【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ   作:ガルカンテツ

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Part-D

 敵HFを視界に捉える。小銃すら構えず、ただ呆然と立ち尽くしていた。幼い子供が正規のHFパイロットであるはずがない。囮か何かの駒として、無理やり座らされたのだろう。

 

 01は敵HFへと急速に接近し、機体を傷つけぬよう最小限の体術のみで瞬時に組み伏せた。そのまま自機の出力を調整し、相手を固定した状態に持ち込む。

 

「02! 周囲の警戒をお願い!」

『02了解、気を付けて』

 

 さすがはレイだ。ユイが何をしようとしているのか、言葉にせずとも察しているようだった。

 

 ユイは零式の胸部ハッチを開放した。重厚なモジュール装甲の深奥にある操魂球が露わになる。赤い球体の表面が波打ち、中からパイロットスーツに身を包んだユイが飛び出してきた。

 

 身体強化を使って、高所から迷いなく飛び降りると、組み伏せた敵HFの胸部ハッチへと肉薄する。

 

「確かこうやって、こう……」

 

 敵HFミコヤ21兵士型の構造は頭に入っている。パイロットが失神した際などのための、外部からの操魂球開放機能があった。手順通りに装甲パネルのコンソールを操作すると、重い駆動音と共に胸部装甲が展開され、操魂球の中から小さな人影が滑り出てくる。

 

 予想通り、そこにいたのは7歳ほどの幼い子供であった。

 

 何が起きたのか理解できず目を白黒させていた子供だったが、見慣れぬユイの姿を認めると、怯えたように震え始める。

 

「大丈夫よ。お姉ちゃんは君を助けたいの」

 

 子供にも伝わるよう、赤壁連合語で静かに語りかけた。

 

「たすけ……?」

「そうよ。アタシは君の味方よ」

 

 しゃがみこんで目線を合わせ、幼い頭を優しく撫でる。子供はビクッと身体を強張らせたが、やがて抵抗を止めてユイに身を委ねた。その手を取り、連れ添うようにして地面へと降り立つ。

 

 着地して周囲の安全を確かめると、再びゆっくりと頭を撫でてやる。硬直していた子供の表情が徐々に和らぎ、呆然としていた瞳がみるみるうちに潤んでいく。ユイはたまらず、その小さな身体を抱きしめた。

 

「もう大丈夫よ。誰も君を傷つけないわ」

 

 子供は堰を切ったように泣き出す。ユイは抱きしめる腕に、そっと力を込める。

 

 レイは周囲の警戒を怠らず、その光景をHFの中から見届けていた。実にユイらしい、慈愛に満ちた行動だ。

 

 ひとまず事態は収束した――そう安堵した瞬間、レイの視線が子供の首元を捉えた。ズームした視界の中で、その『首輪』が禍々しい赤い光を点滅させていた。

 

 レイもまた操魂球から飛び出す。弾かれたように、ユイと子供が寄り添う場所へと駆け出した。あの赤い光は、爆発の前兆だ。

 

「ユイ、離れて!」

 

 腰に帯びていた護身用の小太刀を、流れるような動作で引き抜く。

 

「ちょっと、レイ!?」

 

 困惑するユイは子供を離さなかったが、レイは迷うことなく小太刀を閃かせた。澄んだ金属音がキキンと2回、戦場に響く。

 

 子供にも、そして抱きしめているユイにも一切の傷を負わせることなく、爆破寸前の『首輪』だけを切断してみせる。神速にして精密な、驚異的な技量であった。

 

 レイは地面に落ちた二つ割れの『首輪』を瞬時に掴み取り、全力で遠方へと投げ飛ばした。

 

「伏せて!!」

 

 察したユイは子供を庇うように抱き込み、レイもその場に身を伏せた。

 

 直後、投げ出された『首輪』が空中で炸裂する。

 

