【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
帝国軍第20装甲旅団第202戦車大隊の1個中隊が、惑星上で敵戦車中隊と相対してから、かれこれ1時間が経過していた。戦車台数は互角。互いに合同軍の動向を窺い、膠着状態が続く。
戦車同士の戦闘は熾烈を極める。帝国軍としては、ここでの不必要な損耗は避けたかったが、このまま睨み合いを続けていても埒があかない。戦車中隊長は、ついに正面切っての対戦車戦闘を決断した。
戦車は、強力な火力と鉄壁の防御、そして高い走破力を併せ持つ陸の王者だ。
その起こりは、敵陣の掘った塹壕を突破するための履帯装備車両であった。以降、歩兵の支援や対戦車戦を想定し、防御力と火力を研ぎ澄ませてきた歴史がある。
現在の戦車は重力制御を用いるため、もはや履帯は不要となった。代わって装備されたのは、主砲の凄まじい反動を吸収するための多脚である。さらに霊子技術の向上により、
多脚による機動は、従来の前後移動に留まらない。横への平行移動や、地形を活かしたジャンプすら可能にしている。
脚部に備わったイオンドライブスラスターによるホバー移動に加え、いざ近接戦となれば脚先の鉤爪を用いた格闘戦すらこなす。
対戦車戦闘においては、これら機能を駆使した高速立体機動が行われる。その様は、『地上の星間機動戦』とも称されていた。
帝国軍の主力がレオパルト2A5であるのに対し、合同軍はT-90Mを配備している。
いずれも最新鋭機であり、性能に大きな開きはないはずだった。T-90Mは四脚式でレオパルトより一回り小さく、車高も低いため前面投影面積が小さい。標的としての捉えにくさを考えれば、撃破には骨が折れるはずだ。
防御力で勝っていても、決定打を欠いたまま泥沼の長期戦になるのではないか――戦場にはそんな予断が漂っていた。
帝国戦車兵たちは死闘を覚悟していたが、蓋を開けてみれば、敵の動きは驚くほど鈍重だった。
中隊所属の212号車から放たれた
主砲を放った砲手は、喜ぶよりも先に怪訝な表情を浮かべた。
「あれ? まるでブリキ缶だな。車長、なんかおかしくないですか?」
「ああ、まさか……装填手、弾種、通常徹甲弾」
「え? それ対建物用ですが」
「いい、確認したいことがある」
212号車は次の標的に狙いを定め、相変わらず緩慢な動きを続ける敵戦車の側面を撃ち抜いた。先ほどと同様、装甲は紙のように容易く貫かれる。車長は、炎上する敵戦車をモニター越しに確認して頷いた。
「やっぱり霊殻体が発生していないな」
「え? じゃあ乗員は開魂者じゃないってことですか?」
「ああ、動きが鈍いのも納得できた。中隊長に連絡しよう。やつら普遍人だ」
多脚による超高速機動は、本来であれば搭乗員を車内で攪拌してしまうほどの過酷なGがかかる。だが、霊殻体の内部では慣性制御が働くため、人間が耐えうる環境が維持されるのだ。
もっとも、振動は完全には相殺しきれず、乗り心地は最悪の一言に尽きるが。
かくして、第202戦車大隊を阻む障害は事実上消滅した。彼らは、逃げ惑う「ブリキ缶」を蹂躙しながら、怒涛の快進撃を続けたのである。