【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
シュユとニューズの会話を聞きながら、アラヤはふとした疑問を口にした。
「そういえば、教会って何をするところなんですか? いや、教えを広めるのはわかりますが、収益とかはどうなっているんでしょう」
「もちろん、主な収益は信者の方々からの寄付に頼っているわ」
「なるほど。あとで寄付しますね」
「ありがとう。お気持ち程度でいいからね。集まったお金は教会の維持や、貧しい人々への援助に使われるわ。最近、この街でも生活に困る人が増えていて……」
「そうなんですか? そんな感じには見えなかったんですけど」
「表通りはね。でも、ちょっと裏道に入ると、そういう人が増えてくるわ。スラム街なんかには近づかないよう注意してね」
ニューズによると、この観光都市でも貧困層が増加傾向にあるらしい。
その多くは
連邦全体で貧富の格差が年々拡大しており、どの州でも同様の問題が起きているそうだ。
「皇国では国が強制的に全員を開魂者にしてしまいますけどね。それが人道的に良いかは議論がありますが」
「そうね。連邦でもお金があれば宇宙へ出て出産ができるけれど、貧しい人々には高嶺の花なのよ」
「そんなに高いんですか」
「単に宇宙に出るだけならそうでもないんだけど、出産となると専用施設への入院が必要で、そこに入るには貴族の推薦状が必須なの」
開魂者になるには、恒星から遠く離れた場所での出産が条件となる。連邦ではその利権を貴族が独占管理しており、推薦状の発行に多額の「寄付金」を要求されるのが常態化していた。
「なるほど……。それで貧富の差が固定化されていると」
「ええ。でもね、教皇様と現連邦首長が手を組んで、対策に乗り出しているわ」
「対策?」
「『国民皆開魂保険制度』という法案を検討中なの。この法案が通れば、貴族の推薦は不要になり、少額の負担で誰もが宇宙出産を行えるようになるそうよ」
「それは素晴らしいことですね」
「ええ、教皇様は平民の未来も考えてくださっている、慈愛に満ちたお方よ」
話し込んでいるうちに、気づけば2時間近くが経過していた。そろそろ辞去する時間だ。
「では、ニューズ。また来ますね」
「ええ、リン。シュユとアラヤも、またいらっしゃい。いつでも歓迎するわ」
「ありがとうー!」「ありがとうございます」
3人は教会を辞し、基地への帰路に就いた。空はすでに茜色に染まり、夕闇が迫っている。
道すがら、アラヤはニューズの印象について思いを巡らせた。
「聖女っていうから身構えたけど、気さくな人だったな」
「そうね。誰にでもあんな感じよ。でも聖女としての実力は随一だわ」
「実力?」
「ええ、礼拝の終わりにニューズがしていた
「え? まじか。単なる演出かと思った」
「正確には神聖魔術ね。あの祝福は、自身の霊力を大勢の人々に分け与える高等魔術よ。聖女様クラスの膨大な霊子出力がないと不可能な芸当だわ」
「魔術でも巫術でも、生身で干渉できる霊力の範囲は狭いからな……」
「ニューズは、エクス教中央協議会の中でも屈指の実力者よ」
「ほーん。でも、なんでそんな大物がこんな辺境の教会に?」
「それが彼女の素晴らしいところね。どんなに偉くなっても、現場で人々に寄り添うことを選んでいるのよ」
リンは珍しく熱を込めて語る。よほどニューズを尊敬し、慕っているのだろう。アラヤがその様子を微笑ましく見ていると、急にリンの声のトーンが下がった。
「まあ、中央協議会自体が権力闘争の魔境になってるから……。ニューズもそれに嫌気が差して距離を置いている、というのもあるんだけどね……」
「……どこも組織ってのは同じか」
「うん……」
現実に引き戻され、しょんぼりと肩を落とすリンもまた可愛いな、と不覚にも思ったアラヤだった。
続く