【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
シロウ・カデナの出撃前の食事は、顎が疲れるほど硬いカロリーバーだった。
統合参謀本部からの指令で食料の使用制限がかかり、保存性を重視した固形の
これまでは新鮮な野菜や食肉が提供されていたが、
備蓄はあるが、長期戦を想定すれば制限は不可避だ。連邦の料理はもともと評価が低いが、MREと呼ばれる
この食生活が後一ヶ月は続くという。兵士たちの士気は下がる一方だ。
そんな険悪な空気の中、シロウ率いる
敵LBU軍のHFは惑星各地に分散しており、降下地点を問わず迎撃の危険がある。集中砲火を避けるため、強襲揚陸艦から二機一組のペアで広範囲に展開する。
巨大なラウンドシールドを底面に敷き、大気摩擦で赤熱しながら降下するHFF-15イーグル。重力制御を使用せず、防御を強化して被弾を厭わぬ自由落下。地上のHFが装備する火器程度では、まず撃墜されることはない。……はずだった。
『こちら03! 僚機04が被弾撃墜されました!』
「こちら01! 僚機の
『了解!……う、うわあああああ!』
「どうした、03!」
03の通信が途絶した。同じように狙い撃たれたらしい。
大気圏降下中のイーグルが、正確に撃ち落とされたのだ。敵は未知の新兵器でも投入してきたのか。今回の戦闘は、これまでとは毛色が違う。シロウは肌に刺さるような警戒心を抱いた。
──
『二機目、ヒット。撃墜を確認しました』
「おっしゃあ!」
ゴウガの駆る『ブルー・ナイト』の両肩にある砲身、25センチ二連装滑腔砲から放たれた
「この装備を『バイパーキャノン』と名付けよう!」
『有効範囲内に敵影なし。次へ移動しますわよ』
「……へーい」
ゴウガの提案を無慈悲にスルーするフィー。少し肩を落としつつも、ゴウガは素直に従い機体を移動させた。
──
シロウのHFF-15Jサムライイーグルは、攻撃を受けることなく着地に成功。素早く周囲を索敵すると、一機のHFを捕捉した。青いドレス状の外装に鎧を組み合わせ、羽飾りのついた兜を被る女性的なシルエット。
「あれは……!?」
資料で見た特徴と完全に一致する。
彼女を捕らえれば、
シロウは「カタナ」を抜き放ち、全力で青いHFへと肉薄。
だが、その進路を塞ぐように新たな敵機が立ちはだかる。
現れた機体は、HFF-16を青く塗装したカスタム機。シロウと同じく「刀」を装備していた。
(ほう、刀使いか)
シロウの実家であるカデナ家は、古くから刀剣を用いた武術を教えることを生業としている。その技術が連邦軍で重宝され、一族の地位を押し上げ、ついには12貴族の末席を得るまでになった。
軍人に限らず、連邦では皇国のサムライやニンジャという存在が奇妙な人気を博している。カデナ家の「サツ・ジゲン流」道場の門を叩く者も後を絶たないが、最後まで習得できる者は極めて稀だった。
刀は見た目以上に繊細な武器だ。正確な刃筋が通らなければ、藁束ひとつ斬ることはできない。力任せに振るうことに慣れた連邦人の多くは、その習得難度に挫折していった。
HFという巨体で刀を使いこなせるのは、シロウと数名の精鋭だけだと思っているが、目の前の青いHFはどうだろうか。
「お手並み拝見といきたいが、生憎と時間がない」
最優先事項は『
シロウはサツ・ジゲン流の象徴である、
「────────ッ!!!」
腹の底から絞り出すような猿叫と共に、一気に間合いを詰める。一撃必殺を期した斬撃。
しかし、その一撃は虚しく空を切った。
(何だと!?)
敵の青いHFは、滑らかな歩法でこちらの突進をかわし、シロウの視界から消えた。一瞬敵機を見失う。
(殺気!)
反射的に機体を前転させ、回避行動をとる。一瞬前までシロウがいた空間を、凄まじい斬撃が通り過ぎた。刃が音速を超えたのか、衝撃波が伝わり、重低音が響く。
立ち上がりざまに距離をとると、相手は残心の姿勢から再び刀を構え直す。
独特の歩法、そして刀の構え。シロウには見覚えがあった。
(テン・シント流か……!)
サツ・ジゲン流と並び、皇国三大剣術に数えられる流派。シロウもかつて皇国軍の武官と手合わせした際に経験している。
テン・シント流は強い。多彩な武器術と技を併せ持つ、完成された実戦剣法だ。
だが、弱点がないわけではない。多彩であるということは、それだけ選択肢が多いということ。生死を分かつ刹那の瞬間に、技の選択という迷いが生じる可能性がある。
対してサツ・ジゲン流は極限まで単純だ。最短距離で飛び込み、全身全霊の一撃で断つ。それだけ。一瞬の隙も与えず、ただ仕留める。単純ゆえの絶対的な強さ。
「そいでは、勝負しもんそ!」