【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
連邦と帝国の仲は悪い。
今のところ直接的な戦争には至っていないが、第三国を通じた代理紛争は何度も起きている。
銀河国家群の覇権を争う二大国による冷戦と評する学者もいるが、根本的な原因は国家の成り立ちの違いによる価値観の不一致であった。
汎ペルセウス帝国は、かつての海賊たちによって構成された国家である。
人類が地球を離れ移民を開始した際、中央付近はともかく、遠い辺境宙域の治安は最悪であった。
苦労して開拓した植民地を、武力侵略によって奪われる。そんな略奪が日常茶飯事だった時代だ。
その武力集団は海賊と呼ばれ、やがて海賊同士の抗争と吸収合併を繰り返し、巨大化していった。それが国家規模となり、さらに国同士の戦争へと発展。
それらを武力で統一し、まとめ上げたのが汎ペルセウス帝国である。
国旗である鉄血十字旗が示す通り、まさに鉄と血で築かれた国。現在は海賊行為を取り締まり治安を維持しているが、その根底にある「武」の精神は健在だ。彼らにとって、連邦のような貴族が金ですべてを支配する体制は、軟弱で卑しいものに映るらしい。
皇帝も公然と連邦を『拝金主義者ども』と揶揄している。各国の首脳が配偶者を同伴する中、皇帝だけが単身で乗り込んできたのも、連邦を信用していない表れだ。
それでも、握手に応じハグまでするあたり、大人の対応ではある。顔はずっと顰めっ面のままであったが。
続いて皇国の帝の番だ。皇帝の時とは違い、両者とも和やかな笑顔で握手を交わす。
連邦と皇国は、表向きは敵対もなく友好的な関係にある。ただし貿易に関しては火種もあった。
皇国の主力産業は、霊子技術やナノボットなどのハイテク分野だ。特に霊子技術は「加速霊符」など、宇宙活動に不可欠な技術が多岐にわたる。
皇国は関連技術の特許を押さえており、莫大なパテント料が転がり込んでくる仕組みだ。ちなみに霊子技術の特許料はすべて皇族の収入となり、それがそのまま皇軍の軍事費に充てられている。
連邦としては面白くない話で、過去には貿易不均衡を理由に関税をかけるなどの対抗措置をとってきた。皇国としても積極的に揉める気はないため、二国間貿易協定を結び、なんとか均衡を保っている状態だ。
帝個人としては、現連邦首長を高く評価していた。特に現在推進されている「国民皆開魂保険制度」は皇国の政策に近く、よく参考にされている。開魂者は基礎体力や免疫力が高くなるため、長期的には社会保障費の抑制につながるのだ。連邦の自由主義者たちはうるさいが、理にかなった政策といえる。
首長とハグを交わし、屋内へと促された。
塔の内部は広大であった。天井は高く、通路幅も十分にある。通路沿いには木々が植えられ、緑豊かな地球をアピールしているようだ。
横を歩く連邦の地球緑化プロジェクト総責任者が、熱心に木の種類を解説してくる。
「いかがですか? 多種多様な植物をこの塔の中で育てています。人類にとって、やはり緑は重要ですからね」
「そうですね。すばらしい」
帝は笑顔で答えるが、内心は冷めていた。植物学を専攻し論文も発表している彼には、一目でわかってしまう。
室内の植生がめちゃくちゃなのだ。花びらを散らすソメイヨシノの隣に、紅葉したモミジが植えられている。ナノボットなどで無理やり調整しているのだろうが、その不自然さがどうにも居心地悪い。
――
全体会合の前に、記念撮影が行われることになった。少し開けたホールへ案内される。
今回のサミットのロゴパネルを背景に、首脳たちが並ぶ。すでにフランクス国王とローマリア共和国大統領が待機していた。
フランクス国王シャルルⅡ世は、即位してまだ数年の若き王だ。長めの銀髪に髭はなく、清潔感がある。帝が会うのは即位式以来だ。
すでに連邦首長とは挨拶を済ませているようで、シャルルは帝の姿を認めると真っ先に歩み寄ってきた。フランクス王室と皇国皇室は古い付き合いがあり、交流も深い。帝は笑顔で応じる。対して、帝国皇帝とは目も合わせようとしない。
もう一人は女性だ。ローマリア共和国大統領ヴィットーリア・サヴォイア。就任5年目となる共和国初の女性大統領である。赤みがかった長い金髪が特徴的で、モデルのように美しい。
彼女は逆に、帝国皇帝のもとへ真っ先に挨拶へ向かう。共和国は王国と同様、連邦と帝国の狭間にある国だが、資源の多くを帝国に依存しており、貿易関係も密接だ。
奇しくもバランスよく挨拶が分散したことで、場の空気が凍りつかずに済んだ。
5人の首脳が横一列に並び、記念撮影に臨む。
並び順は左から、国王、大統領、連邦首長、帝、皇帝。ホストの連邦首長が中央なのは当然だが、国力第二位の皇帝が端というのは異例だ。現在の微妙な国際関係を反映した配置なのだろう。こんな並び順ひとつにも、神経をすり減らす配慮が見える。
パシャパシャと電子音が鳴り響き、マスコミによる撮影が続く。
撮影が一段落し、次の場所へ移動しようとしたとき、皇帝が帝に小声で話しかけてきた。
「キミヒト、後で手合わせせんか?」
帝国皇帝フリードリヒⅣ世は、早くもサミットに飽きているらしい。
確かに今回は重大な懸案事項はない。先日の赤壁戦争の事後処理と、その影響確認程度だ。
「そうだな。帝国との単独会合で時間があるから、そこでな、フリッツ」
「さすがキミヒト! 腕は衰えておらんだろうな?」
学生時代のノリで肩を組んでくる。二人は若い頃、何度か手合わせをしたことがある。もちろん周囲には内緒だ。
皇帝は「常在戦場」の通り武を嗜み、帝もまたテン・シント流剣術を修めている。
「歳を考えろ、フリッツ。あの当時ほどは動けんよ。研鑽は重ねているが」
「がっはっはっ! 確かに歳を取ったな! だがまだあの時の決着はついておらんぞ! 儂が一勝分勝ち越してたよな」
「間違えるな。13勝12敗で、私が勝ち越しだ」
「そうだっけか? まあ今回勝った方が勝ちってことで!」
「適当な奴め……」