【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
Part-A
『チームY1 DD-5105『いなづま』の砲撃ヒット。チームE2 DDG-1063『ステザム』大破、撃沈判定です。これによりチームE2は全滅しました』
空母『キティホーク』内に設けられた中央演習監視所では、緊張感の漂うアナウンスが響き渡っていた。
今回のシナリオ演習は、駆逐艦(DD)4隻ずつ2チームに分かれての艦対艦戦闘である。
『チームY1『いなづま』小破、『かが』『さみだれ』『さざなみ』健在。チームE2『ラッセン』『ステザム』大破、『マクキャンベル』『マスティン』中破。4-0でチームY1の勝利判定となりました。シナリオ12、終了です』
皇国軍からは第04護衛隊群第04護衛隊の4隻が、連邦軍からは第7艦隊所属の駆逐艦4隻が参加した。
演習とはいえ、実際に艦を操舵し、精緻な艦隊運動を行う本格的なものである。
ただし、実弾は発射しない。艦砲の発砲タイミングと射角を演習システムへ送信し、標的の位置・速度データと照合して着弾判定を行うシミュレーション方式だ。システムが小破、中破、大破を厳格に判定し、戦闘続行の可否を割り出す。
結果として、シナリオ12は『かが』率いる第04護衛隊の圧勝で幕を閉じた。
「いやはや、さすがは新星系戦で大活躍された『かが』ですね。おめでとうございます、リア・アドミラル・ニュータバル」
「ありがとうございます。アドミラル・エルメンドルフ」
中央演習監視所全体を見下ろすVIP席では、連邦軍のエルメンドルフ提督と皇国軍の新田原マコト武将補が、並んでモニタを見つめていた。
「やはり、実戦経験の差は大きいものですな。我が軍も、もっと経験値を積まねば」
「いえいえ。実に鮮やかな艦隊行動でしたよ」
表面的には冷静さを装っているが、目の前で自軍が大敗した提督の心は穏やかではないだろう。内心、はらわたが煮えくり返っているに違いない。
だが、こちらも手放しで喜んでばかりはいられない。同数対決では勝利したが、連邦軍の本質はその圧倒的な物量にある。実際の戦闘となれば、彼らは倍以上の艦数で強引に押し寄せてくるはずだ。
現状、連邦と矛を交えるような政情ではないが、いつ敵に回るか分からないのが国際政治の常である。軍人は常に最悪の事態を想定し、備えていなければならない。
「新星系戦といえば、ゼロ……零式HFも極めて良好な戦果を挙げているそうですな。赤壁戦争でも大活躍だったとか」
「零式ですか。配備されて間もない機体ですので、運用の工夫についてはまだまだ試行錯誤の段階ですよ」
「HAHAHA、ご謙遜を。Tighten your helmet strings in the hour of victory.(勝って兜の緒を締めよ)ですな!」
「ははは、恐縮です、提督」
(はん。赤壁連合を焚きつけて、しっかり零式の性能を監視していただろうが)
新田原は笑顔を崩さず、心の内だけで毒づく。
「ウチの次期主力HFの仕様策定にも、今回のデータを参考にするよう指示しましたよ」
「ほう、早くも次期HFの開発ですか」
「ええ、YHFF-16がコンペで勝利を収めましたのでな」
これこそが、連邦の恐るべき点だ。
HFの製造数なら皇国も引けを取らないが、連邦はその強大な工業力に物を言わせ、矢継ぎ早に新規開発を推し進めてくる。
皇国のHFは、人型の汎用性を重視し、同一機種であらゆる任務をこなすマルチロール機としての設計思想を持つ。
対して連邦は、用途ごとに特化したHFを開発・運用する。戦場の特性に合わせて機種を使い分ける、専門性重視のスタイルだ。それは、莫大な開発力と豊富な資金があってこそ成立する贅沢な運用であった。
(零式のデータが魔女たちに取られてしまったな。今度は巫女たちに、連邦の次期HFの動向を探らせるか)
今回の演習には、連邦・皇国ともに霊電子戦艦は参加していない。霊電子技術は各国の機密中の機密だからだ。
期待された「魔女対巫女」の電子戦はお預けである。
今頃、霊電子戦艦『そうりゅう』の艦長、呉ナゴミが悔しげに歯噛みしている姿が目に浮かぶようだ。
連邦軍の提督と皇国軍の武将補は、笑顔で談笑しながら、水面下での冷徹な腹の探り合いを続けていた。