【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
「反応は二つ! 首都の南北に突如出現! あ、また一つ、東側にも増えました!」
「そう。まだ増えるかもしれないわね。飛行長、第一中隊、陸戦準備!」
『了解!』
『かが』の艦橋でも、霊測員が感知したHFの反応によって緊張が走っていた。第72戦車連隊からの救援要請も重なり、惑星上への部隊揚陸を急ぐ。
「大気圏内に降下。エリア23にてHF隊を降ろします」
「了! 大気圏内降下!」
艦長の指示を航海長が力強く復唱し、『かが』はその巨体をゆっくりと大気圏内へと沈めていく。
敵HFによる狙撃を警戒し、降下地点は都市部から一定の距離を置いた地点に設定された。飛行甲板に並んだHF隊は、地表に最接近したタイミングで次々と地面へと飛び降りる。
「レインボータワー。こちらブルーリボン01。ポイントデルタに向かう」
『レインボータワー了解』
HF隊は二機一組のペアとなり、首都を目指す。01と02は西側を担当。未だ敵HFは出現していない区域だが、増援が現れた際の備えとして待機に回る。
都市部へ接近するため、重力制御を駆使して地表すれすれを滑るように飛行する。
視界に飛び込んできた地表の光景は、荒れ果てていた。かつては豊かな畑であったろう場所は、砲弾が穿った無数のクレーターに埋め尽くされている。点在する民家も無残に破壊され、中には火災の後か、黒焦げの骸を晒しているものもあった。
ユイは職業軍人である。地上戦の過酷さは映像資料で学んでいるし、そこで何が行われているかも理解しているつもりだった。
自らも敵国軍人と刃を交え、装備を破壊し、命を奪うこともある。だが、これまでの戦場は主に宇宙空間であり、一般市民と遭遇する機会は皆無に等しかった。
自分たちは何を守っているのか。その問いに対する現実が、今、目の前に広がっている。
ユイが思案に暮れながら小さな集落の上空を通り過ぎようとした時、倒壊した建物の傍らに、何かが動く影が見えた。
「あれは……!?」
機体を空中で静止させ、光学センサーをズームする。02も足並みを揃えるように停止した。
『01、こちら02。どうした?』
「……子供が、泣いてるわ」
十歳くらいの少女が、地面にしゃがみ込んで泣きじゃくっているようだった。付近に他の大人の姿はなく、親が守っている気配もない。
周囲を広域スキャンしたが、生体反応はこの少女だけのようだ。事前情報ではこの一帯は既に避難が完了しているはずの地域だった。
「レインボータワー。こちらブルーリボン01。子供一名を発見。逃げ遅れの可能性があります。至急、保護を要請します」
『レインボータワー了解。直ちにホーロー国軍へ連絡し、保護班を向かわせる』
「ブルーリボン01了解。……よろしくお願いします。以上」
流石にHFの巨体で降り立てば、逆に少女を怯えさせてしまう。正確な位置座標を転送し、ユイは先を急いだ。置いていくのは心苦しいが、今は任務が最優先だ。
「02、ごめん。先を急ぎましょう」
『……02了解』
レイは多くを語らなかったが、その沈黙には複雑な感情が入り混じっているように感じられた。戦域には、きっと同じような境遇の者が大勢いるはずだ。だが、そのすべてを拾い上げる時間は今の彼らにはなかった。
首都西側へと進む中、南側へ向かった海田ガイから通信が入った。
『こちら03。南側の敵HFを無力化した。現在、パイロットへ投降を勧告中だ』
早い。ポイント到着から交戦、勝利まで、わずか数分という手際の良さだ。特訓の成果が如実に表れている。こちらも遅れを取るわけにはいかない。
『ブルーリボン01、こちらレインボータワー。西側にも新たなHF反応あり。速やかに対処されたし』
「ブルーリボン01了解!」
予想通り、潜伏していたHFが姿を現したようだ。ユイは発見ポイントへと機体を加速させる。
その時。ゴウガではなく、その僚機を務める信太山ケイから通信が割り込んできた。その声は、悲痛な震えを帯びていた。
『こちら04! ……子供です!! 無力化したHFには、まだ七歳くらいの子供が乗せられていました!! 何で……何でこんな酷いことが……!』
「!!」
ユイは反射的に、ブルーリボン01の出力を最大まで引き上げた。
大気を切り裂く轟烈な衝撃波を置き去りにし、空色の機体は戦域へと突っ込んでいく。