【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
サミットテロは、各国に甚大な混乱をもたらした。
特にホスト国である地球自由連邦のダメージは、計り知れない。自国の首脳のみならず、他国首脳や国教であるエクス教の教皇まで死なせてしまったのだ。国際的な面目は丸潰れであった。
連邦政府はテロを防げなかった責任を取り、国務長官、国防長官、国家情報長官、CIA長官といった外交・軍事・情報のトップが総辞職に追い込まれた。
テロの首謀者は未だ特定されていないが、爆発の手口は判明した。
凶器は、会議で使用された屋久杉の円卓だ。天然木のテーブルと思われていたが、実際には木材の繊維に樹脂状の強力な爆薬が浸透させられていた。テーブルそのものが巨大な爆弾と化しており、通常の爆発物スキャンでは検知不能だったのである。
このテーブルは、地球緑化プロジェクトの総責任事務官が、実績を誇示せんがために強引に搬入させたものであった。その事務官も爆発で死亡しており、導入経路の解明は難航を極めていた。
テロによって多くの首脳補佐官も犠牲となり、連邦政府の機能は著しく低下。政策決定プロセスは麻痺し、首長肝煎りであった国民皆開魂保険制度も、事実上の白紙撤回となった。
――
唯一の生存者である帝国皇帝フリードリヒⅣ世は、テロ直後に自国へととんぼ返りした。重傷を負ってはいたが、命に別状はないという。
帝国政府は、連邦に対しテロの責任を問う激しい抗議声明を発表したのみで、それ以降は不気味な沈黙を貫いている。
大統領ヴィットーリア・サヴォイアを失ったローマリア共和国では、政治的大混乱が生じていた。
ローマリアは連邦と帝国の緩衝地帯に位置する。亡き大統領率いる与党は親帝国派であったが、野党は親連邦派だ。
責任追及と主導権争いで議会は空転し、喧々囂々の議論の末、元老院・代議院の両院解散が決定。再選挙後の大統領選出まで、深刻な政治的空白が続くことになった。
――
「やれやれ、あと20年は表に出なくていいかと思っていたのだが……」
フランクス王国の宮殿を訪れた銀髪の少年、トロワ・ダッソーナは独りごちた。
演習からの帰還後、データの分析に没頭していたところへ王宮からの緊急呼び出しがあり、急遽登城したのである。
トロワを、王国の重臣たちが総出で出迎える。
「トロワ様! ご足労いただきまして申し訳ありません」
「状況が状況だ、仕方あるまい。皆も混乱の中、対応ご苦労だった」
「はっ!」
重臣たちを引き連れ、豪奢な装飾が施された回廊を進む。
その先にある大広間。中央に敷かれた真紅の絨毯の上を、トロワは迷うことなく歩いていく。両脇には正装の騎士や官僚たちが整列し、深く頭を垂れていた。
トロワはそのまま最奥へと進み、空位となった玉座に悠然と腰を下ろした。
「ワタシは、本日よりトロワ・ダッソーナの名を捨て、父、国王シャルルⅡ世の正統なる後継者、シャルルⅢ世を名乗ることとする」
広間にいる全員が、新王の声を聞き漏らすまいと静まり返る。
「父と母が崩御し、国中が悲しみと混乱に包まれている。今こそフランクス王国一丸となり、この困難を乗り越えねばならない」
全員が一斉に最敬礼を行う。鎧の擦れる音と衣擦れの音が重なり、重厚で厳粛な響きが広がった。
「「「仰せのままに。我が王よ」」」
トロワ・ダッソーナは偽名であった。
これまでは身分を隠して一軍人として振る舞ってきたが、国王夫妻の急死により、王位継承者としての責務が回ってきたのである。
前王はまだ35歳と若く、自分の出番はずっと先のことだと思っていたが、運命は皮肉なものであった。
(やれやれ、意地悪なことを言った
トロワ改めシャルルⅢ世は、若干の後悔を抱きつつ、これから始まる激務への覚悟を決めた。
戴冠式は1週間後に執り行われる。