【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
夜空に打ち上がった四尺玉が、目の前で弾けた。花火大会の中でも最大級のサイズだ。放射状に広がる光の星が、視界いっぱいに輝きを放つ。
「たーまやー!」
「……楽しいの、それ?」
「いやいや、なかなかのものだよ? まあ、腹にドーンと響く衝撃がないのが少々寂しいがね」
ナナの追求に答える春日ツクモが見ていたのは、ナノボットが立体投影した花火大会の生中継映像だった。2人は会場に足を運んだわけではなく、駐屯地の執務室に身を置いていた。
パレードに駆り出されたナナは、山積した残務処理のため、祭りそのものには参加できなかった。一仕事を終え、優雅に紅茶を淹れていたところに、ツクモが遠慮なくお邪魔してきたという形だ。
「ツクモこそ、お祭りに行かなくてよかったの?」
「いや、親戚の子たちには誘われたんだがね……」
「背振山さんと高良台さんね。行ってくればよかったのに」
「いや、10代女子2人と歩くのはちょっとね……」
軍内ならともかく、祭りの場でアラサーの男が少女2人を両手に花として連れ歩けば目立ちすぎる。下手をすれば事案として通報案件だ、とツクモは真顔で弁明した。
「さすがにそこまでは……」
「まあ、そんな気分じゃなかったのさ。ここで君の淹れた美味しい紅茶を飲んでいる方が、よほど楽しいよ」
「そう?」
「そうさ。ついでにこの紅茶にブランデーでも入っていれば最高なんだが」
「そんなものはありません」
プイっと顔を背ける仕草が、年齢よりも幼く甘えているように見えた。普段、部下の前では決して見せないその表情に、ツクモはわずかに動揺し、別の話題を振った。
「ナナこそ、祭りに行かなくてよかったのかい? 仕事は終わったんだろう? 環局所泡合同演習計画」
「うん、ヒフミには誘われたんだけどね。……私も、そんな気分じゃなかったから」
少し様子がおかしい。紅茶のカップを傾けるナナの横顔に、微かな影が差している。
「……何かあったのか?」
「第05護衛隊群の話は聞いてる?」
「ああ、今度新設される護衛隊群のことか。新星系もできたしな。防衛範囲の拡大に伴う措置だろう。まあ、すぐに形にするのは難しいだろうけど」
護衛隊群の新設には、人員だけでなく護衛艦やHFなどの装備一式を揃え、高度な練成を行う必要がある。一朝一夕に成せることではない。
「それもあるんだけどね。今日の会議で今後の世界情勢についての予測があって……。どうやら、戦争が多発する時代に入ったようなの。そのための、急速な軍備増強らしいわ」
「それはそうだろうな。たった50年の平和な時代は終わった、ということか」
皇国において大規模な戦闘は、50年前に発生したモーゴ国によるリュウキュウ州侵攻戦争以来、一度も起きていない。それ以降は、小規模な紛争や国内外の治安維持活動が主だった。
現在の護衛艦隊の編成は、そのリュウキュウ州侵攻戦争での戦訓に基づいている。特に、キロメートル級の巨大戦艦は廃止され、駆逐艦(DD)サイズこそが
加えてHFの有効性が認識されたことで、他国のような航空機型機動兵器の運用は廃止され、全戦力がHFへと置き換えられた。
実戦経験を経て強力な軍隊へと変貌を遂げた皇国軍は、今や銀河国家群でも上位に名を連ねる軍事大国となっていた。
カップを置いたナナは俯き、少し震える声で続ける。
「ツクモが近衛を辞めてくれてよかった……。あのままだったら、あなたはきっと……」
「まあ、真っ先に最前線へ送られただろうな。近衛はそのために存在しているんだから」
顔を背けて座っていたツクモを、立ち上がったナナが背後からそっと抱きしめる。
「嬉しかったの。ツクモが、『かが』の飛行隊に来てくれて」
「……君の頼みだったからね。でも、戦火が広がれば『かが』だって戦闘に参加する。危険なのは同じだろう?」
「全然知らない場所で戦うより、ずっといいわ。それにその時は、私が全力で守るから。あなただけじゃなく、乗員全員をね」
「そうだな。君になら、それができるさ」
抱きしめるナナの手に触れ、ツクモはそのまま彼女の方を向いて唇を重ねた。
「……こういう時、いつもならお邪魔が入るのがお決まりだったんだがな」
「みんなお祭りに行ってるわよ」
「じゃあ、しばらくは二人きりか」
「うん」
二人は、再び静かに口づけを交わした。