【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
シロウの放った確信の言葉に、黒い動甲冑がびくりと硬直する。
「おっと、とぼけるなよ。何年付き合っていると思っているんだ。試合だって何百回、何千回と重ねてきたんだぜ! その独特の剣筋だけは、どう隠そうがごまかせねえよ、アラス!」
動甲冑の男は、構えていた大剣をゆっくりと下ろした。首元のスイッチを操作すると、気密装甲が左右に展開し、その素顔が露わになる。現れたアラスの顔は、深い苦渋の色に染まっていた。
「シロウ……」
「ちょっと考えれば分かることだったんだ。あの会議に出てきた黒い動甲冑。それ自体が怪しすぎた。中身が誰なのか、あえて秘匿されていたからな。だが、連邦のHF乗りでこれほど腕が立つ奴なんて、元
「……」
「あの会議の時は、別人が中に入っていたな? 大方、そのとき不在だったカタリナだろう。彼女はお前に対して盲目的に従順だからな」
「……」
「……まあいい。それには何か事情があるんだろう」
アラスは一言も発せず、ただ無言を貫く。その頑なな様子に、シロウは小さく嘆息して言葉を繋いだ。
「だが、これは何だ!」
シロウは咆哮し、刀の切っ先を周囲の光景へと向けた。その先からは、今なお爆発音や悲鳴が轟いている。LBUの基地だけでなく、近隣の街からも黒煙と炎が立ち上っていた。
「軍人を相手にするならまだ分かる! だが、民間人にまでこれほどの被害を出しているじゃないか!」
シロウは濁りのない怒りを、真っ直ぐにアラスへぶつける。
「何故だ! 何故こんな真似をする! 答えろ、アラス!」
沈黙を保っていたアラスが、ようやく重い口を開いた。
「……作戦だ」
「作戦だと?」
「統合参謀本部で発案された、正式な作戦だ。LBU軍に圧倒的な恐怖を植え付けることで、以降の占領行動を効率的に進められる……らしい」
「効率だと……っ!? そんなくだらないことのために、無抵抗の民間人を害するのか!?」
「……っ」
苦悶に顔を歪めるアラス。彼とて、本意でこの任務に就いているわけではないのは明白だった。シロウはさらに踏み込む。
「俺たちは連邦の軍人だぞ。守るべきはずの連邦国民を害してしまったら、本末転倒だろうが!」
「……」
そこで、シロウはアラスの様子がどこか奇妙であることに気がついた。
「お前……親父さんに命令されたな?」
「!」
アラスが明らかに動揺した。どうやら図星だったようだ。
「当たりか……。お前は昔から、親父さん――エルメンドルフ卿には逆らえないからな。そうでなければ、お前がこんな外道な作戦を了承するはずがない」
シロウがさらに問い詰めようとしたその時、アラスの動甲冑内から電子的なビープ音が鳴り響いた。何らかの暗号通信が入ったようだ。彼は手を耳元に当て、通信に応じる。
「……そうか。了解した」
「待て! まだ話の途中だぞ!」
シロウの制止を無視し、アラスは背を向けた。その去り際、何か小さな金属製の箱を投げ渡してきた。
「それは
アラスはシロウにそれだけ言い残すと、驚異的な脚力で走り去っていく。
「お、おい!」
黒い動甲冑は、待機させていたHFの
「くそっ! アラスの野郎……」
救難信号を発する通信機を握りしめる。シロウは少し思案した後、外套のポケットを探って小さな白い立方体を取り出した。以前、フジコから受け取ったナノボット・データキューブだ。
アラスから手渡された救難ビーコンと、そのデータキューブを見比べる。
「ふん。考えるまでもないな。……誰が
シロウは救難ビーコンを地面に叩きつけ、容赦なく踏み砕いた。そしてデータキューブをタップし、空中にウィンドウを展開する。その中に、「峯岡山フジコ」と記された電子名刺が浮かび上がった。
「これを使う時が、こんなに早く来るとはな……」
名刺の名前をタップする。その直後。
「ふふ、そっちの道を選んだのね」
「うおっ!?」
背後から突如としてかけられた声に、シロウは心底驚いて飛び退く。そこには、連邦軍の野戦服を身に纏った女性が涼しげな顔で立っていた。その左腕には、LBU軍の識別票である青い布が巻かれている。
「フジコか……。驚かすなよ、一体いつの間に」
「クノイチだからね。――本当に、そっちで良かったの?」
フジコは、シロウが踏み砕いたビーコンの残骸を顎でしゃくった。
「ああ。もう、あそこに戻る気は微塵もない」
迷いのない、強固な決意を宿したシロウの瞳を見て、フジコは満足そうに微笑んだ。
「じゃあ、こっちに付いてきて。あなたのお仲間が待っているわ」
「何だと!? 俺の部下たちは無事なのか!」
「もちろん。今頃、温かいご飯を食べているわよ。なんだか、もの凄くお腹を空かせていたみたいだから」
「ああ……最近はあの、クソ不味いレーションばかりだったからな。……俺にも何か食わせてくれ」
「いいわよ、お安い御用」
フジコの先導に従って歩きながら、シロウは周囲の惨状を見渡した。アラス率いる『ナイトメア』部隊はすでに完全に撤退したようだが、基地の各所からは未だに炎が上がっている。
近隣の基地から駆けつけたのだろう、LBU軍の車両が次々と飛来し、手際よく救難活動を開始していた。
「なんというか、……すまないな」
「いいのよ。でも、お腹いっぱい食べたら、その分はしっかり働いてもらうからね」
「ああ、もちろんだ。……嫌というほどな」
続く