【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
勝利を確信したアラスだったが、直後の光景に目を見張ることとなる。
大剣の突きは虚空を穿ち、金髪のロングヘアを模した鋼線が美しく宙に舞う。切断できたのは、金髪だけだった。
戦姫の機体は、先ほどのアラスと全く同じように、最小限の挙動で首を傾げ、その致命の突きを紙一重で回避している。視界を完全に遮断された、あの極限の状況下において。
突きを外し、完全にバランスを失ったストライクイーグルに対し、戦姫の長槍が電光石火のカウンターとして襲いかかる。
右膝、左肘、右肘、左膝――精密極まる神速の四連続突きが、関節にピンポイントで叩き込まれた。
完全に手足を封じられ、大の字の姿勢のまま硬直に陥るアラスの機体。
「しまっ――」
そして放たれた最後の一撃が、ストライクイーグルの頭部へと、深く突き刺さった。
――
「はぁ、はぁ、はぁ……っ!」
ユイの駆るバルキリーは、頭部に付着した泥を何度も拭い、ようやく周囲の視界を取り戻す。
目の前には、頭部を完全に損壊され、すべての機能を喪失した『ナイトメア』の隊長機が、仰向けに無残に倒れていた。胸部装甲が強制解放されているものの、フレームが歪んでいるのか
視界を完全に奪われたあの暗闇の中で、敵の攻撃を完璧に回避し、カウンターへと転じられたのは、日々の過酷な訓練の賜物だった。ユイは、かつて自分を厳しく、しかし温かく導いてくれた祖父、そして共に切磋琢磨して修行に励んだレイの存在に、心からの感謝を捧げる。
何はともあれ、恐怖の象徴であった隊長機を撃破できた。ユイはストライクイーグルの胸部に手を伸ばし、操魂球を確保しようとする。
その時。
上空から、純白の修道服を模した特異な外装のHFが猛烈な勢いで降下してきた。ユイには知る由もないが、それこそがカタリナの駆る人型霊電子戦機HFEA-6プラウラーだった。
『大佐を……大佐をいじめないで!!』
外部スピーカーから響き渡る、狂気的な少女の叫び。白い機体はユイのバルキリーの前に身を挺して立ち塞がる。
「え? な、何……!?」
突然の乱入に困惑するユイを置き去りにし、プラウラーはストライクイーグルの胸部から操魂球を強引に引き抜く。それを壊れ物を扱うように大事に抱え込み、即座に大気圏外へと向けて急上昇を開始する。
飛行のために重力制御を最大出力で稼働させているということは、機体の物理防御力はほぼ皆無に等しい状態だ。ユイが一瞬呆然とする中、周囲の味方機たちが即座に反応し、小銃による一斉射撃で迎撃を試みる。
しかし、未だ戦場に残存していた『ナイトメア』隊の他のイーグルたちが、同じように重力制御を強引に起動させて空へと跳び、プラウラーの盾となるようにその身を投げ出した。盾となった機体たちは、当然ながら無防備なところを集中砲火され、次々と撃墜されていく。
数機の壮絶な犠牲を経て、カタリナのプラウラーは完全に上空へと離脱していった。凄惨な残虐部隊という悪名からは到底想像もつかない、あまりにも献身的で、あまりにも盲目的な自己犠牲の行動だ。
『ユイ! 大丈夫!?』
「……レイ」
呆然と空を見上げていたユイだったが、コールサインではなく本名で呼びかけてきたレイの緊迫した声によって、ハッと我に返る。
「うん、アタシは大丈夫。……あ、他の敵は?」
『地上の敵HFはこれで全滅したよ。最後の数機も、僕たちがすべて叩き落とした。……上空から来た、あの白い機体だけは逃がしちゃったけど』
周囲を見渡せば、激しかった戦闘は止み、完全に終結したことが理解できた。LBU軍の一般HFは数機が倒れているが、『
『ユイ。本当に、あの隊長機を倒したんだね』
「ええ……。何とかね」
『なら、今すぐ勝鬨を上げよう』
「え?」
『ユイが全員に宣言するんだ。あの恐怖の象徴を打ち破ったんだって』
「……そうね。そう言わなきゃいけないわね」
実際のところ、戦いは文字通りの紙一重だった。敵の執拗な目潰し戦術には激しい怒りを覚えたが、最後の局面で身体を救ってくれたのは、幼い頃からの修行の成果だ。
特にトドメとなった一撃、テン・シント流槍術「五芒の槍」は、ほぼ無意識の境地から放たれた。結果として『ナイトメア』隊長の身柄は逃してしまったが、その無敵の座乗機を大破させ、戦場に転がしたのは紛れもない事実だ。
ユイは、地に伏したストライクイーグルが纏っていた黒いマントを毟り取り、それを天高く掲げた。バルキリー頭部のロングからショートになった金髪が風に揺れる。
全軍への広域通信、そして外部スピーカーの出力を最大にして、ユイはその声を響かせた。
「全LBU軍兵士に告げる! 恐怖の象徴『ナイトメア』は討ち取った!――私たちの、勝利よ!!」
その宣言を合図に、全LBU軍の兵士たちによる、大地をも揺るがす圧倒的な勝利の咆哮が、惑星の空へとどこまでも響き渡っていく。
続く