【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
サミットでは首脳会合だけでなく、外務大臣や環境大臣など関係閣僚による会合も並行して行われる。
また、首脳のパートナーによる配偶者プログラムも組まれており、299階では皇国の皇后らがエクス教教皇ヒッカム・パールハーバと面会していた。
首脳会合は、その真上、300階で行われている。
案内された会議室の中央には、巨大な木製の円卓が鎮座していた。
「このテーブルは、天然の木一本から切り出されたものです。すばらしい年輪でしょう?」
事務官が自慢げに説明する。確かに見事な工芸品であり、周囲からは感嘆の声が漏れる。
だが帝は、それが樹齢数千年の杉であることを一目で見抜いていた。これほどの巨木、地球産でしかありえない。貴重な自然遺産を切り倒して家具にするとは――帝の胸中は、感激よりも複雑な思いで一杯であった。
説明が終わると、首脳たちはテーブルを囲んで着席する。その様子が再びマスコミに撮影される。連邦がこの会合を主導していることを、銀河全土へアピールするためだ。
撮影クルーが退出し、ようやく首脳会合が始まった。
「改めて、連邦首長の私が議長として進めさせていただきます。まずは赤壁戦争の結果報告から……」
首長から戦争の経緯などが語られるが、内容は各国の事務官レベルで事前に調整済みだ。首脳会合での発言は、事実上の追認に過ぎない。
分かりきった内容を延々と聞かされるのは、あまりに退屈であった。隣の皇帝などは、あからさまに欠伸を噛み殺している。
帝はちらりと窓の外へ目をやった。蒼い空と碧い海のコントラストが美しい。300階といえば、高度1,500m付近だろうか。
階下では、皇后ミヨコがエクス教皇と会談しているはずだ。
今回は娘のミヤコは連れてきていない。まだ5歳の息子ケンヒトも同様だ。
ミヨコには苦労をかけた。ケンヒトが生まれるまで、直系の男系継承者が不在だったからだ。皇族全体で見れば男系男子は残っていたため断絶の危機はなかったが、やはり直系の誕生は待望されていた。その重圧は計り知れない。あとはケンヒトが無事に成人してくれれば、それで安心だ。
「……という結論になりました。ここまででご意見などはありますか? ……ないようですので、次の議題を……」
――
連邦軍第一機動騎士団団長、アラス・エルメンドルフ大佐は、HFF-15Eストライクイーグルのコクピットで警備任務に就いていた。
塔の中腹にある駐機デッキには、各国の最新鋭HFが勢ぞろいしている。連邦軍だけでなく、皇国や帝国の精鋭機がずらりと並び、互いを牽制し合うピリピリとした空気が漂っていた。
先日の辺境伯領でのデモ警護を思い出す。
(やれやれ。デモ警護と同じ棒立ち任務だが、これはこれで胃が痛いな)
こんな場所へ攻めてくる命知らずがいるとは思えない。ここまでスケジュールは順調だ。このまま何事もなく終了し、さっさとお引き取り願いたいのが本音であった。
アラスは頭上を見上げた。300階で首脳会議が行われている。視線の先の窓がちょうどその辺りだ。内部警備は厳重を極め、秒単位で状況確認の通信が飛び交っている。
時計を確認すると、そろそろ会合が終わる時間だ。この後は共同記者会見が予定されている。
計器から再び、300階の窓へと視線を戻した、その時――。
何かが、光った。
直後、爆風が窓ガラスを内側から粉砕し、轟音が遅れて響いてきた。
「なっ!?」
爆発は外からの攻撃ではない。内部から発生している。
各国のHFも一斉に上を見上げ、動揺が伝播していく。
駐機デッキに、爆発の残骸がバラバラと降り注ぐ。アラスのHFのマニピュレーターにも、燃えカスのような破片が落ちてきた。
「木片……?」
――
首脳会合が行われていた会議室は、爆発の粉塵と煙に包まれていた。
「がはっ!!」
白煙の中で、皇帝フリードリヒがテーブルの残骸を押し退けて起き上がる。爆発の衝撃で、一瞬意識を飛ばしていたようだ。
「常在戦場」を貫いた鎧のおかげで即死は免れたようだが、無傷とはいかず、頭部から鮮血が滴っている。
皇帝は霞む視界を凝らし、状況を把握しようとする。そして、木片の山に埋もれた帝の姿を見つけた。
「キミヒト!!」
瓦礫を跳ね除け、傍らへ駆け寄る。だが、帝は全身を血に染めていた。
抱き起こしても、その体は力なくぐったりとしている。必死に頬を叩くと、わずかな反応があった。
「フリッツ、か……」
「おい! しっかりしろ!」
身体を確認すると、腹部に巨大な木片が深々と突き刺さっていた。あの円卓の破片だ。これは、もう助からない。
「フリッツ、すまんな。約束は……守れないようだ……」
その言葉を最後に、帝の瞳から光が消え、腕が力なく滑り落ちた。
「うおおおおおお!!!!!!!」
亡骸となった友を抱きしめ、皇帝の絶叫が虚空に響き渡った。
続く