【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
帝の乗機が、軌道エレベータの中腹、空中に張り出した広大な発着ポートへと降り立った。そこは、HFが何機も同時に駐機できるほどの広さがある。先に着地した護衛機が周囲の安全を固めるのを確認し、帝はコクピットから地上へと降りた。
外は風が強く、肌寒い。高度は2,000mほどあるらしく、空気も地上に比べれば少しばかり薄いようだった。
見上げれば、白く巨大な塔が天の先まで続いている。
皇国に限らず、銀河国家群の居住惑星には超高層建築物はあまり存在しない。土地は無限と言えるほどに広大であり、人口集中も起きにくいため、あえて高層ビルを建てる需要がないのだ。
重力制御装置が普及している今、人々はどこへでも自在に飛んで行けるし、気密さえ確保できればそのまま宇宙へと出ることもできる。
軌道エレベータは、宇宙へ至る道がまだ険しかった時代の象徴であった。
大量の物資を輸送するため、塔の幅も桁外れに巨大だ。メインシャフトのエレベータは、かつて宇宙空間へと絶え間なく物資を運んでいたというが、現在は稼働していない。
吹き付ける強風を避けるため、帝は護衛に囲まれつつ早々に屋内へと入ろうとする。
その時、上空から一際重装甲のHFが降下してきた。
汎ペルセウス帝国軍の機体だ。数機の護衛の中心に、カイザー・ティーゲルと呼ばれる皇帝専用機が見える。
帝国皇帝フリードリヒⅣ世もまた、サミットのために到着したようだ。
皇帝親衛隊に守られ、皇帝が悠然と降りてくる。帝が出迎える形となった。
皇帝は大柄な体躯を重厚な鎧で包み、その上から豪奢なマントを羽織っている。平時から鎧姿なのはいつものことだ。「常在戦場」を信条としている彼らしい。
「よう! キミヒト! 久しぶりだな!!」
屈託のない笑顔で近づき、右手を差し出す皇帝。
「フリッツ、久しぶり。とは言っても、数か月振りだがな」
実はこの二人、私的には非常に仲が良い。握手からそのままハグを交わし、再会を喜び合う。
帝が若かりし頃、連邦へ留学していた際に出会ったのが、同じく留学生であったフリードリヒⅣ世だ。互いの立場上、公的な活動は制限されていたが、歳も近い二人は大人たちの目を盗んでは抜け出し、共に遊んだ竹馬の友である。即位前の名であるキミヒト、愛称のフリッツと呼び合うほどに。
「わははは! あの時はHF越しだったからな! 生身で会うのは久しぶりだ!」
「あの時」とは、赤壁戦争の際、皇国と帝国間で不可侵条約を締結したときのことだ。
豪快に笑う皇帝。だが、若い頃とは違い、今の二人は国家元首同士だ。周囲の近衛と親衛隊は、表には出さないもののピリピリとした緊張感を漂わせていた。
二人は並んで塔の入り口へと向かう。
「フリッツは、地球に着いたばかりか?」
「ああ、到着が少し遅れたので空母から直行だ。キミヒトは?」
「私は少し早く着いたので、地表を見学していた」
「わはは! 相変わらず真面目というか、早めの行動だな! 学生時代、遊びに行く時と変わらんぞ!」
「貴様がいっつも遅刻してきたんだろう」
軽口を叩き合う二人の先、塔の入り口に佇む一人の老人がいた。
地球自由連邦のトップ、連邦首長エミール・ウェストミンスターが二人を出迎える。
小柄で長い白髪をオールバックにした老人は、背筋をピンと伸ばし、堂々とした姿勢で立っていた。
彼の周囲には大勢の人垣ができている。護衛もいるが、その大半はマスコミ関係者だ。
頭上には、無数の白い球体が浮遊している。ナノボット製のメディアボールと呼ばれるもので、一つで高性能カメラと集音マイクの機能を兼ね備える。後方にはそれらのデータをモニタリングするスタッフも控えていた。
中には手持ちの旧式カメラを構える記者もいる。メディアボールの性能は十分だが、最新技術を信用せず古い機材に拘る層もいるらしい。不可解なこだわりだ。
連邦首長が、少し大げさなジェスチャーでこちらへ歩み寄ってきた。
まず最初にフリードリヒⅣ世へと握手を求める。こうした場では国力や格の順で対応するのが外交儀礼だ。後回しの形になった帝だが、特に不快には思わない。ただ、ホスト側の細かな気遣いは感じ取れた。
連邦と帝国の首脳が握手を交わし、カメラに向けてポーズをとる。
(なんて顔をしとるんだ、フリッツ)
連邦首長は満面の笑みだが、皇帝はあからさまに、苦虫を噛み潰したような渋い表情を浮かべていた。