【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
地球自由連邦フランシスコ州にあるグレース大聖堂。エクス教の総本山であり、普段は多くの観光客で賑わう美しい場所だ。
だが今、そこにあるのは華やかさとは程遠い、深い悲しみの沈黙であった。
サミットテロで犠牲となった教皇ヒッカム・パールハーバの葬儀が執り行われているのだ。
大聖堂の前には、警備のために2機のHFが立哨している。機種はHFF-8Dクルセイダー。イーグル系とは異なる細身のシルエットで、全身がエクス教の聖色である白で塗装されている。巨大なメイスと、エクス教のシンボルであるⅩが描かれたラウンドシールドを携え、周囲を厳重に警戒していた。
その巨人の足元を、途切れることのない人の列が埋め尽くしている。
早朝から大勢の信者が詰めかけ、皆一様に喪服に身を包み、悲痛な面持ちで並んでいた。
教皇ヒッカムは、歴代教皇の中でも特に民衆からの人気が高い。貴族と平民を分け隔てなく接し、常に弱者に寄り添う姿勢が慕われていたのだ。一般弔問者は30万人を超えると予想されている。
そんな参列者の列に、場違いな空気を纏う一団がいた。
黒い動甲冑の護衛二人を連れた、一人の老人だ。
「あれって、皇国の元エンペラーじゃ?」
「なんでこんなところに?」
「異教徒が何の用だ」
ひそひそと、だが刺々しい声が聞こえてくる。参列者たちからの視線は冷ややかだ。
老人は皇国の上皇その人である。一般人に混じり、列に並んで順番を待っていた。
「連邦人め。言いたい放題言いやがって……」
「よい、放っておけ」
「しかし陛下……」
護衛の一人が周囲の陰口に殺気立つが、上皇は静かにそれを
一般弔問への参加は上皇自身の強い希望であった。VIP待遇ではなく、民衆と共に並ぶこと。護衛としては神経を削られる極限状態だが、主の意思は固い。
列が進み、ようやく大聖堂の中へと入る。天井の高い礼拝堂には、さらに多くの人々が祈りを捧げていた。
上皇が棺の前に進み出る。
周囲は、異教徒の元皇帝がどう振る舞うのかと固唾を飲んで見守り、一帯を静寂が支配した。
上皇は迷わずその場に跪き、胸の前でⅩを切った。エクス教の作法による祈りだ。
異教徒の頂点に立つ者が、エクス教の神に跪く。その事実に、礼拝堂内から大きなどよめきが起こる。それにつられるように、順番待ちをしていた信者たちも次々とその場に跪き始めた。
やがて、礼拝堂にいるすべての人が祈りを捧げる光景が広がった。
(ヒッカムよ。儂より先に逝ってしまったか……)
上皇と教皇は、古くからの友人であった。教皇は市民生活の向上について常に悩み、上皇にもよく相談を持ちかけていた。彼の理想はまだ実現の途上にあったというのに。無念でならない。
祈りを終えた上皇は、すぐにその場を立ち去った。
見送る人々の視線は、先ほどまでの冷ややかなものから、敬意を含んだものへと変わっていた。多くの者が上皇の背中に深く礼をする。異教徒でありながら故人を尊重するその真摯な態度は、人々の心を打ったようであった。
――
皇国軍宿舎の食堂は、重苦しい静寂に包まれていた。
普段の昼食時は活気に満ちている場所だが、今は帝と皇后の喪に服す期間だ。腕に喪章を巻いた兵士たちは、黙々と食事を口に運んでいる。
食堂の隅、空中に投影されたナノボット製ヴィジョンパネルからは、ニュース音声だけが虚しく響いている。普段なら喧騒にかき消されるその音が、今は食堂の隅々まではっきりと聞こえていた。
レイもゴウガと共に席についていたが、この空気では食事の味など分かるはずもない。二人とも沈痛な面持ちでニュースを眺めていた。
これまでの帝・皇后の功績や、新女帝即位のニュースを繰り返していた画面に、「速報」の文字が躍る。
そこに映し出された少年の顔を見て、二人は凍り付いた。
「あああ! あいつ!」
ゴウガが思わず声を上げる。レイもまた、箸を止めて画面を凝視した。
『……との発表がありました。フランクス王国の新国王が即位。その名はシャルルⅢ世とのことです』
ゴウガがリムロックの剣術大会決勝で敗れた相手。
そして、レイに母親の死因を知っていると告げた相手。
トロワ・ダッソーナがそこにいた。新国王として、玉座に座っている。
「あいつ、王子様だったのかよ……」
ゴウガは信じられないといった表情で呟く。決勝での敗北を根に持ち、必ず再戦をと誓っていたようだが、相手が一国の王となってしまっては、その願いも叶いそうにない。
(トロワがそんな地位にいたのなら、あの時の言葉に信憑性が出てくるな……)
トロワはレイの母親のことを知っていると言った。一国の王子、それも王位継承者であれば、高度な情報にアクセスすることは容易だろう。あの言葉はハッタリなどではなかったのだ。
レイは決意を固める。近いうちに父親に会い、すべてを問い詰めなければならない、と。
続く