【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
ジョージと実戦で当たるのはこれで2度目だが、聖都のときとは明らかに勝手が違う。特にHFのパワーが段違いだ。以前の旧式機HFF-8D クルセイダーとの差は理解できるが、マクスウェルが以前模擬戦を行った標準的なHFF-16 ファイティングファルコンよりも、明らかに強い。
激しい打ち合いをしながら、マクスウェルは僚機に視線を走らせた。聖都のときはマリアナ・アンダーセンが僚機だったが、今は別人だ。マリアナは実家のアンダーセン家に戻り、実験機のテストを行っているらしい。アンダーセン家は軍需企業であるボー・アンド・アロー社にゆかりのある家系だった。
HFの開発は日進月歩。同じHFF-16でも、この部隊の機体はかなりカスタマイズされているようだ。よほど腕の良い
今の僚機は部隊でマクスウェルの次に実力を持つが、対峙するソフィア・エルスワースに苦戦していた。巨大な盾で戦槌をことごとく防がれている。やがてソフィアの反撃を受け、ついに大破したようだ。
『余所見とは余裕だな! マクスウェル!』
ジョージが隙を突くように両手棍を叩き込んでくる。
マクスウェルは
「強くなったな! ジョージ!」
『なめるな!』
ジョージが叫ぶと同時に、地を這うような低い構えを見せた。ただでさえこちらが高い位置に陣取っているため、攻撃はしづらいはずだ。だが、向こうも攻撃に転じるには接近せざるを得ない。その瞬間こそが好機だ。
低い姿勢のまま急斜面を登ってくるジョージのHF。マクスウェルはタイミングを見計らい、アベンジャーを叩き込もうと待ち構える。
しかし、ジョージのHFは両手棍を地面に突き刺すと、棒高跳びの要領で高く跳躍した。アベンジャーは空を切り、勢い余って山の斜面にめり込んでしまう。
「なに!?」
マクスウェルは、見たこともないHFの機動に驚愕した。
『クライド流棍術! スカイドラゴン!』
ジョージは機体を縦に回転させ、その遠心力を乗せて両手棍ロウ・スタッフをHFA-10の肩に叩き込んだ。
「うがぁ!」
マクスウェルのHFの左肩が吹き飛ぶ。HFは、人の形が崩れると著しく出力を失う。
『これまでだ。投降しろ、マクスウェル』
「……そうだな、儂の負けだ」
『では、操魂球から出てこい。拘束す……』
『ジョージ! 避けて!』
ジョージの言葉を遮り、ソフィアが叫んだ。
反射的にバックステップを踏むと、直前まで機体があった場所に黒い「何か」が突き刺さった。着弾したのは、霊波誘導対地攻撃魔術ナンバー65『マーベリック』。上空のANU軍機HFF-14D クイックストライクによる援護射撃だ。
シエラネバダ山脈の山肌が激しく爆発する。
猛烈な土煙が舞い上がり、視界を遮った。ジョージは間一髪で直撃を避けたが、その隙にマクスウェルを見失ってしまう。
『くそ! マクスウェル!』
煙が晴れたとき、マクスウェルは既に僚機の操魂球を回収し、上空へと退避していた。
「今回は負けたが、次はこうはいかんぞ。また戦おう!」
『待て!! マクスウェル!! 逃げるな!!』
スピーカー越しの怒号を背に、マクスウェルは山脈を後にした。味方HFは全滅し、操魂球の回収だけで精一杯という状況だ。完敗である。
だが、マクスウェルは心の底からこの一戦を楽しんでいた。
「さらばだ! ジョージ!」
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サッターズミル星系州の防衛は成功した。敵艦隊は既に星系を離脱し、州内に敵影はない。
ANU軍第4騎士師団のHF部隊を撃退。敵の半数以上のHFを大破させた一方で、味方HFの被害はゼロという戦果だった。
『
LBU軍のHFパイロットたちは、次々に騎士団のリーダーである『
聖青の戦姫ことユイは、「皆の戦果です」と謙遜するが、その謙虚さがますます人気を呼ぶ結果となった。
戦闘後の残務処理に追われながらも、ユイは人々への丁寧な対応を欠かさない。
ようやく一区切りついたところで、彼女は母艦『伊ー400』の艦長であるスージーと連絡を取った。ナノボットによる通信ウィンドウ越しに会話が交わされる。
「と、いう状況です」
『了解、基地司令にはこちらからも伝えておくね』
「お願いします。次の任務は……」
ユイがそう言いかけたところで、横からレイが顔を覗かせた。
「艦長」
「ちょ、ちょっとレイ!?」
いきなりの至近距離に驚くユイ。
「ユイを休ませるべきだ」
「レイ? アタシは大丈夫よ?」
「だめだ。以前、同じように業務が重なって危ういときがあっただろう」
「そ、それは……」
まだ『かが』に所属していた頃、中隊長としての業務が集中し、疲弊していたときのことだろう。ユイ自身はそれほど無理をしているつもりはなかったが、あのときはレイに救われた。レイに心配されるのは、純粋に嬉しかった。
『それなら心配いらないよ』
スージーが妙にニコニコしながら応じる。
『艦の物資が3割を切っているから補給が必要なの。次の任務は補給艦とのランデブー。その間はたっぷり休養が取れるよ』
「そうなんだ」
「了解した」
『という訳で、いちゃいちゃしてないで、さっさと帰艦してねっ』
「いちゃっ!?」
「了解。直ちに帰艦します、艦長」