【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
一方、戦後処理を終えた皇国は、新星系編入の祝賀ムード一色に染まっていた。
ヤマト州を皮切りに
皇国民の祭り好きは筋金入りだ。
肝心の新星系だが、開発は緒に就いたばかりである。大気組成こそ居住可能レベルに調整されているが、それ以外のインフラ整備はこれからだ。
植物が育つよう土壌を改良し、微生物や種子の散布、植林を行い、惑星に生命の息吹を芽生えさせる。並行して港湾施設の建設、航路整備、植民準備を進め、移民船団を受け入れる。星系州として真に機能するまでには、数十年単位の時間を要するだろう。
計画では、皇紀5000年頃に定常化する見込みとなっている。
州の名は、皇紀一万年の折り返しという意味を込め、
ちなみに国名である「大八洲皇国」を「大九洲皇国」へ改称すべきかという議論もあった。だが、皇国語ではそのまま「大八洲皇国」とし、共通語表記である "United Empire of Great Yamato and Seven states" の "Seven" を "Eight" に変更することで決着した。
ヤマト州でも昼のパレードが盛大に行われ、大勢の皇国民が沿道を埋め尽くした。
厳重な警備の中、オープンカーから手を振る皇族たち。その車列には新星系戦の功労者である軍人も参加しており、『かが』艦長の呉ナナと、獅子奮闘の活躍を見せた横田ユイも、車上から少々強張った笑顔で手を振っていた。
――
夜になり、各地で祭りが始まった。神社の境内には所狭しと屋台が並んでいる。
「うーん、美味しい」
屋台の焼きそばを頬張りながら、星菱レイがしみじみと呟いた。
「店や食堂の焼きそばも美味いけど、目の前の鉄板で焼く屋台の焼きそばは格別だな。ちょっと焦げていたり、硬いキャベツの芯があったり、やたら赤い紅ショウガが乗ってたり。それもまた味がある」
軍の駐屯地付近にある神社でも祭りが開かれており、『かが』の乗員たちも繰り出している。
「ようレイ。焼きそば美味いか?」
「うん」
レイは三沢ゴウガ、海田ガイの男3人で屋台の並ぶ縁日を歩いていた。レイとゴウガはレンタルの浴衣に雪駄、ガイは甚平に下駄という豪快な出で立ちだ。
なぜそんな格好かといえば、後で合流予定の女子チームに強制されたためである。
「レイは満喫しているようだが、はしゃぎ過ぎるなよ」
「いや、ゴウガにだけは言われたくないよ」
ゴウガはヒーローのお面を頭の横に付け、両手にチョコバナナとフランクフルト、さらに金魚の入ったビニール袋までぶら下げている。その金魚、艦で飼うつもりなのだろうか。
「俺はカタヌキってやつを試したんだが、上手くいかなかったな。難しい」
「まあ、ガイには合わなそうだね」
男3人で屋台街を回っていると、正面から5人の少女たちが近づいてきた。合流予定時刻には少し早いが、偶然出会ったらしい。
ユイは紺色を基調とした流水紋の浴衣。三沢ナユは黄緑色、信太山ケイは赤色、横須賀リンは黒色、舞鶴シュユは花柄と、それぞれ華やかな彩りの浴衣に身を包んでいる。髪も綺麗に結い上げられていた。
「よう姉さん」
「ゴウガ……あんた浮かれすぎよ」
ゴウガの姿に呆れるナユ以外の少女たちは、男子の反応を期待して視線を送る。
「どう? 似合う?」
「うむ、馬子にも衣装だな!」
はにかみながら袖をひらひらさせるケイに対し、ガイは言葉の意味を履き違えたまま、とんでもない感想を放った。
「ちょっとガイ。それは褒め言葉じゃないわよ」
「そうだよ! ケイに失礼じゃないか!」
「え? そうなのか?」
リンとシュユに詰め寄られ、ガイが困惑する。やはり誤用だったようだ。
「まあまあ、ガイならそう言うと思ったから……」
「そんなんじゃ駄目よケイ。ちゃんと教育しなきゃ」
「リン、教育って……」
「そうそう、あっちを参考にね」
シュユの視線の先へ全員が注目する。そこには、笑顔で恥じらうユイと、真剣な表情のレイがいた。既に二人だけの世界が形成されている。
「どう……かな?」
「うん、綺麗だよ。髪型も変えたんだね」
「そうなの、アップにしてみたの」
「似合ってるよ、ユイ」
「えへへ」
どストレートに褒めるレイに、少女たちが小声でキャーキャーと騒ぐ。その盛り上がりをよそに、ナユは少し違和感を抱いていた。
――
屋台街に来る前、レイに後で合流することを伝えた時のことだ。
「と、いうことで後で合流ね。皆で浴衣で会いましょう」
「うん」
「ユイすごい可愛いから、ナンパされたりしてね」
「そうだね」
(……あれ?)
ナユは、その時のレイの淡白な反応が引っかかっていた。
「ユイがナンパされてもいいの?」
「それがいい人なら別に。いや、そんなところでナンパするやつが良い訳ないか……」
(うん?)
てっきり怒るか嫉妬するかと思ったが、予想とは違った反応だった。
既に恋人同士のような関係に見えるが、そうでもないのか? どちらかといえば兄妹か、あるいは保護者の目線だ。
気持ちのベクトルが噛み合っているか分からない。ユイからは特大の矢印が向いているのに。
普段の言動から好意があるのは確実だが、その種類が違うのだろうか。愛情というより、尊敬や崇拝に近いような……。
――
「ナユー、いくわよー?」
「あ、うん今行く」
「早く行かないと良い席取られちゃうよ」
ユイに声を掛けられ、思案から現実に引き戻される。この後は花火大会の見物だ。
(ユイに本気ではないのなら、私にもチャンスが? ……いや無いか。何か切っ掛けがあれば意識するんだろうな、レイ君は)