【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ   作:ガルカンテツ

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第十七話 地球
Part-A


 太陽系第三惑星、地球。

 

 人類発祥の地であり、銀河国家群の秩序を定めた『地球条約』締結の地。そして、銀河標準時の起点ともなった場所だ。

 

 現在、銀河国家群における居住惑星の人口は平均1億人、最大でも3億人程度である。対して、かつての地球には、一時期60億人以上もの人々がひしめき合っていたという。にわかには信じ難い話だ。

 

 宇宙空間でも放射線を気にせず活動できる肉体を手に入れた人類だが、食料なしでは生きられない。居住惑星の住民の7割が農業に従事し、食料の大量生産を支えている現状を考えれば、当時の地球が60億人をどう養っていたのかは、もはや謎に等しかった。

 

 そんな地球だが、現在、一般居住者はほとんどいない。

 

 地球自由連邦は、この星を特別直轄地として居住を厳しく制限している。理由は多岐にわたるが、最大の理由は、過去の人類が戦争や環境破壊によって惑星資源を使い潰し、居住に適さない環境にしてしまったことにある。

 

 人類は幾度も絶滅の危機に瀕しながら、辛うじて生存してきた。しかし、このままでは遠からず滅びる――当時の統合政府が地球外への脱出を決断したのは、必然だった。

 その際、残留組と脱出組による分断と差別を防ぐため、全人類が地球を去ることになったのである。

 

 現在は、現地駐在官や環境調査を行う学者、そして宗教的な聖地巡礼に対応する特別職員が定住するのみ。一般人は厳正な抽選で選ばれた少数の観光客や巡礼者が訪れる程度で、その予約は5年先まで埋まっているという。

 

 人類が去った地球は、長い時を経て徐々に自然を取り戻し、今やヒト以外の生物たちの楽園となっていた。

 

 その地球の赤道上に、天を衝く白い巨塔がそびえ立っている。

 

 塔は成層圏を突き抜け、静止軌道のはるか彼方まで伸びている。軌道エレベータと呼ばれていたものだ。

 

 重力制御技術が確立されるまで、惑星上から宇宙空間へ安価に物資や人員を送る唯一の手段だった遺物である。

 

 人類が外宇宙に進出した頃には既に重力制御が実用化されていたため、軌道エレベータが現存するのは、この地球だけだ。メンテナンスは継続されているものの、実質的には巨大な遺跡であり、観光の目玉となっている。

 

 今回の主要国首脳会議サミットは、この軌道エレベータを舞台に開催される。

 

――

 

 陣羽織を模した追加装甲を纏う、星菱96式HF。

 

 重力制御により地球の大気圏内を滑るように飛行するその機体には、大八洲(おおやしま)皇国の元首、(みかど)が搭乗している。周囲には近衛師団所属を示す、黒地に赤ラインの96式が護衛として随伴していた。

 

「この辺りのはずだが……」

 

 しばらく飛行すると陸地が見えてきた。大陸ではなく、大小の島が連なる列島のようだ。

 

 帝は陣羽織をはためかせ、高度を落として島へと接近する。護衛機もそれに続いた。

 

 眼下の陸地は、深い緑に覆われている。

 

 人工物の痕跡はあるが、どれも古く崩壊しており、錆や蔦に覆われ自然に還りつつある。当然、そこに人影はない。

 

 さらに進むと、海上にそびえる大きな鳥居が見えてきた。

 かつては鮮やかな朱色だったのだろうが、今は汚れが目立ち、一部は崩落している。その奥には木造建築の跡らしきものが見えるが、ほぼ形を失い、緑に埋もれていた。

 

 皇国の祖先がこの星を旅立ったのは、二千年以上も前のことだ。

 

 重要な書物や物資は持ち出したものの、残さざるを得なかったものも多い。彼らは後ろ髪を引かれる思いで移民船に乗り込んだと聞く。

 安住の地に至るまでの旅は過酷を極めた。それでも、他国のように戦争やAI反乱で滅亡の危機に瀕することなく、現在のヤマト州へ定住できた。

 

 祖先たちの苦難と努力の上に、現在の皇国はある。

 

 今、地上に降りて探索すれば、何か遺物が見つかるかもしれない。だが、条約で地表への干渉は禁止されており、帝自身にもそのつもりはなかった。

 皇国の国教であるシントウ教は、自然に寄り添い、感謝することを教義としているからだ。

 

 緑に覆われたかつての大地を見下ろし、帝は思う。

 

「これでよい。これで」

 

 帝が物思いにふけっていると、護衛機から通信が入った。

 

『陛下、お時間です』

「うむ。分かった」

 

 




【完結】NGチルドレン もよろしくお願いします
https://syosetu.org/novel/323311/
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