 爆発規模こそ小さかったが、首を破壊し命を奪うには十分すぎる威力だ。間一髪、3人は難を逃れた。

 

――

 

 その後、ホーロー国軍の女性兵士が迎えに来て、子供を無事に保護してくれた。別れ際、子供が小さく手を振ってくれたことに、ユイも笑顔で応える。

 

 首都攻防戦は、ようやく決着を見た。

 

 HFはすべて無力化され、子供も無傷で保護された。結局、『首輪』が実際に作動したのは、この一機だけだったらしい。救出の様子を見て、何者かが遠隔でスイッチを押したのだろうか。

 

 普遍党員たちは子供を囮にして逃亡を図っていた。彼らは逃げ惑う一般人に紛れ、ご丁寧にダミーの『首輪』を付けて開魂者に成り済ましていたが、すぐに見破られ拘束される。

 

「……大丈夫かな。あの子」

「ホーロー国は普遍党が消滅し、平等党は開魂者も平等に扱うことを宣言している。きっと、大丈夫だよ」

「そっか。そうよね……」

 

 そう言いながらも、ユイはどこか思案げな表情を浮かべていた。普遍党の支配がなくなったとはいえ、身寄りのない子供が一人で生きていくのは過酷なはずだ。そんなユイの心中を察し、レイは静かに嘆息した。

 

「仕方ないさ。あとは、ホーロー国に任せるしかない」

「それはそうだけど……」

 

 納得しきれない様子のユイに、レイは淡々と言葉を継いだ。

 

「あの子をユイが引き取る、というわけにはいかないだろう? 途中の女の子もそうだ。自分にできることしか、自分にはできないんだよ」

「……」

 

「それに、こんなことは今も世界中で起きている。普遍人と開魂者、貴族と平民、持てる者と持たざる者……。どこにでも格差はある。皇国だって例外じゃない。すべての人を救い続けることは、不可能だ」

「それでも!」

「うん。だから、ユイはユイのできることをすればいい」

 

 レイはそう告げると、片膝を突き、そっと右手を差し出した。

 

「ユイは、自分のやりたいことをやればいい。ボクは必ずそれを助ける。君はただ、前だけを向いていてくれ」

 

 少しの戸惑いの後、ユイはレイの意図を汲み取った。

 

「……アタシは、まだただの小娘よ?」

「うん」

「横田家という恵まれた家に生まれた、苦労知らずのお嬢様よ?」

「うん」

「力も弱いし、決して強くもないわよ?」

「いや、強いけど」

「そこは『うん』じゃないのね……。そうね。アタシに、まだ何ができるのかは分からないけれど」

 

 そう言って、ユイは自分からレイの手を握り返した。かつて、幼い頃に結ばれた約束の時とは逆の仕草だ。レイもゆっくりと立ち上がる。

 

「アタシはアタシのできることをしてみるわ。お母さんに教わった『ノブレス・オブリージュ』という言葉を胸に」

 

 ユイは肌身離さず身に着けている形見のペンダントを、パイロットスーツ越しにぎゅっと握りしめた。

 

 レイは、彼には珍しい柔らかな笑みを浮かべて答えた。

 

「うん。ユイは、それでいい」

 

 後に『赤壁戦争』と呼ばれることになる一連の動乱は、こうして幕を閉じた。

 

 連合は解体され、属国は次々と独立を果たす。マンジュン国では普遍党が壊滅して平等党が政権を掌握し、ラヴァーグ国では汎ペルセウス帝国との不平等条約締結を機に民衆革命が勃発、政権が刷新された。

 

 帝国は新領土を手に入れ、皇国は親皇国となった諸国を緩衝地帯として確保する。

 

 赤壁連合という巨大な壁は消滅したが、そこから生まれた独立と革命の機運は全銀河へと波及し、新たなる不穏な空気を醸成しつつあった。

 

 

続く

 




【完結】NGチルドレン もよろしくお願いします
https://syosetu.org/novel/323311/
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