【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
Part-A
「何だと!? 全艦隊を撤退させるというのか!」
「そうだ」
旧12貴族専用の仮想会議空間は、現在
会議は、
その内容は、現在進行中である北東部解放作戦の中断と全艦隊の撤退である。突然の提案に対し、議長を務めるレジー・エルメンドルフ公爵が問い詰める。
「まだ戦略目的を達成していないのだぞ!」
「前日の報告通り、前方展開拠点としていた
『伊ー400』の急襲により、食料を積載していた補給艦はすべて破壊された。空母をはじめとする各艦にも備蓄はあるが、長期戦には到底耐えられない。保ったとしても、せいぜい一ヶ月半といったところだろう。
再度補給艦を送っても同じように敵に破壊される可能性がある。
「他所から調達はできんのか? たとえば現地の惑星からとか」
「我々の領土から略奪してどうする! 民を救うための作戦であろう」
大遠征の敵はあくまで
「……ぐ。ならば、あと一ヶ月待ってくれ。その後で撤退、というのではどうだ」
レジーは議長ではあるが、グレンとは同格の公爵である。命令を下す権限はなく、あくまで提案の形をとるしかない。絶対貴族主義は利害が一致しているときは迅速だが、一度対立が起これば機能不全に陥る。貴族同盟とは、各々が自身の利益を最優先して運営している組織だからだ。
「……分かった。一ヶ月後としよう。その間に撤退準備を進めさせる」
グレンはナノボット端末を操作し、計算上の猶予を確認した。
「再出撃には、どの程度かかる?」
「撤退後の状況を確認せねば何とも言えん。対策も練り直す必要があるだろう。解放した惑星の駐留軍も長くは持ちこたえられまい。可能な限り迅速に行うつもりだ」
「頼む。……それともう一点、エドワーズ卿に伝えておくことがある」
レジーが、少し言いにくそうな様子で付け加えた。
「ん? 何だ?」
「先日、HFの大半が大破した
「な、何だと……っ。それは……軍人として当然の任務だな。うむ」
グレンは明らかに動揺を見せた。一人息子のビリーは南西部での治安維持にあたっていたが、ついに激戦区である北東部へ投入される。親心としては不安だろう。だが、それを口にするわけにはいかなかった。
「議題はこれで終わりか? 私は用事があるので、失礼させてもらう」
グレンは議題が尽きたことを確認すると、そそくさとログアウトする。
仮想会議室に残ったのは、レジーの派閥に属する者たちだけだった。
「やれやれ、エドワーズ卿は軍人としては有能だが頭が固い。せっかく『オペレーション・ナイトメア』の効果が現れ始めたというのに」
「まあ、卿には詳細を伏せておりますからな」
同席していたアンソニー・アンドルーズが追従する。
「して、どうなさいますか? エルメンドルフ卿」
「
「左様ですな……ふむ、
アンソニーは太った腹をなでながら思案にふける。
「まあ、時間がかかるのはやむを得まい。それにしても、あの『青の偽姫』め。奴らのせいで予定が滅茶苦茶だ」
「全くとんでもない連中です。私の甥もやられました。今回の補給艦襲撃も奴らの仕業でしょう」
アンソニーの甥であるマクスウェル・アンドルーズは、
「どうにかならんのか。例の新型HF計画はどうなっている?」
「それについては、アンダーセン卿が詳しいはずです」
アンダーセン家は、軍需産業の雄であるボー・アンド・アロー社と繋がりが深く、新兵器開発の拠点となっている。
アンダーセン卿は普段の会議では沈黙を貫いているが、名指しされると、長い前髪で目を隠したまま口を開いた。
「ひひひ……プロジェクト『アーク・エンジェル』のことですな? 現在、娘をテストパイロットにして試作機の調整を進めております。ご期待に沿える性能を発揮できるでしょう」
アンダーセン卿の娘とは、マクスウェルの部下であったマリアナ・アンダーセンだ。彼女は一足先に南西部へ戻り、新型機のテストに従事していた。
「実際どうなのだ。あの『青の偽姫』のHFに勝てるのか?」
「問題ありませんよ、エルメンドルフ卿。あらゆるHFを凌駕する強力な機体に仕上がっております。ひひひ……」
「そ、そうか……。投入はまだ先になるだろうが、期待しているぞ」
「ひひひ、畏まりました」
「では、今日の会議はここまでにしよう」
不気味に笑うアンダーセン卿。
レジーはわずかに引きながらも納得し、会議を散会させた。