【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
シュユとアラヤの相談も終わり、リンの用事を済ませるべくサンの家を後にすることになった。
が、シュユが涙目でサンに抱きつき、なかなか離れようとしない。
「ししょ~、また会おうね~」
「はいはい、またね。2人を困らせないようにな」
その様子を見ていたアラヤが、真剣な面持ちで問いかける。
「先生、皇国に来ませんか?」
「うん、そのうち遊びに行くよ。本場のラーメンも食べてみたいしね」
「いや、そういうことじゃなくてですね……連邦を出ませんか?」
「……まあ、考えてないことはないがな」
「ウチ、佐世保家で全面バックアップしますよ?」
「あ、それだったら舞鶴家がいいよ! ししょー!」
「ははは、前向きに考えておくよ」
サンは少しごまかすように笑った。連邦には知り合いも多く、2人以外の教え子も数多くいる。移住するにしても、しがらみや手続きなど考えるべき課題は山積みであった。
「そっか。もし決断したら連絡ください。力になります」
「ししょ~、ボクも~」
「はいはい」
名残惜しそうにシュユがしがみついたままだ。サンが少し困った顔をしているのを見かねて、リンが提案した。
「サンさん、良ければ一緒に教会まで行きませんか? 散歩がてらに」
「ありがとうリン。でも、教会はちょっと苦手なんだ。ほらシュユ、離れて」
「あぅー」
「じゃあ、またな! リンも、また会おう」
シュユがようやく離れると、サンは家の中へと戻っていった。扉が閉まるまで手を振っていたその姿を見送り、リンはぽつりと呟く。
「いい人ね」
「そうだろ?」「でしょー?」
アラヤとシュユが同時に答える。その声は少し誇らしげだ。街へ向かって歩き出しながら、リンはふと抱いた疑問を口にする。
「……なんで教会が苦手なのかしら」
「ああ、それは聖女と魔女の関係性かもな」
「ん?」
「連邦で霊力の強い女性は、魔女になるか聖女になるかの二択だからな。正反対の生き方を選ぶ分岐点だから、お互いを強く意識するんだろう。いわばライバルのような関係かな」
「ふーん。皇国の武家と術家みたいな感じ? まあウチは仲良いけど」
武家と術家は、皇国において互いにしのぎを削る間柄ではあるが、どちらかといえば協力関係にあり、激しく対立するライバルというほどではない。
現に、同じ『かが』の第401人型機動戦闘飛行隊とは、横田ユイを始め仲の良い連中ばかりだ。何度も死線をくぐり抜けてきた戦友でもある。
「401の連中がお気楽すぎるだけだ」
「ナユちゃんとか面白いよ! あほの子っぽくて!」
「お前にだけは言われたくないだろうよ」
そんな軽口を叩き合いながら、3人はリンの目的地である教会へと向う。
――
教え子たちを見送ったサンは、静まり返った部屋で紅茶を飲みながら思案していた。
(連邦は一枚岩じゃない。12個の頭を持つヒュドラだ。それぞれの頭が、互いを喰らおうと虎視眈々と狙っている。その均衡が崩れ始めている兆候が、様々な情報から見て取れるな。それに、他国でも怪しい動きがある。帝国とか)
先ほどは弟子の手前、言葉を濁したが、本格的に皇国への移住を検討すべき時期かもしれない。銀河国家群間大戦の火蓋が切られる前に。
「皇国は食べ物も美味しいしな。ラーメン、食べたーい」
魔女サン・ディエゴは、皇国行きのエスケープ計画を立て始めた。
決して食べ物のためではない。……多分。
続く