【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
Part-A
環局所泡合同演習リムロックの最終日。今日はこれまでの過酷な訓練ではなく、参加国による親睦を目的としたレセプションパーティーが催されていた。
連邦が用意した広大なホールには、豪華絢爛なシャンデリアが眩いばかりに煌めいている。いかにも貴族好みの華やかな会場には、各国の軍人たちが着慣れぬ正装で集まっていた。
「すごい豪華ねぇ……」
「なんだか、場違いな感じがするよ」
ユイが纏っているのは私物の水色のドレスだ。ふわりと優雅に広がるロングスカートは、周囲の貴族女性の装いにも引けを取らない。髪を下ろし、小さなティアラを添えた彼女の姿は、まるで物語から抜け出してきたお姫様のようだ。
さすがは名家のご令嬢といったところか。彼女はこの場の重厚な雰囲気にも飲まれず、堂々とした振る舞いを見せている。
対してレイは、不慣れな借り物のタキシード姿だ。ドレスコードがなければ軍服で参加するつもりだったのだが、どうにも落ち着かない様子で、何度も襟元に手をやっている。
第401人型機動戦闘飛行隊の面々も参加しており、女性陣は皆、思い思いの華やかなドレスに身を包んでいた。
周囲を見渡せば、皇国軍人だけでなく、連邦やフランクス王国などの軍人たちも混じり合い、あちこちで談笑の花を咲かせている。
会場には立食形式のビュッフェが用意され、各テーブルには山のような馳走が並ぶ。給仕係としてメイド服を纏った女性たちが、忙しく飲み物を配り歩いていた。
飲み物を受け取り、しばらく401の面々と歓談していると、見知った二人が近づいてくる。
「やあ、また会いましたね。Ms.ユイ、Mr.レイ」
声をかけてきたのはビリー・エドワーズだ。仕立ての良い礼服を完璧に着こなし、いかにも貴族男性といった気品ある佇まいを見せている。
「こんばんは、エドワーズさん」
ここは社交の場だ。訓練中のように邪険にするわけにもいかず、ユイは淑女の微笑みを浮かべて挨拶を返した。
その隣にはミリィ・メイポートが控えていたが、以前会った時とは異なり、繊細な意匠のドレスに身を包んでいる。
「ミリィさんもこんばんは。……今日はメイド姿ではないんですね」
「こんばんは、Ms.ユイ。あれは趣味ですので」
「しゅ、趣味?」
「ミリィは私の使用人ではありませんよ。名門メイポート家の令嬢です」
「えええーーっ!」
あんな格好でいたものだから、てっきり使用人かと思っていたが、どうやら違ったらしい。これにはユイも驚きを隠せない。
聞けばビリーとは幼馴染であり、幼い頃からずっと一緒なのだという。軍に入ってからも同じ隊に所属しており、ミリィ曰く「腐れ縁」とのことだ。どことなくユイとレイの境遇に近いものを感じる。
話題は自然と訓練での対戦のことになり、互いの健闘を称え合った。
ビリーからは再戦を熱望されたが、こちらとしては正直、二度と相手をしたくないというのが本音だ。もちろん、口には出さないが。
談笑していると、ビリーに別の来客が挨拶に来たため、一旦離れることになった。さすがは12貴族のエドワーズ家、注目度は極めて高いようだ。
「ユイ!」
「あ、ヒルダ!」
今度は剣術大会で知り合ったヒルデガルド・ラムシュタインとその友人たちが、ユイを見つけて駆け寄ってきた。短い期間ですっかり打ち解けたらしい彼女たちは、すぐさま賑やかにお喋りを始める。
レイは少し離れた場所で、テーブルの料理を皿に取り分けては口に運ぶ。
「うーん……。素材は最高なんだけど、味付けが大雑把だ。連邦の食事はみんなこんな感じなのかな」
一人で味の批評をしていた、その時だった。背後から静かな声がかかる。
「こんばんは、レイ・ホシビシ」
振り返ると、少し長めの銀髪を整えた、同い年くらいの少年が立っていた。
一瞬誰か分からなかったが、格闘大会の決勝でゴウガと死闘を繰り広げた相手だと思い出す。
「どうも、えっと……」
「ワタシはトロワ・ダッソーナ。フランクス王国の軍人だよ」
剣術大会の個人戦決勝で、ゴウガを下したフランクス人。あの時、レイをじっと見つめていたのを覚えている。
だが、当時は挨拶すら交わしていない。なぜ自分の名前を知っているのか――その疑問を口にすると、彼は薄く微笑んだ。
「ふふ、失礼だが、君は自分の立場をもう少し自覚した方がいい。リムロックに参加した軍人の間では有名だよ。『
ユイの『
「別にボクが凄いんじゃない。ユイが強いだけだよ」
「なるほど。確かに彼女は強い。だが、それは君がいればこそだ。君が確実に背後を守っているからこそ、彼女は大胆に敵陣へ突撃し、戦果を挙げることができる。背中を全く気にせず戦えているのは、君の強さに依るものだよ」
「そっ……」
♪~
レイが反論しようとした瞬間、会場に優雅な旋律が流れ始めた。
ホールの奥に控えたフルオーケストラによる生演奏。いかにも貴族らしい贅沢な演出だ。
「おや、どうやらダンスの時間のようだね」
人々が左右に分かれ、会場の中央にスペースができ始める。あちこちで男性が女性に手を差し伸べる姿が見て取れた。
「もっと話したかったけれど、これまでのようだ」
トロワと名乗った少年は、レイに一礼すると、その場を離れようとする。
そしてレイの横を通り過ぎる際、聞き取れるかどうかの小声で囁いた。
「……ワタシは、君の母親の死因を知っている」
それだけを残し、彼はユイの方へ歩み去った。
レイは、雷に打たれたようにその場に立ち尽くした。