【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
「振られたな、ビリー」
手を取ってもらえなかったビリーが、持て余した手で所在なげに髪を掻いていると、長身で美丈夫な貴族男性に声を掛けられた。
「アラスの兄貴……じゃなかった、お久しぶりです。アラス・エルメンドルフ大佐」
「今日は交流の場だ。アラスでいいよ」
アラス・エルメンドルフは、12貴族エルメンドルフ家の次男、21歳。連邦軍第一機動騎士団の団長を務める若きエリートである。
連邦貴族には、義務として子供を軍に入れる慣習があった。かつては当主候補が入隊し、経験を積んでから家督を継いでいた。
しかし時代が進むにつれ、跡取りの戦死リスクを避けるため、次男以降や長女などを軍に送る家も出てきた。彼らは除隊しても実家に居場所がなく、そのまま職業軍人としてキャリアを積むケースが多い。
12貴族出身者は立場が近いこともあり仲が良く、軍内で『
「アラスの兄貴って、辺境伯領へ治安維持に出てませんでしたっけ?」
「ああ、その作戦が終わったんで、訓練にも顔を出したんだ。最終日3日前だったがな」
「ははは、そこまで遅いならサボってもよかったのでは?」
「まあ、気分転換も兼ねてな」
「そうですか。辺境伯領の賊は、そんなに手強かったんですか?」
「……んん、まあな。あ、ミリィ嬢が手持ち無沙汰なようだぞ。ダンスに誘ってやれ」
「ええ……まあ、行ってきますか」
ビリーはしぶしぶといった様子でミリィに声をかけ、彼女はそれを嬉しそうに受け入れた。
二人がフロアの中央で踊り始める様を、笑顔で眺めるアラス。その背後から、別の男性が静かに語りかけた。
「賊、ねぇ……」
「シロウ、話を聞いていたのか。ついさっきまで女性と話してなかったか?」
「ああ、久々に皇国の女性と会話できる機会だからな」
アラスと同じくらいの長身で、皇国系の顔立ちをした男――シロウ・カデナ。アラスとは同い年の親友であり、第三機動騎士団団長を務める人物だ。
「しかし、賊とはよく言ったもんだ」
「ああ、実態は単なる一般人のデモだからな……。辺境伯が親戚で、実家のしがらみがなきゃあんな作戦なんかやるもんか。ただ突っ立っているだけだが、HFの足に石を投げつけられた時は、情けなくて涙が出そうだったよ。あんなことのためにHFを使う羽目になるとは」
「ご愁傷さま。しかし最近多いな。デモだけならまだしも、暴動にまで発展している所もあるし」
現在、連邦内では庶民によるデモや暴動が頻発している。原因は拡大の一途をたどる貧富の格差だ。特に辺境では中央の監視が届きにくく、貴族による搾取が横行しており、庶民の不満は爆発寸前となっていた。
「ああ、連邦の根源的な病巣だな。軍人として鎮圧命令に従わなきゃならんのが辛いところだ」
「そうだな。まあ今の連邦首長が、教皇様と手を取って問題解決に尽力してくれていることが唯一の救いか」
「そういや、第一機動騎士団って来月に連邦首長の護衛任務だったな?」
「そう、サミットがあるからな。地球まで遠征だ」
「地球か……そりゃまた、随分な田舎だねぇ」
環局所泡合同演習リムロックの後には、銀河国家群の先進国首脳が集まるサミットが、地球で開催される予定だ。
現在、地球は人類の中心――というわけではなく、連邦の一地方領となっていた。
地球は、
とはいえ、人類発祥の地であるため、連邦直轄地としてどの州にも属さない特別な惑星として扱われている。一般居住者が極端に少ないこの星は、機密保持の観点からもサミットに適していた。
サミットは、地球自由連邦首長を筆頭に、
各国の最重要人物が集まるため、警備体制は厳重を極める。
万が一の事態が起きれば、その影響は銀河規模に及ぶ。各国の軍は威信をかけ、国のトップを守り抜かねばならない。
主催国である連邦軍はもちろんのこと、皇国からは第01護衛隊群と近衛師団。帝国は第1機動隊群と皇帝親衛隊。王国は王立局所泡艦隊戦闘部隊と海軍コマンド、共和国は外洋部隊第一戦隊と大統領護衛士隊。と、文字通り銀河最強の精鋭たちが集結する。
リムロックを終えた演習艦隊が帰路に就くのと入れ替わりで、サミット護衛艦隊が連邦領地球へと向かう。
人類発祥の地に、銀河国家群最強の軍隊が一堂に会するのだ。
彼らを害することなど、何者にも不可能だろう。
――誰もが、そう信じて疑わなかった。
続く