【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ   作:ガルカンテツ

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第八十七話 撤退
Part-A


「何だと!? 全艦隊を撤退させるというのか!」

「そうだ」

 

 旧12貴族専用の仮想会議空間は、現在エイトリア貴族同盟(ANU)最高意思決定会議の場として利用されている。出席している人数は、かつての半数にも満たない。

 

 会議は、宇宙軍(Navy)長官グレン・エドワーズ公爵の発言によって紛糾した。

 

 その内容は、現在進行中である北東部解放作戦の中断と全艦隊の撤退である。突然の提案に対し、議長を務めるレジー・エルメンドルフ公爵が問い詰める。

 

「まだ戦略目的を達成していないのだぞ!」

「前日の報告通り、前方展開拠点としていた第15遠征空母打撃群(15th ECSG)の補給艦が全滅したのだ。遠征軍10万人分の食料が決定的に不足している。兵を飢えさせるわけにはいかん」

 

 『伊ー400』の急襲により、食料を積載していた補給艦はすべて破壊された。空母をはじめとする各艦にも備蓄はあるが、長期戦には到底耐えられない。保ったとしても、せいぜい一ヶ月半といったところだろう。

 

 再度補給艦を送っても同じように敵に破壊される可能性がある。

 

「他所から調達はできんのか? たとえば現地の惑星からとか」

「我々の領土から略奪してどうする! 民を救うための作戦であろう」

 

 大遠征の敵はあくまで局所泡連合(LBU)軍だ。解放という名目を掲げている以上、現地調達などという強奪まがいの真似をすれば、民衆の反感を買うのは火を見るよりも明らかだった。

 

「……ぐ。ならば、あと一ヶ月待ってくれ。その後で撤退、というのではどうだ」

 

 レジーは議長ではあるが、グレンとは同格の公爵である。命令を下す権限はなく、あくまで提案の形をとるしかない。絶対貴族主義は利害が一致しているときは迅速だが、一度対立が起これば機能不全に陥る。貴族同盟とは、各々が自身の利益を最優先して運営している組織だからだ。

 

「……分かった。一ヶ月後としよう。その間に撤退準備を進めさせる」

 

 グレンはナノボット端末を操作し、計算上の猶予を確認した。

 

「再出撃には、どの程度かかる?」

「撤退後の状況を確認せねば何とも言えん。対策も練り直す必要があるだろう。解放した惑星の駐留軍も長くは持ちこたえられまい。可能な限り迅速に行うつもりだ」

「頼む。……それともう一点、エドワーズ卿に伝えておくことがある」

 

 レジーが、少し言いにくそうな様子で付け加えた。

 

「ん? 何だ?」

「先日、HFの大半が大破した第4騎士師団(4th Cavalry Division)と入れ替わりで、第5騎士師団(5th Cavalry Division)が北東部へ向かう。確か、卿のご令息が師団長を務めていたな」

「な、何だと……っ。それは……軍人として当然の任務だな。うむ」

 

 グレンは明らかに動揺を見せた。一人息子のビリーは南西部での治安維持にあたっていたが、ついに激戦区である北東部へ投入される。親心としては不安だろう。だが、それを口にするわけにはいかなかった。

 

「議題はこれで終わりか? 私は用事があるので、失礼させてもらう」

 

 グレンは議題が尽きたことを確認すると、そそくさとログアウトする。

 

 仮想会議室に残ったのは、レジーの派閥に属する者たちだけだった。

 

「やれやれ、エドワーズ卿は軍人としては有能だが頭が固い。せっかく『オペレーション・ナイトメア』の効果が現れ始めたというのに」

「まあ、卿には詳細を伏せておりますからな」

 

 同席していたアンソニー・アンドルーズが追従する。

 

「して、どうなさいますか? エルメンドルフ卿」

宇宙軍(Navy)の指揮権はエドワーズ卿が握っている以上、仕方あるまい。ナイトメア隊の出撃頻度を上げさせ、短期間で可能な限りの戦果を稼ぐしかないだろう」

「左様ですな……ふむ、調()()が必要か」

 

 アンソニーは太った腹をなでながら思案にふける。

 

「まあ、時間がかかるのはやむを得まい。それにしても、あの『青の偽姫』め。奴らのせいで予定が滅茶苦茶だ」

「全くとんでもない連中です。私の甥もやられました。今回の補給艦襲撃も奴らの仕業でしょう」

 

 アンソニーの甥であるマクスウェル・アンドルーズは、第4騎士師団(4th Cavalry Division)のHF部隊とともに壊滅し、現在は撤退の途にある。

 

「どうにかならんのか。例の新型HF計画はどうなっている?」

「それについては、アンダーセン卿が詳しいはずです」

 

 アンダーセン家は、軍需産業の雄であるボー・アンド・アロー社と繋がりが深く、新兵器開発の拠点となっている。

 アンダーセン卿は普段の会議では沈黙を貫いているが、名指しされると、長い前髪で目を隠したまま口を開いた。

 

「ひひひ……プロジェクト『アーク・エンジェル』のことですな? 現在、娘をテストパイロットにして試作機の調整を進めております。ご期待に沿える性能を発揮できるでしょう」

 

 アンダーセン卿の娘とは、マクスウェルの部下であったマリアナ・アンダーセンだ。彼女は一足先に南西部へ戻り、新型機のテストに従事していた。

 

「実際どうなのだ。あの『青の偽姫』のHFに勝てるのか?」

「問題ありませんよ、エルメンドルフ卿。あらゆるHFを凌駕する強力な機体に仕上がっております。ひひひ……」

「そ、そうか……。投入はまだ先になるだろうが、期待しているぞ」

「ひひひ、畏まりました」

「では、今日の会議はここまでにしよう」

 

 不気味に笑うアンダーセン卿。

 レジーはわずかに引きながらも納得し、会議を散会させた。

 




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【完結】NGチルドレン【EVAFF】もよろしくお願いします
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