【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ   作:ガルカンテツ

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第八十三話 光影
Part-A


 ビリー・エドワーズ率いる第5騎士師団(5th Cavalry Division)は、連邦領南西部の治安維持任務に就いている。

 もっとも、HFが必要になるほどの大規模な戦闘は起きていない。あったとしても、せいぜいデモの警備くらいだ。

 

 連邦の辺境であるビスマーク星系州に来たのも、デモの警備に際してHFを立たせ、民衆を威圧するという任務のためだった。威嚇のためだけに40mの巨人を立たせる。そのことにビリーは複雑な思いを抱いていた。

 

 しかし真面目な彼は、例えデモの警備であっても手を抜くつもりはない。明日の警備に備え、単身で下見に訪れていた。

 

 デモはメインストリートで行われるという。軍人として目立たないようローブを纏い、フードを目深に被って一人で歩く。

 

 ここは惑星の中心地で栄えており、人通りも多い。だが、街の雰囲気は決して明るくはなかった。メインストリートを行き交う人々の顔からは、生気が失われているように見える。

 

 疑問に思いながら歩いていると、通りの上空に浮かぶ巨大なビジョンパネルにニュースが流れた。

 

『連戦連勝のエイトリア貴族同盟(ANU)軍ですが、またしても北東部星系州を一つ解放いたしました!』

 

 アナウンサーの大げさな声に、周囲の人々も注目する。

 

 画面には、北東部の星系州知事とアラス・エルメンドルフが握手を交わす様子が映し出された。双方が報道用のナノボット・メディアボールに笑顔を向けている。

 しかし、その笑顔はどこか硬い。州知事の顔は引きつり気味で、アラスは何かを諦めたような表情を浮かべていた。

 

 ANU軍の広報からは、北東部の解放は極めて順調だという報告しか流れてこない。

 

 だが伝え聞くところでは、軍は惑星上での戦闘において幾度も敗退しているらしい。その事実は一切報道されずにいた。ANU側としてはあくまで北東部の『解放』を強調しており、独立を目指す局所泡連合(LBU)の詳細については、一切触れようとしなかった。

 

「ケッ、何が解放だ……」

 

 近くを通った男が、吐き捨てるように呟いた。メディアは報じずとも、民衆の口までは塞げない。だが、その不満が官憲に知られれば逮捕される恐れがあった。人々は鬱屈した思いを抱えつつ、慎重に口を閉ざしている。

 

 南西部で、こうした光景は幾度も見てきた。デモが行われるのも、不満の噴出が目的だろう。

 

 ビリーは無言のままメインストリートを離れ、路地裏へと足を踏み入れる。

 

「やめてください!」

 

 不意に悲鳴が聞こえた。声の方向へ急いで走ると、そこでは幼い少女が男三人組に囲まれていた。

 

「ぶつかったのは謝りますから、暴力だけは!」

 

 少女の悲痛な叫びにも構わず、男たちは下卑た笑い声を上げ、逃がさないよう囲んでいる。男の一人が、彼女の腕を掴んで離さない。

 

「ああ? お前がぶつかったのは領主様の息子だぞ? ただで済むと思っているのか?」

 

 取り巻きの一人が言い放つ。三人の中で一番身なりの良い者が、領主の息子なのだろう。そいつは乗馬用の鞭をしならせ、少女を脅していた。

 

「貴族に逆らうとどうなるか、その身に教えてやる! この閉魂者(Closed)が!」

 

 男が鞭を振りかぶった。少女を打ち据えようとしたその腕を、横から伸びた手が強く掴む。

 

「何があったかは知らんが、暴力は感心しないな」

 

 腕を掴んだビリーは、落ち着いた声で諭した。

 

「は? なんだお前」

 

 男たちは逆上し、ビリーに掴みかかろうとする。彼は抵抗しなかったが、その勢いでフードが外れてしまった。

 

「……お前、軍人か」

「そうだ。警備のために派遣された」

 

 軍服を見て判断したのだろう。男たちの態度がわずかに変わる。だが、領主の息子らしい男は、ふんぞり返って下卑た笑みを浮かべた。

 

「ふん! ならばパパに言って、お前をクビにしてやる。名前を言え!」

「ビリーだ」

「フルネームで言えと言っているんだ!」

「……ビリー・エドワーズ」

 

 仕方なしに名乗る。

 

「ははは! 覚えたぞ! ビリー・エドワーズだな! ……エドワーズ?」

 

 領主の息子は、何かを思い出すような顔をした。

 

「……エドワーズって、まさかあのエドワーズ公爵家か? い、いや、ですか?」

「そうだ」

 

 態度が豹変する。ビリーは、これまで何度もこういう経験をしてきた。絶対貴族主義が蔓延する南西部では、爵位こそがすべて。たとえ本人の実力とは無関係な家の名であっても、それだけで周囲の反応が変わる。ビリーはその事実を、常に自嘲気味に捉えていた。

 

「す、すみませんでした!! おい、お前ら行くぞ!」

「え? どうしたんですか?」

「いいから言うことを聞け! ビリー様、失礼いたしました!」

 

 男三人は蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。後には、ビリーと少女だけが残される。

 




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【完結】NGチルドレン【EVAFF】もよろしくお願いします
https://syosetu.org/novel/323311/
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