【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
「『快挙! 美人艦長の名作戦で敵艦隊を撃滅!』、だってさ美人艦長さん」
「やめてよ……」
にやけ顔で艦長室の椅子に逆向きに座りながらニュースペーパーを読む春日ツクモに対し、部屋の主、呉ナナは溜息をつきながら抗議した。
「いいじゃないか。こうやって国民にアピールするのも軍人の仕事さ」
「そうなんだけど、私の容姿は関係ないじゃない。マスコミの取材の度に撮られまくったり、『ポーズをお願いします』とか、『一緒にいた横田さんと抱き合ってみてください』とか。一体、何の写真を撮るつもりよ」
「横田も可愛いからな。見目麗しいのはいいことさ」
ツクモがニュースペーパーから手を離すと、ナノボットが散開し、空中で消えた。
「ところで、まだ作業をしているのか? いい加減に休まないと倒れるぞ」
「だって、取材対応で時間を取られて、まだ報告書が終わっていないのよ」
「新星系攻防戦かい?」
「ええ。主要部分は提出済みだけど、統合幕僚監部から色々と質問が来ていてね」
ナナは机の上に浮いたスクリーンとキーボードを操作しつつ答えた。これもナノボットで構成されたものだ。実体があるため、キーを叩く指には確かな手応えがあった。
このナノボット・スマートターミナルという個人端末も、用が済めば分解されて手首のリングに格納される。
「色々あったからな。まあ、DDHの有用性を証明できたのは良かったじゃないか」
「そうね。HFの集中運用、アウトレンジ攻撃、二個中隊の有機的展開……。他の護衛隊群も参考にするそうよ。良かったわね、提案者の飛行長さん」
「あれは、零式の数と術式作戦機のお陰さ。まあ、隊員の有能さは訓練の賜物だけどね」
「確かにHFの数に関しては、皇国と帝国、あとは地球自由連邦くらいしか真似できないわね」
HFは本来、数を揃えることが極めて難しい兵器だ。
保有数最大の皇国や連邦であっても、年に30機程度の製造が限界であり、その製作には魔術士、巫術士、機術士、錬金術士など、総合的な霊子技術の蓄積が必要となる。その製造方法は国家の最重要機密であった。
「HFの数と言えば、赤壁連合の艦隊は壊滅状態のようだな。HFもかなり減ったらしい」
「そうね。それで連合の政情が不安定になっているとか」
「属国のうち、3か国が離脱を表明したそうだな。宗主国の両国でもテロなどが起きているらしいし」
赤壁連合は賠償金の支払いと戦闘で失った軍艦、そしてHFの喪失によって、著しく弱体化していた。特に属国は全戦力を新星系戦に無理やり投入させられたようで、宗主国への反発から連合離脱を次々と表明していた。
「そういえば、連合のHFがなぜ惑星上にいたのか、理由は聞いている?」
「ああ。案の定、惑星開発公社の中に連合の息が掛かった者がいたようだ。新星系戦の前から情報本部で察知していたらしい。もう犯人は捕まっているよ。今はルートを洗っている最中だそうだ」
「そう。それで第一空挺団があんなに早く到着したのね」
二人が会話を続けていると、艦長室のドアが控えめにノックされた。
「はい、どうぞ」
「失礼します、センパイ!」
入ってきたのは、飛行長補佐の大湊ヒフミ1等術尉だった。笑顔で入室してきた彼女だが、ツクモの姿を認めるなり、みるみるうちに渋い顔になる。
「……センパイ、ひょっとして、お邪魔でしたか?」
「そんなことないわよ」
「そうですか? 良かった」
恐る恐るという体でナナに確認するヒフミ。彼女はナナの士官学校時代の後輩で、ナナを追って『かが』への配属を希望したほど彼女を慕っている。ナナには満面の笑みを向けるが、ツクモにはあからさまなジト目を向けた。
「というか、何でいるんですか飛行長」
「何でって。ここは美味い紅茶が飲めるからな」
「私の唯一の趣味なんだから、喫茶店代わりにしないでよ。茶葉だって高いのよ」
ナナの部屋には取り寄せた茶葉がいくつもあり、彼女は美味しい淹れ方を日々研究していた。ツクモは度々、こうして艦長室で紅茶をご馳走になっている。
「飛行長、書類が溜まっていますよ。さっさと確認してください」
「後でやるって。そんなに邪険にするなよ」
「だって……」
「まあまあ。ヒフミ、あの件ね? ツクモ……飛行長にも聞いてもらいましょう」
「はい。ブルーリボン02の赤い彗燐光についてです」
星菱レイが搭乗するブルーリボン02が、赤い彗燐光を発生させた件。その調査は大湊ヒフミに一任されていた。
まず再現性があるかを確認するため、実際にレイに搭乗してもらったが、赤色の燐光は全く発生しなかった。
状況からパイロットの心理的要因が関係していると考え、レイを挑発するような言葉を並べてみたが、彼は一切動揺せず平常心のまま。逆に、からかわれたヒフミが涙目になる始末だった。
「と、いうわけで……再現はできませんでした……」
「あー、あいつは口が上手いからな。ご愁傷様、大湊ちゃん」
「放っておいてください、飛行長。……あ、ただ赤色になる現象については推測が立ちました」
ツクモにニヤニヤしながら言われイラッとするが、ヒフミはナナに向き直って説明を続けた。
「どんな現象なの、ヒフミ」
「はい。通常、彗燐光は、霊子から光子に相転移する際、およそ青の波長である430-490nmで拡散します。しかし今回の場合、赤の波長である640-770nmまで到達してから拡散しているようです。これはHFの霊子出力が極めて高い場合に発生するものと推測します」
「霊子出力か……星菱君の霊力は、それほど飛び抜けて高いのかしら?」
「いえ。平均よりは高いですが、突出しているわけではありません。数値上は横田さんの方が高いくらいです」
「うーん、個人の資質でなければ、HF側の要因? 彼はメーカーである星菱重工の御曹司でしょう? 特別なHFだとか」
「零式は平準化された量産機ですから、個体差としての特別性はありません。ただ、HFは個人の技量が色濃く反映される兵器ですので、彼の秘めた力の一端なのかもしれません」
「なるほど。まあ、身体的に問題がないのであれば、特に注意する必要はないかしら」
「そうですね。精密検査でも異常は見つかりませんでした」
「じゃあ、引き続き経過観察ということで……」
ナナが言葉を続けようとしたその時、端末にメッセージがポップアップした。
「何かしら……軍司令部から?」
「何かありましたか?」
「赤壁連合で同時多発的に武装蜂起が起きたらしいわ。第04護衛隊群も、すぐに出番があるかもしれないわね」