【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
「大丈夫か?」
「あ、ありがとうございます……いたたた」
少女の手を取って立たせるが、どうやら膝を擦りむいているようだ。ビリーは彼女に背を向けてしゃがみ込んだ。
「歩くのが辛そうだな。背負っていこう」
「そんな!? 大丈夫です!」
「遠慮するな。どこに行けばいい?」
ビリーにとって、弱き者に優しく接することは当然の騎士道だった。
「すみません……。では、教会までお願いします。お兄さん」
「分かった」
「あっちです」
少女を背負い、路地裏の奥へと入っていく。華やかなメインストリートとは対照的に、辺りは薄暗い。時折、鼻を突くような酸えた臭いが漂ってくる。路地の隅には、力なく地べたに座り、何事か呟いている男の姿もあった。
ビリーは、これまでこうした路地裏に足を踏み入れたことがほとんどなかった。必ずミリィが何らかの理由をつけて止めていたからだ。彼女は、この街の裏側の惨状を知っていたのだろうか。
「ここです」
少女の案内に従い、エクス教の教会に辿り着いた。『聖女の塔』と呼ばれる通り、周囲のどの建物よりも高い塔がそびえ立ち、その頂には教会の象徴であるⅩ字が掲げられている。
正面の扉を開けて中に入る。礼拝堂には人の気配がなかった。
「すみませーん」
少女が声を上げると、奥から一人の女性が現れた。白い修道服に身を包んでいる。
「聖女さま!」
「あら、どうしたの?」
「ちょっと膝を擦りむいちゃって」
「まあ。まずは奥で傷を水洗いしてきてね。すぐに治療するから」
「はーい」
ビリーの背を降りた少女は、片足を引きずりながら奥へと向かう。残されたのは、ビリーと聖女の二人だけだった。
「ここまであの子を届けてくださったのですね、騎士様。ありがとうございます」
「いや、もののついでだったので。ここで怪我の治療も行っているのですか?」
「はい。もっとも、簡単な応急処置だけですが」
ビリーが知る教会といえば壮麗な大聖堂だったため、こうした市井の教会を訪れるのは初めてのことだった。
そう言葉を交わしている間に、少女が戻ってくる。
「そこに座ってね」
「はーい」
彼女を礼拝堂の椅子に座らせ、聖女は治療を開始した。救急箱から消毒薬を取り出し、傷口に吹き付ける。
「ひゃん!」
「我慢してね。ばい菌が入ると大変だから」
消毒を終えると、聖女は少女の膝にそっと手をかざした。
「この者の傷を癒したまえ。
その手から淡い緑色の光が溢れ出す。少女は心地よさそうに目を閉じていた。
「はい、終わりよ」
「ありがとうございます!」
驚いたことに、膝の擦り傷は綺麗に消え去っていた。少女が立ち上がり足の調子を確認するが、何の問題もなく歩けるようだ。
「あとでお腹が空くと思うから、早くお家に帰りなさいね」
「はい! あ、お使いの途中だった!」
少女は慌てた様子で、扉の方へ駆け出していく。
「また日曜の礼拝に来ますね、聖女さま! お兄ちゃんもありがとう!」
「ええ、またね」
「ああ、気をつけてな」
聖女とビリーは、共に手を振って少女を見送った。