材攻勢ね。それはご愁傷さま。何社くらい受けたの?」
「十社を過ぎてからは数えるのをやめたわ。軍の広報が付き添いでいたから逃げられなかったし……」
赤銅色のツインテールの少女、舞鶴シュユが手首のリングをタップすると、空中にA4サイズの板状の物体が現れた。それを掴み、表示された文字を慣れた手付きでスクロールする。
それは立体映像ではなく、極小機械ナノボットが集まって構成された紙状のデバイスだ。このナノボット・データペーパーは実体を持つため、直接触れることができる。手首のリングに格納されたナノボットが、ユーザーの用途に合わせて様々に形を変える仕組みだ。
現在、このリング型デバイスは時計、電話、PCなどを兼ねる多用途個人用端末として広く普及していた。
記事にはユイの活躍を称える文言が大きく躍っている。一回の戦闘で12機撃墜は、まさにエース・オブ・エースの戦績だ。それに伴い、数々の二つ名も記載されていた。
「もう記事になってるみたいだよ。なになに?『蒼穹の雷光姫』『横田の青い稲妻』……お、『青色電光戦闘横田』だって!」
「やめてー!! 恥ずかしいーっ!」
突飛な二つ名に耳を塞ぎ、再びテーブルに沈むユイ。リンがシュユからデータペーパーを受け取り、内容を確認する。普段はクールな彼女も、「プークスクス」といった表情だ。
「リンまで笑わないでよ~!」
「ごめんごめん。それにしても、二つ名が『青』とか『稲妻』で共通してるのは不思議ね。青はユイのパーソナルカラーだから分かるけれど」
「さあ……?」
「あー、それなんだけど。実は私もインタビューを受けたの。そこでユイのことも話したんだよ」
なでなでを続けていたナユが、インタビューの様子を再現し始めた。身振り手振りで説明するものの、「ビューン!」とか「ドカーン!」とか擬音ばかりで、いまいち要領を得ない。
「それでね、ユイが目の前を敵と戦いながら通り過ぎたのが『青い稲妻』みたいだった、って答えたの!」
「お前かーーーーーっ!!!」
ユイが跳ね起き、ナユの胸元を掴んで揺さぶる。その瞳は、本気の涙目であった。