【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
Part-A
「ひどい……」
『伊ー400』のブリッジに映し出された地上の映像を見つめ、横田ユイがぽつりと呟いた。
メインスクリーンに映し出されているのは、惑星アンティータムの
施設のほとんどが徹底的に破壊され、あちこちから未だに黒煙が立ち上っていた。現地のLBU軍が必死の消火活動や救難作業にあたっているが、被害は基地内だけに留まらず、隣接する周辺の街並みにまで及んでいる。救助の手が決定的に足りていないのか、瓦礫の広がる道端には動かなくなった人影も点々と残されていた。
「艦長! 私も地上の救助を手伝ってきます!」
「お願いね、ユイちゃん。医療班もすぐにシャトルで向かわせて」
「了解! レイ、行くわよ!」
「うん」
たまらずといった様子で、星菱レイを伴ってブリッジを飛び出していくユイ。
艦長のスージーは、医療班の出動準備をテキパキと命じた後、重い溜息を漏らした。
「間に合わなかったか……」
「現地との回線がつながりました。襲撃したのは、例の『ナイトメア』部隊だったようです」
副長の呉ナトミが沈痛な面持ちで報告する。凄惨な無差別虐殺を繰り返すと噂される、恐怖の精鋭部隊。彼らが駆る機体は、通常機とは異なり、特徴的な黒いマントを羽織ったHFイーグルだった。
「完全にしてやられたわね」
一度は惑星アンティータムでの戦闘が終結した直後、別星系からの緊急救援要請を受けてそちらへ急行したが、結果は空振りに終わった。そして『伊ー400』がこの宙域を離れた隙を突かれる形で、本拠地が急襲されたのだ。
敵は明らかに、こちらの防衛戦力を遠ざけた上で攻撃を仕掛けてきている。
「なぜ、これほど残酷な真似をするんでしょうか……」
艦から次々と発艦し、地上救援へと向かうHFたちの映像を眺めながら、ナトミがやるせなさを滲ませる。
再び映し出された地上の様子を見る限り、救助活動は依然として難航しているようだった。
「おそらく、古くからある『
「良き警官・悪い警官、ですか?」
スージーの説明によれば、それは心理学的な交渉術や尋問術の一種であり、過度な恐怖と、その後に与えられる安堵のギャップを利用して相手を思い通りに誘導するテクニックなのだという。『悪い警官』が最初に高圧的かつ暴力的な尋問を行って絶望させた後、今度は『良き警官』がそれを宥め、「私は君の味方だよ」と優しく手を差し伸べる。すると、被尋問者はその些細な優しさを『神のような救済』と錯覚し、容易に相手を信頼してしまうのだ。
「『ナイトメア』が凄惨な恐怖を植え付けた後なら、次にやってくる連邦の通常部隊に対して、民衆は進んで降伏してしまう。確かに、心理的には極めて有効な侵略手段ね」
「そんな欺瞞のために、これほどの人命を……」
軍事的な合理性は理解できても、その冷酷な残虐さに激しい嫌悪感を隠せないナトミ。
「ええ。ただし、やりすぎればかえって苛烈な反感を買いかねない諸刃の剣よ。それにね……」
「それに?」
「『悪い警官』役である『ナイトメア』が完膚なきまでに打倒された瞬間、その心理的効力はすべて消失するわ」
「なるほど……。恐怖の象徴がいなくなれば、前提が崩れますものね」
「だからこそ、敵にとってはそれを阻止しようとする私たちが邪魔でしょうがないのよ」
これまでも『ナイトメア』を排除すべくあらゆる手を尽くしてきたが、未だにその本隊を捕捉できていない。
「これは、私たちの動きを正確に読んでいる
「えっ? 『伊ー400』が隠密追跡されている、ということですか!?」
『伊ー400』は最新鋭の強襲霊電子空母である。常時稼働しているエーテルステルスにより
「どうやってこちらの位置を特定しているのかは、今のところ不明ね。……これは、あえて罠を仕掛けるしかなさそうだわ」
「罠ですか?」
「ええ。でも、まずは地上の救難を優先しましょう。本艦を降下させて」
「了解です。大気圏降下準備!」