【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
Part-A
ビリー・エドワーズ率いる
もっとも、HFが必要になるほどの大規模な戦闘は起きていない。あったとしても、せいぜいデモの警備くらいだ。
連邦の辺境であるビスマーク星系州に来たのも、デモの警備に際してHFを立たせ、民衆を威圧するという任務のためだった。威嚇のためだけに40mの巨人を立たせる。そのことにビリーは複雑な思いを抱いていた。
しかし真面目な彼は、例えデモの警備であっても手を抜くつもりはない。明日の警備に備え、単身で下見に訪れていた。
デモはメインストリートで行われるという。軍人として目立たないようローブを纏い、フードを目深に被って一人で歩く。
ここは惑星の中心地で栄えており、人通りも多い。だが、街の雰囲気は決して明るくはなかった。メインストリートを行き交う人々の顔からは、生気が失われているように見える。
疑問に思いながら歩いていると、通りの上空に浮かぶ巨大なビジョンパネルにニュースが流れた。
『連戦連勝の
アナウンサーの大げさな声に、周囲の人々も注目する。
画面には、北東部の星系州知事とアラス・エルメンドルフが握手を交わす様子が映し出された。双方が報道用のナノボット・メディアボールに笑顔を向けている。
しかし、その笑顔はどこか硬い。州知事の顔は引きつり気味で、アラスは何かを諦めたような表情を浮かべていた。
ANU軍の広報からは、北東部の解放は極めて順調だという報告しか流れてこない。
だが伝え聞くところでは、軍は惑星上での戦闘において幾度も敗退しているらしい。その事実は一切報道されずにいた。ANU側としてはあくまで北東部の『解放』を強調しており、独立を目指す
「ケッ、何が解放だ……」
近くを通った男が、吐き捨てるように呟いた。メディアは報じずとも、民衆の口までは塞げない。だが、その不満が官憲に知られれば逮捕される恐れがあった。人々は鬱屈した思いを抱えつつ、慎重に口を閉ざしている。
南西部で、こうした光景は幾度も見てきた。デモが行われるのも、不満の噴出が目的だろう。
ビリーは無言のままメインストリートを離れ、路地裏へと足を踏み入れる。
「やめてください!」
不意に悲鳴が聞こえた。声の方向へ急いで走ると、そこでは幼い少女が男三人組に囲まれていた。
「ぶつかったのは謝りますから、暴力だけは!」
少女の悲痛な叫びにも構わず、男たちは下卑た笑い声を上げ、逃がさないよう囲んでいる。男の一人が、彼女の腕を掴んで離さない。
「ああ? お前がぶつかったのは領主様の息子だぞ? ただで済むと思っているのか?」
取り巻きの一人が言い放つ。三人の中で一番身なりの良い者が、領主の息子なのだろう。そいつは乗馬用の鞭をしならせ、少女を脅していた。
「貴族に逆らうとどうなるか、その身に教えてやる! この
男が鞭を振りかぶった。少女を打ち据えようとしたその腕を、横から伸びた手が強く掴む。
「何があったかは知らんが、暴力は感心しないな」
腕を掴んだビリーは、落ち着いた声で諭した。
「は? なんだお前」
男たちは逆上し、ビリーに掴みかかろうとする。彼は抵抗しなかったが、その勢いでフードが外れてしまった。
「……お前、軍人か」
「そうだ。警備のために派遣された」
軍服を見て判断したのだろう。男たちの態度がわずかに変わる。だが、領主の息子らしい男は、ふんぞり返って下卑た笑みを浮かべた。
「ふん! ならばパパに言って、お前をクビにしてやる。名前を言え!」
「ビリーだ」
「フルネームで言えと言っているんだ!」
「……ビリー・エドワーズ」
仕方なしに名乗る。
「ははは! 覚えたぞ! ビリー・エドワーズだな! ……エドワーズ?」
領主の息子は、何かを思い出すような顔をした。
「……エドワーズって、まさかあのエドワーズ公爵家か? い、いや、ですか?」
「そうだ」
態度が豹変する。ビリーは、これまで何度もこういう経験をしてきた。絶対貴族主義が蔓延する南西部では、爵位こそがすべて。たとえ本人の実力とは無関係な家の名であっても、それだけで周囲の反応が変わる。ビリーはその事実を、常に自嘲気味に捉えていた。
「す、すみませんでした!! おい、お前ら行くぞ!」
「え? どうしたんですか?」
「いいから言うことを聞け! ビリー様、失礼いたしました!」
男三人は蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。後には、ビリーと少女だけが残される。