【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
ビリーの悲鳴を背に、銀髪のロングヘアに緑の瞳を持つ長身の女性が、レイとユイに近づいてきた。
「うちの先鋒が色々失礼を言って、勝手に順番を変えさせてしまい申し訳ない」
「いえ、特に問題ありませんから」
汗をタオルで拭っているレイの代わりに、ユイが彼女と握手を交わす。
女性は味方にフルボッコにされているビリーをちらりと見て、苦笑した。
「あれでも人柄は良いのだがな。どうしても女性に対して態度を変えてしまうんだ。それも彼なりの優しさだろうが、今の時代には合わないな」
「そうですか」
呆れつつも、ビリーのことを評価はしているようだ。根が善良なのは確かなのだろう。
「紹介が遅れたな。私はヒルデガルド・ラムシュタイン。ヒルダと呼んでくれ。大将を務めている」
「アタシは横田ユイ。次鋒になったわ。先鋒だった彼は星菱レイ。……ちょっと聞いてもいいかな? その耳は?」
ヒルダという女性の耳は、先端が若干尖っていた。まるで物語に登場するエルフのように。
「これか? 変だろ? 一族代々の特徴らしい。国名の略称E.L.F(Earth Liberal Federation)に合わせなくてもいいのにな」
自分の耳を触り、はにかむヒルダ。クールなお姉さんという雰囲気だったが、笑うと年相応のあどけなさがある。
「ううん、とってもチャーミングよ、ヒルダ」
「ありがとう、ユイ」
「一族って、ラムシュタイン家? 確か12貴族よね」
連邦の12貴族といえば、数ある貴族の中でも特権的な地位にある家柄だ。事実上、連邦を牛耳っていると言っても過言ではない。ラムシュタイン家も、ビリーのエドワーズ家もその一角だ。
「そうだ。でも私は家のことには全然関与していない。そのために軍人になったのだしな。今の時代でも、女性は政治にはあまり関われないんだ」
「そう、苦労してるのね」
「そうでもないさ。政治なんかより剣を振っていた方が性にあっている。ユイもだろ?」
「うん、そうねヒルダ」
握手しながら、くすくすと笑い合う二人。いつの間にかすっかり打ち解けている。レイはうんうんと頷きながら、ユイのコミュニケーション能力の高さに感心していた。
試合結果は3勝2敗で皇国チームの勝利。剣術部門団体戦で見事優勝を果たした。親睦目的の交流戦であるため、賞金などは出ず賞状のみだが、名誉ある勝利だ。
しかし、外野は別の意味で盛り上がっていた。
「オーマイガー! 俺の金が!」
「フxック! 今月の給料が溶けた!」
「Hahaha、俺が奢ってやろうか?」
裏で賭け事をしていたらしい。連邦軍人らしい自由さだ。皇国軍人も数名混じっていることには、そっと目を瞑ることにする。
「ファンタスティック! サムライガール!」
「オー! サムラーイ! ゲイシャー! ニンジャー!」
別の意味で興奮している連中もいたが。
――
競技は他にも多数あり、第401人型機動戦闘飛行隊のメンバーも各所で奮闘していた。
男女別の格闘部門、女子の部には信太山ケイが出場していたが、惜しくも決勝で敗退。ルール上立ち技のみだったため、寝技や関節技を得意とする彼女には不利な戦いだったようだ。
「おっしゃーーー!!」
一方、男子の部では海田ガイが見事優勝。ケイの敗北を見て奮起したらしい。
「ガイ、おめでとう!」
「ケイ! 仇は取ったぞ!」
最近のガイの成長は著しい。中隊長かつ小隊長のユイは、腕組みをして満足げに頷いている。
「うむ。さすがわしが育てたガイだ」
「いや、ユイは育ててないだろ……」
レイのツッコミも彼女の耳には届いていないようだ。
――
続いて、最も参加人数の多い剣術個人戦の会場へ向かう。
「あ、ゴウガまだ残ってるじゃない!」
「ほんとだ」
どうやら決勝戦が行われているらしい。先に応援に来ていたナユから状況を聞く。
ゴウガの流派はナユと同じく、三大流派の一つカシ・マシン流。レイやユイの修めるテン・シント流と並ぶ、古くから伝わる総合武術だ。
『極めては宇宙創元の理を悟るに至る』という教えのもと、霊力の流れを把握し、身体能力強化や相手の力の流れを読むことに長けている。
ゴウガはここまで圧勝で勝ち進み、殆どの試合を30秒以内で決着させていたという。
しかし決勝の相手は一味違うようだ。対戦相手は刺突を主体とする細身の剣、いわゆるレイピアのような武器を構えている。フェンシングのスタイルで、ゴウガと対等に渡り合っていた。ゴウガは不慣れな剣術にてこずっている様子だ。
「くそっ!」
ゴウガの剣は何度も受け流され、有効打を与えられない。焦れたゴウガが強引に突きを繰り出すが、それも綺麗に逸らされ、逆にカウンターの突きを浴びた。
「勝負あり! ダッソーナ選手の勝利!」
審判が有効打を認め、ゴウガの敗北が決まった。相手側の応援団から歓声が上がる。
「ちくしょう!」
悔しがるゴウガを見て、ナユは小さく嘆息した。
「まだまだ練武が足りてないわね。『剣心体三位一体の極意』の内、心が弱い。帰ったら修行のやり直しよ」
同門の武道家として厳しい評価を下すが、その表情が少し悔しそうなのは、やはり姉弟だからだろう。
試合後、ゴウガと相手の少年が握手を交わす。相手は少し長めの銀髪で、整った顔立ちの美少年だ。周囲から黄色い声援が飛ぶのも無理はない。
「やるな。俺は三沢ゴウガだ。優勝おめでとう」
「ワタシはトロワ・ダッソーナ。君も強かったよ」
お互いを笑顔で称え合う。トロワと名乗った少年は、フランクス王国の軍人のようだ。
フランクス王国は、銀河国家群でも5番目の国力を誇る軍事大国だが、地球自由連邦と汎ペルセウス帝国の間に領土があり、地政学的に微妙な立場にある国家だ。
2人が離れ、ゴウガがこちらに戻ってくる。その時、トロワはレイの方をじっと見つめていた。レイに面識はない。しばらくレイを見ていたトロワは、やがて自分の仲間のもとへ帰っていった。
不審に思っていると、ユイが顔を覗き込んでくる。
「どうしたのレイ?」
「……いや、なんでも」
こうして交流会は幕を閉じ、武闘大会では剣術団体と格闘男子部門で優勝という成績を収めた。
明日は、いよいよ参加国合同でのエレファントウォークが行われる。