【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ   作:ガルカンテツ

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Part-C

「くそっ! 本来なら、僕があの部隊を率いて戦場を支配していたはずなのに……っ!」

 

 HFF-117ナイトホークのコックピット内で、ラファエル・フランシスが悔しさに歯噛みしながら呪詛を吐いていた。メインスクリーンには、地上で繰り広げられている激しい局地戦の模様が映し出されている。防衛を行う局所泡連合(LBU)軍と、基地へと攻め立てるエイトリア貴族同盟(ANU)軍。

 

「あーあ、へたくそな指揮だな! 僕が指揮を執っていれば、あんな雑魚ども一瞬で壊滅させてみせるのに!」

 

 ラファエルが憤慨の矛先を向けているのは、眼下で不様な戦いを晒している自軍のHF部隊――第6騎士師団(6th Cavalry Division)だった。もともとは彼自身が師団長として君臨するはずの部隊である。

 

 しかし、父親であるフランシス卿が失脚して12貴族の座から追放された結果、その余波でラファエルも軍の階級を降格され、師団長の地位を不当に剥奪されてしまう。家柄の凋落がそのまま個人の評価へ直結する――それが絶対貴族主義というシステムの冷酷な現実だった。

 

 路頭に迷い、絶望の淵にあった彼に手を差し伸べたのが、イザベラ・マルムストロームだ。彼女の計らいによって、ラファエルは特殊任務を帯びた隠密HFパイロットとして抜擢された。

 

 スクリーンの向こうでは、六機の青いHFの目覚ましい活躍が戦況を左右している。『聖青騎士団(オーダー・オブ・セントブルー)』の擁する高性能機だ。彼女らの介入により、ANU軍は徐々に劣勢へと追い込まれていく。

 

「お前たちのせいで、僕はこんな惨めな思いをしているんだ。いつか必ず、その傲慢な鼻をへし折って復讐してやるからな……」

 

 両手棍を自在に操る青い機体に向けて、ラファエルは暗い憎悪の眼差しを注ぎ続けた。

 

 やがて、第6騎士師団(6th Cavalry Division)のHF隊は限界を迎えたのか、撤退の決断を下したようだった。上昇中に何機かが撃墜されながらも、命からがら離脱していく。ANU軍の完全な敗北だった。

 

「グリーンヘッド、こちらシール01。ANU軍の本隊が撤退した」

『シール01、こちらグリーンヘッド。了解したわ。例の『偽姫』の母艦を見失うんじゃないわよ』

「へーい」

 

 イザベラから下された特殊任務とは、ANU軍最大の脅威である聖青騎士団の母艦を隠密追跡すること。何よりも隠密性を最優先とするため、機体は常時エーテルステルスを展開しており、発見のリスクを高める激しい戦闘機動は一切禁じられている。

 

 イザベラが艦長を務めるSSN-5772『グリーンビル』は、戦域から遥か遠方の安全圏に身を潜めていた。いくら最新型の霊電子戦艦とはいえ、敵の目と鼻の先まで接近すれば逆探知される危険がある。

 そのため、エーテルレーダー反射断面積(ARCS)を極限まで抑えたナイトホークを放ち、至近距離での追尾を行わせているのだ。

 

 イザベラから任務を言い渡された際、万が一露見した場合は「お前一人の最小被害で済む」という身も蓋もない説明をされたが、それでも絶望の淵から拾い上げてくれた彼女に対し、ラファエルは狂信的な恩義を感じていた。

 

「『偽姫』の母艦が微動を始めました。随伴するHFの反応も消失したため、すべて艦内に格納されたものと推測。これより本格的な追尾を開始します」

 

 通信の傍受を徹底的に警戒し、通常の霊網(Aether Network)は使用せず、独立した超円環素子(HTE)通信を使用している。送信されるのは厳重に暗号化された音声データのみだ。

 

 惑星の引力を振り切り、ゆっくりと上昇してくる黒い葉巻型の巨体。それが大気圏外へ到達した瞬間、熱光学迷彩によってその姿が完全に消失した。ラファエルのナイトホークは、その見えない影の背後へと滑り込んでいく。

 

 完全に姿を消した敵艦は、視覚的にもレーダー的にも捉えることができない。その方角にはただ静寂な星々が輝いているだけだ。

 

 しかし、この宇宙において「質量」だけは決して誤魔化すことができない。どれほど姿を隠そうとも、質量を持った物体が移動すれば、時空を歪めて極めて微弱な重力波を発生させる。ブラックホールのような天体スケールの重力波とは比較にならないほど微小な歪みだが、ラファエルの駆るナイトホークには、その極微小な時空の漣を正確に検知できる特殊な重力波センサーが実装されていた。

 

 霊電子空母の直後にぴたりと定位することで、星系内に満ちている他の天体重力波のノイズに掻き消される前に、その航跡をダイレクトに捕捉し続ける。

 

 慎重に距離を保って追尾していると、前方で見えない敵艦が急速に再加速を開始した。次元弾道跳躍(Dimension ballistic leap)へと移行するための準備加速だ。ほどなくして、重力波の源は完全に虚空へと消え去る。

 

 周囲に敵の脅威がないことを確認し、ラファエルはナイトホークの機体形態を変形させた。人型へと戻った機体システムが、安定した高出力を取り戻す。ここに至ってようやく、ラファエルは霊網を通じ『グリーンビル』へとコンタクトを試みた。

 

「グリーンヘッド、こちらシール01。『偽姫』の母艦が離空(lift-off)した。跳躍直前の速度ベクトルと座標データを霊網経由で転送する」

『シール01、こちらグリーンヘッド。データ受信したわ、完璧よ。直ちに帰艦しなさい』

「シール01、了解」

 

 次元弾道跳躍の到達先は、離空の瞬間における加速速度と方向ベクトルを解析すれば、高精度で割り出すことが可能だ。この緻密な手法を繰り返すことで、彼らは無敵を誇る敵母艦の尾を掴み続けてきた。

 

 ラファエル自身は、積年の恨みを込めて今すぐこの手で奇襲し、撃沈してやりたい衝動に駆られていたが、イザベラからは厳命されていた。敵母艦の位置情報を統合参謀本部に流し続けること――その大局的な目的が何であるかまで、一パイロットに過ぎないラファエルは知る由もない。

 

「パパの仇は絶対に取ってやるからな、『偽姫』とその子分どもめ。……特に、あの裏切り者のジョージ。てめえだけは、どんな手を使ってでも絶対に許さねえ……!」

 

 微かに明滅するコックピットの光の中で、ラファエルは昏い歓喜を浮かべながら、執念深く呟いた。

 

 

続く

 




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【完結】NGチルドレン【EVAFF】もよろしくお願いします
https://syosetu.org/novel/323311/
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